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プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜  作者: 四季
3章 還り、そしてまた
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episode.128 還される生命

「お帰りください!」


 ウィリーは杖を抱えたまま言い放つ。

 だが女性――ウツロは撤退する気など一切なくて。


「それは無理」


 言って、両手の手のひらを前方に向ける。

 放たれるのは黒い塊。エネルギーの塊のようなそれが無数に放たれ、正面に向かって数えきれないほど飛んでゆく。


「あわわわ……」


 まさかの攻撃にウィリーは目をぱちぱちさせる。彼は杖を前に出して攻撃を防ぐがそれも一時的な対応にしかならない。長時間防ぎ続けることはほぼ不可能だろう。

 一方その近くにいるフローラはというと、冷静に弓を構えて矢を飛ばし、丁寧に塊を打ち落としていた。が、そのやり方ではすべてを打ち落とすことは叶わず。ウィリーの一時的な防御よりかは意味があるとはいえ、数で圧をかけられればどうしようもない。まともな対抗手段にはならない。


「ウィリー! しっかりするのよ! 耐えるの!」

「あばばば……」

「それでも遣いなの!? 強く戦うのよ!!」

「う、う……」


 ウィリーは涙目になり泣きかけの子どものように声を震わせる。

 背後で横たわっている時のプリンスは口角を引き下げて「見ていられぬわ……」と愚痴をこぼすように独り言をこぼした。


 その時、ウツロは胸の前で近づけた二つの手のひらの隙間に黒い光を生み出していて。しかし会話に意識を向けていたウィリーとフローラはそれに気づいておらず。時のプリンスだけがそれに気づき、どうにかしようと立ち上がろうとするも立ち上がれず――そして、開かれたウツロの手のひらから黒い光線が放たれる。


 ウィリーらがそちらへ目をやった時には、既に、光線はすぐそこにまで迫っていた。

 もはやできる対処などなく。

 ウィリーは反射的に近くにいたフローラを抱き締め、目を閉じ、その場でじっとする。


 ……しかし、彼らが黒き光線に焼き尽くされることはなかった。


「すまない、ぎりぎりになってしまって」


 黒い光線を防いだのは、駆けつけたばかりの盾のプリンスだった。

 彼は厚みのある鋼鉄に見える大きな盾を身体の前に一枚立てている。


「盾のプリンス様……!!」


 面を上げたウィリーは涙目になっていたのを隠そうとはせず安堵の大きな声を発した。


 刹那、上空から降り注ぐ青白い光。

 複数の光線、それらは、すべてウツロを狙ったもので。


「……ッ!!」


 光の筋、攻撃を浴びたウツロは、獣の呻き声のようなものを短く発してからその場にしゃがみ込んだ。

 それと同時に上から降下してきたのは杖のプリンセス。

 ベールの裾をなびかせながら彼女はしっとりと着地する。


「お待たせしました」


 盾のプリンスに続いて杖のプリンセスも現れたことでウィリーの表情はより一層明るいものへと変化した。


「弱い者を狙うというのは実に卑怯です」


 杖のプリンセスは握っている杖の先端をウツロへ向ける。


「罰を!」


 杖から放たれた青白い光がウツロへぶつかる。


「ぐッ……」


 ウツロは両腕を前にだし身を護るような動作をする。しかし襲いかかる光の威力は凄まじく、腕だけで防げるような次元の問題ではない。


「な……ッ!!」


 眩しさに瞼を開くこともできぬまま、ウツロは光に包まれた。


 それから十数秒が経ち。

 杖のプリンセスが放った光が広がるようにして消え去ると、そこには、ウツロの器であった女性の身体が横たわっていた。


 残された身体を見つめる誰もが怪訝な顔をしていた。

 しかし盾のプリンスだけは異なっていて。


「待ってください、よく分からないものに触れてはいけませんよ」


 彼だけはそれほど警戒せず倒れている女性の身体へ近づき様子を確認している。


「……彼女を知っています」

「知っている? ……そうなのですか?」


 杖のプリンセスは僅かに目を開いた。


「はい、前に」


 真顔でこくりと頷く盾のプリンス。


「知り合いですか?」

「一度出会ったことがあります。基地で襲われまして」

「そうでしたか……しかし、襲ってくる者とあれば、より危険なのでは?」

「恐らくただの人間です」


 理解できない、というような顔をする杖のプリンセスだったが、だからといって無視することもできないようで。


「では暫し様子を見守りましょうか」


 淡々とそれだけ言った。



「……あ」


 しばらくして、女性が目を覚ます。

 地面に正座した杖のプリンセスの太ももに頭を当てるようにして仰向けに寝かされていたウツロだったもの――厳密にはウツロに乗っ取られた女性の身体だが――それが意識を取り戻した。


「ここ、は……?」


 女性はまだ眠たそうな目つきのままで厚い唇をゆっくり動かす。


「目覚められたようですね」


 杖のプリンセスはまだぼんやりしている女性を聖母のような眼差しで見守りながら言葉を返す。


「安心してください、安全なところですよ」

「安全、な……ところ、ぉ……?」

「起きられますか? 話はそれからです」

「はい起きますぅ」


 女性は手のひらを地面について自力で上体を起こす。負傷しているわけではないということもあって特に問題なくすんなり身体を起こすことができた。


「元・剣のプリンス」

「へ?」

「ご存知ですか」

「はい! 知っていますぅ」


 杖のプリンセスは心の中で何か確認するかのように一瞬目を細めたが、すぐに視線を女性へ戻した。


「痛むところはありませんか?」

「大丈夫ですよぅ」

「なら良かった。ではこのまま人の世へ送ります」


 杖のプリンセスは真っ直ぐに立ち上がる。


「あ、あのぉ……」


 女性も同じように立ち上がった。

 が、立ち上がるや否や、やや遠慮がちに口を開く。


「元・剣のプリンス様とは……どういう関係性なのでしょうかぁ?」


 女性は控えめに問いを投げた。

 杖のプリンセスは飛び出した意外な問いに戸惑い――しかし、少しして、そっと答える。


「かつて、同志でした」


 杖のプリンセスはそれ以上何も言わなかったが、女性の方もそれ以上何かを聞き出そうとはしなかった。


 その後、女性は杖のプリンセスに導かれ、人の世へと戻された。

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