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プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜  作者: 四季
3章 還り、そしてまた
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episode.108 その女性は彼女ではない

『でも、このまま放っておくわけにはいかないわよねー。どうしようかしらー。助けに行く?』


 森のプリンセスは右手を右頬にあてがいながら口を動かす。

 顔の左脇に垂れた細い三つ編みが頭部の動きにリンクして揺れた。


『助けに行くならあたしが行く!』

『わたしも行きたいけれどー……お邪魔かしらー』


 剣のプリンセスの発言に対して森のプリンセスも助けに行きたいという意思を述べた。


『待ってください皆さん、一度落ち着いて』


 助けに行くということに関しての言い合いになりそうなところを制止したのは杖のプリンセス――彼女は常に冷静さを保っている。


『そもそもまだ助けに行くという話にもなっていないのです、話を飛躍させてはなりません』


 パネルに映し出されている両手を腹の前で重ねた杖のプリンセスはひとまず落ち着くように注意する。

 だがその注意は届かず。


『でも! 心配なんです!』


 剣のプリンセスは素早く言い返した。


 とにかく協調性がない。プリンセスたちは思い思いの言葉を発するので、話し合いになっていない。

 そんな様子を見ている盾のプリンスは、早く終わってほしい、という思いでいた。


 こうして喋っている間にもクイーンの身に何かが起きているかもしれない――そう考えると、彼はどうしようもなく揺さぶられた。


 このようなことをしている場合ではない、そんな言葉ばかりが頭の中を巡る。


「あの」


 もやもやしていた盾のプリンスは、やがて切り出した。


『どうしました? 盾のプリンス』

「私が行きます」


 それを聞いた杖のプリンセスは眉間にしわを寄せる。

 おかしな生き物が二足歩行しているところを目撃してしまった時のような顔つき。


『本気ですか?』

「はい。基地へも行ったことがありますし」

『ですが、貴方一人では無理ではないですか?』

「……やります」

『そもそも貴方は攻撃手段を持たない身、一人で敵の中に飛び込むのは得策とは思えません』


 それに対して盾のプリンスは目を細めて「行かせたくないのですか」と返す。


 そこへ入り込んでくるのは――。


『かっこつけんなよ、盾のプリンス』


 海のプリンス。


『できねーことをできるみたく言うなよな』

「いちいちうるさい」

『そういうとこだよ! 他人の意見を聞こーとしねーとこ。そんなだからいつまでも行ったり来たりで弱いんだっての!』


 徐々に殺伐とした空気に傾いていくのを止めるのは杖のプリンセス。


『静かに!』


 彼女の一声で静けさが戻る。

 海のプリンスは言葉を発するのはやめたが不満は残っているようで苦いものを舐めたような顔をしている。


『海のプリンス、言って良いことと悪いことがあるのですよ。たとえ事実だとしても、です。少しは考えてから言葉を発しなさい』

『ババアうぜー』

『……聞いていましたか? 言って良いことと悪いことがあるのですよ……?』

『ヤベッ、怒られる』


 海のプリンスは舌をちょこんと出してお茶目な顔をする。

 それを目にした杖のプリンセスは、はぁ、と溜め息をついた。


『あの……!』


 時のプリンスが映っていたパネルに突如映り込むアオ。


『あらー、アオちゃんどうしたのー?』

『あの、疑問に思っていたのですが』

『何かしらー』


 アオは真面目な顔で発する。


『フレイヤちゃんさんがどこへ連れていかれたかは判明しているのですか?』


 数秒の沈黙。

 その後に。


『そうだそうだそうだ! よく考えたら! どこへ連れていかれた分かっていないのよね!?』

『そうだったわねー』

『確かに、情報はありません。基地というのも盾のプリンスの想像です』


 剣と森と杖は口々に言葉を発した。

 時のプリンスは呆れたような顔をしている。


『フレイヤちゃんさんが基地にいるかどうか調査してみる必要があります。なので私、そのために動きます』


 そう述べるアオの表情は真剣そのものだった。


『アオ!?』

『基地のことは詳しいですし、力になれるかと』

『待てアオ。わざわざ危険に飛び込むな』


 時のプリンスの言葉はアオの耳に届かない。


『フレイヤちゃんさんが基地にいると確定すれば取り戻すべく動けば良いのです』

『それはそうねー』

『どうでしょうか?』

『悪くはないかもしれないわねー。でも、アオちゃんを敵地へ行かせるなんて心配だわー』


 森のプリンセスがそう言ったのを聞き一瞬安堵の色を浮かべた時のプリンスだったが。


『ご安心ください! これでも戦闘システムは搭載されています! ……少しだけ』

『ならいいかもしれないわねー』


 そういう展開になったため、結局汗を垂らすこととなる。


『待て待て、勝手に話を進めるな』

『時のプリンス、貴方、過保護な親みたくなっているわよー?』


 森のプリンセスは黒い笑みを向ける。

 が、すぐに柔らかく清らかな笑顔に戻って。


『でもまぁそうよねー。アオちゃんみたいな可愛い女の子を一人敵地に乗り込ませるなんていうのはおかしな話よねー。捕まるリスクもあるのだし……』


 そこまで言って、一旦言葉を切る。少しばかり何か考えているような顔をし沈黙を守る森のプリンセスだったが、やがて、両手を顎の前で合わせて最高の笑顔を作る。


『わたしが同行するわ!』


 パネルを通しても通信ではあるが、アオと森のプリンセスの視線が同じ色で重なる。


『はい! ぜひ!』

『よろしくねー』


 すっかり意気投合した二人。

 周囲はそれ以上何も言えない。

 話はそこでまとまり、アオと森のプリンセスが調査に行くことになった。



 ◆



 ふと目を覚ますと知らないところにいた。

 生まれ育った家でもクイーンズキャッスルでも避難所でもない天井をぼんやり見つめる。


 ――私は何をしていた?


 身体は確かにここにある。膨らみ控えめなドレスを着ているのも変わりはなさそうだ。ただ、どうしてか、天井だけは知らないもので。私はまだ覚醒しきっていない脳で何か考えようとする、が、なぜかもやがかかったようになって起きることができない。


 その時、部屋の四方の壁のうちの一面が、キィと音を立てて開いた。光が入り込んできた方へ視線を向けると、アオにそっくりな女性が立っていた。


「……ア、オ……さん?」


 思わず彼女の名を口にしてしまう。


「……いえ、違い、ますね……すみません」


 青い髪、無機質な瞳、耳もとには黒っぽい機械のようなものがついており、メイド服のような衣装をまとっていて――容姿だけだとアオとほとんど見分けがつかない。が、目の前にいる彼女はアオではないのだということは、もやのかかった頭であっても分かった。心が停止したような表情、これは明らかにアオのものではない。

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