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episode.69 私たちは

「……恩を売って何がしたい」


 時のプリンスは素直でない。

 普通にありがとうと言えばそれで終わる簡単な話だというのに、いちいち、敢えてややこしいことを言う。


「特に何も」

「まったく、訳が分からぬわ。我のことなど放っておけば良いというのに」


 相変わらず愚痴のような言葉を並べる時のプリンスだったが――数秒、間を空けて。


「……すまぬな」


 かなり控えめな声で礼を述べた。



 夜が明けた。

 視界も急激に開けたように感じる。


「本当に明るくなったな」

「はい。こういうことを繰り返すんです」

「これは興味深い」

「文化の違いですかね」


 盾のプリンスとそんな言葉を交わして、また新しい日が始まる。

 そして。


『フレイヤちゃん! 生きていたのね、良かった!』


 森のプリンセスから連絡があった。


 残念なことに私たちは連絡できるかどうかというところにまで思考が及んでいなかった。そのため昨夜は通信を試みるということはしなかった。彼女から通信があって初めてその発想に思考が向かったのである。


「森のプリンセスさん……!」

『急に人の世に飛ばされて驚いたわー』

「すみません、何というか」

『どうして謝るの?』

「あの……実はクイーンズキャッスルの球体が敵に斬られまして、それで……こんなことになったかもしれないみたいで」


 その後情報を交換した。


 こちらからは四人でいることを伝えたのだが、向こうもまた四人でいるそうだ――と言っても四人中二人は森のプリンセスの遣いのようだが――つまり、森のプリンセスは二人の遣いと共に海のプリンスと合流したということなのである。


『それでねー、今は避難所にいるのよー』

「避難所? ですか」

『最近物騒な事件が多発しているらしくて、不安な人や一人が怖い人はそこにいるみたいなのー。わたしたちもそこに入れてもらっているわー』


 人間に接近しているのか?

 ある意味勇者だ。


『早く合流したいわね。フレイヤちゃんも皆で避難所にまで来ない?』

「え……でも……避難所の場所が」

『あぁそうねー、ごめんなさい。待っていて、すぐに見つけるわー』

「見つけられそうですか? 私たちまだ森の中みたいなところですけど」

『きっとそんなに離れていないと思うの。だからきっとすぐに見つかるわー。高いところから確認するわねー。じゃあこれでね。また後でー』


 高いところから確認とはどんな方法だろうか、と思いつつも、一旦通信を終える。


「良かったですね、フレイヤちゃんさん。これでさらに合流できそうです」

「アオさん、ありがとうございます」


 プリンス二人は相変わらず互いに関わろうとしないが……私とアオは仲良くなれると思う。


 そうしているうちにフローラが迎えに来てくれた。


「フレイヤさーん! 来ーたーのーよー!」


 高い声と共に空から降りてきた可憐な花。


「会えて嬉しいです、フローラさん」

「生きてて良かったの! とっても心配していたのよ!」


 ついはしゃいでしまった。

 再会が嬉しくて。


「早速案内するのよ! ついてきてほしいの!」

「お願いします」


 森のプリンセスとも早く会いたい。



「フレイヤちゃん! 良かった無事だったのね!」


 フローラに案内してもらい、私を含む四人は無事避難所なる場所にまでたどり着くことができた。


 道中、襲われている人を救うため情緒不安定な山賊を倒したりしていたため、少々時間がかかってしまったけれど。けれども幸い皆大きな怪我もなく森のプリンセスらと合流することができた。


 会った瞬間、森のプリンセスは私を抱き締めてくれた。

 特別な感情なんてなくても……それでもとても嬉しく思った。


「一晩も男女二組で何してたんだ?」


 森のプリンセスの真後ろに立っている海のプリンスがそんなことを口にすると、森のプリンセスはその頭をはたいた。


「唇縫いつけるわよー」


 その時の森のプリンセスの笑みは底のない湖のような恐ろしさをはらんでいた。

 ちなみにウィリーはというと、蝶の姿のまま、恐ろしい彼女の周りを呑気に飛んでいる。


「これで全員揃いましたね」

「そうねー。今自由な者は全員揃ったわねー」


 そこまで言ってからふと思い出す。


「あ! ミクニさん!」


 彼女のこと、またしても忘れてしまっていた。


 ウィリーやフローラ、それにアオも。皆がこちらへ来ているということは、クイーンズキャッスルにいたのだからミクニもこちらへ来ているはずだ。プリンセスだからとかそういうことでないのだから、彼女だけがキャッスルに残っているとは考えられない。


「ミクニさんにはまだ会えていません」

「言われてみれば! 確かにそうね」

「どこへ行ったのでしょうか……近くにはいそうにありませんでしたし……」

「わたしたちも出会わなかったわー」


 謎だ。

 ミクニ行方不明事件。


「気の利くババア……どこ行ったんだよ……」


 海のプリンスは少し考え込むような真剣な面持ちでそう呟く。

 そんな彼は、直後、森のプリンセスに頬を張られていた。


「すぐにババアと呼ぶのはやめなさいー」


 森のプリンセスは笑顔なのだが、やはり怖さがある。



 それからは避難所内で過ごすことになった。

 住むところも何も持たない私たちにはもってこいな場所だと思ったのだが――。


「テメェ偉そうに何なんだよ!」

「ふざけるな。絡んできたのはそちらであろうが」


 早速問題が発生している。


 これは、若者の男に厄介な絡み方をされたアオを時のプリンスが助けるも喧嘩が勃発してしまったという、まぁ簡単に想像できそうな内容の案件だ。


 変に目立ちたくない私としてはこういうことにはなってほしくなかったのだが……。


「可愛いから別室で楽しく遊びたいなぁ~って言っただけだろ!」

「怯えておるだろうが」


 周囲など気にせず喧嘩をする二人。

 周りの人たちからは冷たい視線が注がれている。


「うっせえ! テメェに言われたくねぇ!」

「まともな反論もできぬとは笑い話よな」

「ふざけやがって! 変態みたいな格好してる野郎に言われたくねぇ!!」


 驚くほど感情的になっている若い男は突如手を動かして時のプリンスの仮面を剥ぎ取る。


 露出したプリンスの瞳は美しい青空のような色。


「せめてこのキモい目隠しだけでも外し――」


 男はそこで停止した。


 言葉を失った、というわけではない。急に全身が硬直した、というのに近くも思えるが、そうでもないのかもしれない。ただ、男の時が完全に停止したかのようなそんな異様な光景を、室内にいた誰もが目にすることとなったのだ。


 一方時のプリンスはというと、停止した男の手から仮面を素早く取り返し、すぐに仮面を装着し直す。彼は、やってしまった、とでも言いたげな苦々しい顔をしてる。自覚して何らかの力を使ったということもありそうではあるが――それにしては本人の表情が不自然だ。


 そのうちに室内の誰かがひそひそ話を始める。


「ねぇあれって……」

「目が合ったら石になる……みたいな……やつじゃない?」

「ええ……怖……」

「それじゃまるで……『化け物』じゃない?」


 心臓が跳ねた。


 その言葉は私にかけられたものではない、分かっている、けれども。


 ――私たちは人間ではない。


 そう突きつけられたみたいで、心が乱れた。

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