episode.31 生きているならそれでよし
『フレイヤちゃん大丈夫だったの!?』
戦いは終わった。
爪の武具をつける女性はウィリーの葉っぱ飛ばし攻撃で倒した。そしてミクニは愛のプリンセスがリボンを使ってぐるぐる巻きにし拘束した。ミクニは死んではいないが、リボンに完全に包まれた状態で私たちのすぐ近くに置かれている。
ちなみに、今は愛のキャッスルにて森のプリンセスと通話しているところだ。
「あ、はい。私は何とか。でも……フローラさんが……」
森のプリンセスは少しばかり不安そうな顔になる。
申し訳なさが胸の内を満たす。
『フローラに何かあったの?』
たとえ今隠したとしても、いずれは明らかになってしまうこと。それならば、今のうちにこちらから伝えておく方が、まだしも印象が良いだろう。それに、被害が出ているのにそれを伝えないというのは善い行いとは言えないだろうし。
両手の手のひらを合わせて舟のような形を作り、そこに乗せるようにして、フローラの現状を見せる。
「敵の攻撃を受けられて、それで……」
『まぁ……そんなことが……』
森のプリンセスは片手の手のひらで口もとを隠すようにしながら驚きの感情を露わにする。
無理もないか、フローラの背に傷ができているのだから。
驚かない方が不自然というものかもしれない。
とはいえ、これでも改善してきた方なのだ。傷を負った直後は背中も羽根も見ているだけで痛くなるような状態だったのだから、その時と比べれば今はかなり回復している。羽根もおおよそ形を取り戻しているし。
「ホントごめん! 森プリ! やっちゃったー!」
両手を合わせ謝罪の言葉を発するのは愛のプリンセス。
『もう、本当よ。こんなことになって。困るわ』
「ふえぇぇん」
森のプリンセスが怒り気味のような顔で言葉を放てば、愛のプリンセスは泣き出しそうな表情で情けない緩んだような声を漏らした。
そんな愛のプリンセスを見て、森のプリンセスはくすくすと笑みをこぼす。
『……相変わらず素直ね。嘘よ、冗談よ。フレイヤちゃんが無事だったから許すわ』
「え!? ホント!?」
『本当よ。でも、これでフレイヤちゃんも傷ついていたら許さなかったかもしれないわねー』
「えぇーっ!?」
愛のプリンセスはいちいち声が大きい。
『それにしても、フレイヤちゃんも災難だったわねー。まさか、よそのキャッスルに行っていた時に敵襲に遭うなんてー』
「遣いを派遣してくださってありがとうございました。本当に助かりました」
『いいのよー。わたしで良ければいつでも力になるわよー』
そう言ってもらえると心強い。
しかし一方で申し訳なさも抱いてしまう。
負傷したフローラは手当てを受けるため森のプリンセスのところへ帰ることになった。ウィリーはそれに付き添おうとしていたのだが、フローラはそれを断った。というのも、私はもう少し愛のキャッスルに残ることにしていたのである。フローラは私のことを心配してくれていて、それで、ウィリーに対しここへ残るよう言ったのである。
「あーあ! 台無しですよ! せっかく楽しもうーって思ってたのに!」
愛のプリンセスは座に腰を下ろし伸ばした両脚を上下にぱたぱたと動かす。
「敵襲には驚きました」
私は彼女と話すためにここへ来たのだ。
敵と戦うためにここを訪れたわけではない。
「ねーっ! 萎えちゃいます!」
「でも誰も死ななくて良かったです。……まぁ、怪我人は出ましたけど」
「とにかくフレレが大丈夫で良かったですーっ!」
「お気遣いに感謝します」
その後、ウィリーの立会いのもと、私は愛のプリンセスといろんなことを話した。
交わされた会話のほとんどは何ということのない平凡で重要事項も含まないものであった。いわば、ただのお喋り。友人同士が一緒にいる時に軽く交わすような会話と大差ない。
しかし、ちょっとした言葉の端々から、明るいだけではない何かを感じることがあった。
愛のプリンセスは少々落ち着きはないがひたすら明るく元気いっぱい――と、純粋な解釈で彼女を理解することはできなかった。
彼女は何かを抱えている?
いや、抱えていた、なのか?
どうしてもそんなことを考えてしまった。
「愛のプリンセスさん、少し気になることがあるんです。質問しても構いませんか?」
「へ? もちろん! いーですよっ」
「貴女はもともと人間なんですよね、確か」
愛のプリンセスは一瞬びくっと身体を震わせた。
「え……そ、そうですけど……どうしてそれを……!?」
「結婚式のドレスみたい、って、言ってくださいましたよね。この服のことを。私がクイーンになった時のことです」
「あ……。そうでした! 言いましたね!」
少し間を空け、その後に「でもそれが何ですか?」と続けた。
「人間だったところからプリンセスになられたのはどうしてなのかなって、少し気になって」
「アイアイがプリンセスになった理由、ですね?」
「はい。良ければ聞かせていただきたいなと思いまして」
すると愛のプリンセスは一旦言葉を切った。指先は柔らかな髪の先端に触れている。何かを迷っているかのように丸みのある瞳をくるくる動かし、何でもないところへ視線を向ける。そんなことを十秒ほど続け、やがて視線をこちらへ戻した。
「いーですよ! お話ししますっ」
愛のプリンセスがまだ人の世で普通の人間として生きていた頃、彼女はいじめられっこだったらしい。
住んでいた地域では赤茶の髪が珍しかったということもあり、周囲の同年代の子たちは彼女を温かく受け入れなかったのだ。
そして、彼女自身も、いじめられて育ったということもあってか落ち込むことが多かったそうだ。
現在とは間逆のような明るくない子だった、というのは、本人談。
そんな彼女は、ある時精神的に辛くなり追い詰まって、住んでいた場所の近くの森で自殺しようとしたのだが――制止する者が現れて――それが、森のプリンセスだったそうだ。人の世に出掛けてきていた森のプリンセスが、一人の自害しようとする少女を止めたのである。
「森プリに説得されてですねー、それで、死ぬのはやめたんですー。勝手に死んだら止めてくれた人にも何だか悪いような気もしちゃって」
「そんなことが……」
「でもでも、人の世で生きるのはもう嫌でした! だって色々鬱陶しいですから! そのことを森プリに相談したところ『わたしの暮らす世界へ来ない?』と言ってもらえて。それでアイアイは愛のプリンセスとして生きる道を選んだのですっ!」




