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プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜  作者: 四季
3章 還り、そしてまた
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episode.103 いくつもの夢

「どうでした?」


 様子を見に盾のキャッスルへ行ってくれていたミクニがクイーンズキャッスルに戻ってきた。


「やっぱり敵の攻撃があったみたいね」

「ええっ」


 攻撃? どのようなものだろう。海のプリンスがされたというよく分からない術のようなもの? それとも物理的な攻撃? あるいはそのどちらでもない新手?

 脳は勝手に高速回転する。

 安全なところにいても――いや、安全なところにいるからこそ、盾のプリンスの身を案じてしまう。


「でも大丈夫そうだったわよ」


 ミクニは前に垂れてきた髪を右手でさらりと後ろへ流して涼しい顔をしていた。


「えと、あの、攻撃というのはどういう……」

「術ね」

「言っていたあれですか?」


 ふう、と息を吐き出すミクニ。


「恐らく、ね」


 彼女は短くそれだけ返してきた。

 その時、通信が入る――相手は盾のプリンス――すぐに対応する。


「はい」


 いつも通り宙に現れるパネル。

 勝手に出現するなんて、いつ見ても不思議な仕組みだ。でも、最初の頃とは違って、今はそれが普通と感じるようになっている。それが急に出現するのを目にしても驚きは一切ない。


『どうも』


 パネルに映し出された盾のプリンスは会釈する。


「いや、その導入にこだわらなくて良いですよ」

『な……?』

「それより、大丈夫でしょうか? 敵襲があったのですよね」

『あぁ。だが問題ない、無傷だ』


 確かに負傷している様子はない。

 全身が見えているわけではないが、髪も顔も汚れてさえいない。

 それは良かった、と笑みを浮かべると、彼もまた穏やかな春の日差しのような笑みを返してきた。

 彼の笑みは薄味だ。微かな表情の変化を読み取れなければ彼の感情を読み取ることは難しいだろう。でも私には分かる。一般的なそれと比べればかなりさりげないが、表情の変化は確かにあった。


『夢のようなものを見た』

「噂の、ですかね。……どのような夢を?」


 これ以上踏み込んではならないかな、と塵ほどだけ思ったが、脳が聞いてみるという判断をくだすのは意外と早くて。


『君の偽者に嫌われる夢』


 盾のプリンスは真顔で答えた。


「え……私が出ていたのですか?」

『そうだ』

「えええ……」


 勝手に出さないでほしい、それが正直なところだ。私の顔で皆に迷惑をかけられたりやらかされたら困ってしまう。そんなことになったら、私自身も嫌われかねない。

 とはいえ、敵に向かってやめてほしいと言える機会などなく。

 結局やり放題させておくしか道がないのだからもやもやしてしまう部分はある。

 盾のプリンスは良き理解者だから敵の術によって私を嫌いになるということはなさそうだけれど。


「そんなこと、あるんですね……」

『私も驚いた』

「もし夢の中で失礼なことを言っていたらすみません」

『いや、あれは君ではない。君を騙る敵だ。だから君は悪くない』


 こちらが数秒の間の後に「ありがとうございます」と礼を述べると、彼はこくりと頷くような動きをした。



 夢、か。

 通信が終わってから、私はそんなことを考える。


 もし私が仕掛けられるとしたら――どのような内容のものを見せられることになるだろう、なんて、何の生産性もないのに想像してしまう。


 祖母との別れの悲しみ? 母に嫌がらせされる? あるいは、プリンセスプリンスらとの別れとか?


 色々考えてみるけれど答えは出ない。


 でもそれも当然だろう、その時が来るまで答えは得られないのだから。


 嫌なところを突いてきそうだけれど、盾のプリンスでも逃れられたのだから私でも逃れられる可能性はありそうな気もする――こんな風に言うと彼に失礼かもしれないが。


 何にせよ、今は情報を集めておくことが重要。

 知るうちにそこから見えてくるものもあるかもしれない。



 ◆



 剣のプリンセスは杖のプリンセスと通話していた。


「フレイヤさんはそう言ってくれるんです、優しいから。でもあたし、どうしてもすっきりしなくて。これからどんな風に振る舞えば良いのか、って、何だかとても不安で」


 独自の環境を抱く剣のキャッスルは今日も熱気に包まれている。


『そうですね。しかし気にしないでいるしかないのではないでしょうか』

「でも……」

『剣のプリンセスとしてできる限りのことをする、全力で任務にあたる、結局のところそれしかないでしょう。働きで信頼を取り戻すのです』


 落ち着いている杖のプリンセスは荒さのない声で意見を述べる。


「そうですよね……」


 剣のプリンセスはそれだけ返す。

 刹那、背筋に冷たいものが触れるのを感じた。


「え」


 彼女がそうこぼした時には、既に、辺りが真っ黒に塗り潰されていて。


「何これ……」


 剣のプリンセスは一人闇の中で瞳を震わせる。

 つい先ほどまで通話していた。にもかかわらずこのようなことになった。剣のプリンセスは理解できない。何が起きているのか把握することさえ叶わず、ただ、どこからか敵が来ても良いように剣を構えようとする。

 剣を抜こうとした瞬間、暗闇は晴れ、剣のキャッスルのような場所に戻った。


「え……戻っ、た……?」


 剣のプリンセスは辺りを見回す。広がっている世界は明らかに彼女が知るキャッスルだ。ただ、剣のプリンセスは、その場所が本物のキャッスルとは思えず。少しばかり違和感を覚える。キャッスルに限りなくそっくりな別の場所なのではないか、と考えてしまって。彼女は剣の柄に触れたまま動きを止める。


 その数秒後、剣のプリンセスの視界に一人の男性が入った。


「お父様!?」


 思わず叫ぶ。

 それとほぼ同時に頭に痛みが走る。


「どうして……」


 ただ、頭の痛みは一瞬のもので、すぐに落ち着いた。


「可愛い娘! こっちへ来い、剣の練習でもしよう」


 在りし日の父――先代、剣のプリンス。

 彼は片手を差し出した。


「どうしてお父様が生きているの」


 剣のプリンセスはすぐには手を取らなかった。

 彼女の中には警戒心があったのだ。


「なーに言ってんだ? 寝ぼけてるのかあ?」

「違う……お父様はもう、死んで……」


 すると目の前の男性は剣のプリンセスの片方の手首を掴む。


「いいから! 訓練しよう!」

「あ……」

「俺の娘だ、絶対強くなれる!」

「待って……」


 手首を引っ張られる剣のプリンセス。

 彼女の瞳に確かにあった目の前の者への警戒心という輝きは次第に薄れてゆく。


「ずっとここにいればいい! 二人で練習しよう!」

「……お父、様」

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