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episode.26 可憐な鬼?

 私はそれからフローラと一緒に過ごした。

 どうでもいいようなことを話したり、彼女が使う花を出現させる魔法のようなものを見せてもらったり。


 幸いここは危険性はない。

 もっとも、絶対大丈夫という根拠があるわけではないけれど。


 二人の時間をある程度過ごし心が打ち解けてきた頃、フローラは唐突にそんなことを言い出す。


「フレイヤさんのこと、アタシが鍛えてあげるのよ!」


 一瞬何の話か理解できなかった。

 きょとんとしてしまう。


「鍛えるって……どういう意味ですか?」


 クイーンズキャッスルには私とフローラの二人しかいない。物理的に考えれば寂しげになりそうなものだが、こうして喋っていると案外そうでもないのだ。二人でも賑やかさは感じられる気がする。


「言葉そのままの意味なのよ! フレイヤさんがクイーンの力を使いこなせるようお手伝いする、シンプルにそういうことなの!」


 フローラは宙で身体を回転させながら明るい声を出していた。


「戦闘能力を高めるということですね」

「そうそう、そんな感じなのー」

「自信がありません……」


 刹那フローラは一気に接近してくる。顔を顔に近づけてきた。彼女の頭部の大きさなど人間のそれと比べればずっと小さなものだというのに、今はとてつもなく大きく見える。彼女の顔面が視界を埋め尽くしている。


「だからこそ、なの! 鍛錬で自信をつけるの!」


 小さな妖精だというのに物凄い圧だ。


 とはいえ、彼女の主張も分からないではない。たとえクイーンとしての力を得たとしても、使いこなせなければ宝の持ち腐れ。特別な力というのは使いこなせて初めて意味をなすものである。

 それに、いつも誰かが近くにいる保証があるわけではないから、ある程度戦えるようになっておいた方が自分の身を守れるかもしれない。


「そうですね。確かにそれは重要そうです。鍛錬というのも一つの手で――」

「早速やるの!!」


 フローラは大きな声を被せてきた。

 両拳を顎の前辺りに集め、やや力み気味のように肩を引き上げて、顔面を私の顔のすぐ前にもってくる。


「早速鍛錬開始! なの!!」

「ま、待ってください、落ち着いて」


 フローラの勢いの良さに圧倒されつつも、言葉を発する。


「や、やる気満々ですね……フローラさん……」

「何なの? 何かおかしいって言いたいの?」

「いえ、そういうわけでは」

「言いたいことがあるならハッキリ言うべきなのよ!」


 フローラはハッキリ言えそうなタイプに見えるが、私はというと……。


「そ、そうですよね。ハッキリ言わなくては。では、クイーンの力を使いこなしたいので協力してください!」

「よーっく言ったのーっ!!」


 フローラは両手同時にガッツポーズ。それから右手を掲げる。するとその小さな手もとに弓のようなものが一つ現れる。フローラの体に相応しいサイズで蔓が巻きついたようなデザインの弓であった。


 彼女はそれをしっかり握ると、こちらに向かって発射前の構えのポーズをとる。

 矢は植物の茎のようなものでできているように見える。


「な、何を……!?」

「何をって意味が分からないの。どうしてそんなおかしな質問をするのか謎なの」

「いきなり弓で狙われても! 困りますよ!」

「まずは回避から練習するのよ。そのためにアタシは矢を放つのよ」


 回避訓練なのは理解できたが、なぜいきなり矢を放たれなくてはならないのか。

 いきなり矢を使うなんて危険ではないのだろうか。

 小さいものとはいえ矢を放たれることには恐怖感を覚える。それに、いきなり難題を突きつけられたような気分になって、何ともいえない感情に苛まれてしまう。


「もう少し簡単なことからお願いしたいんですけど……」

「この矢なら怪我はしないの! 万が一当たっても大丈夫ってこと!」

「それでも怖いです」

「あーもうっ、何でもいいからやってみるのよ!」


 迫ってくる矢、一本目。

 回避しようと身体を向きを変え足を前へ出す。

 しかし間に合わない。

 腰の辺りに何かが掠った感覚。ただし痛みはない。肌まで抉られていそうな感じではない。恐らくドレスの布の部分に掠ったのだろう、そんな雰囲気だ。


「遅いのよ! 尻に掠ってるのよ!」


 手厳しく言われてしまった。


「いきなり過ぎますよー!」


 早速泣きたい気分だ。


 けれども今の私には泣いている暇などない。そんなことをしている時間はないのだ、すぐに次の矢が来るだろうから。


 休む間もなく次の矢が迫る。

 風を切る音が空気を揺らす。


 私は咄嗟に片足で地面を蹴る――身体が風船になでもなってしまったかのように宙へ浮かんだ。


 ほんの少し力を入れて蹴っただけ。渾身の力を込めて地を蹴ったわけではない。しかしながら、渾身の力を込めて跳んだかのように、身体はふわりと空中に。弧を描くようにゆったりとくだっていってはいるものの、もう数秒足と地が離れている。


 刹那、矢が飛んできた。

 気を抜いていた私の脇腹にぶつかる矢。


「あーっ!」


 そのまま垂直落下して腰から地面に落ちた。


 ……本当に、もはや何が何だか。


「んーん、まだまだなのね」


 溜め息をつきつつ腰をさすっていると、フローラが近づいてきてそんな風に声をかけてきた。


「普通に当たりましたよ……?」

「だいじょーっぶ! あの矢は当たっても怪我しないのよ!」


 そんなことを言われても救いにはならない。


「立てたらもう一回! 頑張るのよ!」

「……心が折れそうです」

「フローラのクイーン強化プロジェクト! まだまだ始まったばかりなの!」


 どうやら彼女には遠慮というものが存在しないようだ。

 私は取り敢えず腰を上げる。


「そうですね……ではもう一回、お願いします」


 弱っていても座っていても何も始まらない。


「よく言ったの!」


 再び弓を構えるフローラ。


「お願いします」

「はぁーっい!」


 きっとこの力を使いこなせるようになってみせる。

 それまで努力を続ける。


 ……不安しかないけれど。

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