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プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜  作者: 四季
3章 還り、そしてまた
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episode.99 盾として、ではなく

「どうも」


 いきなりやって来る盾のプリンス。

 彼はいつもこんな感じだ、何の前触れもなく唐突に訪ねてくる。


「盾のプリンスさん、キャッスルは見張っていなくて良いのですか?」

「ミクニというあの女性に任せている」

「そうなんですね、大丈夫なのなら安心しました」


 彼は盾のキャッスルが好きでないのか? そう疑問を抱いてしまうくらい、彼はやたらとクイーンズキャッスルへ来る。しかも一度やって来るとなかなか帰ろうとしない。少しでも長くここにいたいとでも言うかのように振る舞う。彼に引きこもり傾向があったという話は聞いていたので、さすがに盾のキャッスルが嫌というわけではないのだろうが……。今はどう思っているのか? そこは知ることができない。ただ、今の彼としては、盾のキャッスルにいるよりクイーンズキャッスルにいる方が快適なのだろう。そのくらいは想像できる。


「でも良いのですか?」

「何が」

「長時間ここにいて、です。最近よくここへ来ていますよね」


 すると彼は頭を横へ倒す。


「嫌か?」


 放たれるのは、直球な問い。


「いえ、そういうわけでは。ただ、ここにばかりいて本当に大丈夫なのかなーと思いまして」


 盾のプリンスは、微かに俯き気味で視線を逸らし、少しだけ間を空けてから「いいんだ」と小さめの声で返してきた。

 奥にあるものをさりげなくちらつかせるかのような言い方。

 言いたいことがあるなら言えばいいのに、と思ってしまう。


「何か、盾のキャッスルにいたくない理由でもあるのですか?」


 一応尋ねてみると。


「……なぜ」


 盾のプリンスは目を開き困惑したような面持ちになる。


「なんとなくですが……言いたいことがあるみたいに見えたので」


 そう返すと、彼は開いていた目を戻してから、今度は思考するかのように目を細める。

 打ち明けることに迷いがあるのだろうか。

 言いたいことを言おうとしているのかもしれないので、取り敢えず黙って待っておく。


「あのミクニという女性、なのだが」


 やがて彼は口を動かし出す。


「気まずい」

「そういうこと、ですか」

「……気づいていたのか?」

「はい、薄々は」


 それはそうだろう。

 あまり相性の良くなさそうな二人だ。


「敵だったことを蒸し返す気はない、信頼していないわけでもない、が……どうしても、馴染めず、何とも言えない気分になってしまう」


 彼は言いづらいことを言っているような固さのある表情を浮かべていた。

 私を見下ろす黄色い瞳は曇り空。


「無理するのは良くないですね」

「ここにいる方がずっといい。……君に対しては、居座って申し訳なく思うが」


 どうして気づかなかったのだろう。

 もっと早くそこへ思考が至れば良かったのに。


「以前のようにミクニさんにこちらにいていただく形にしましょうか。それならプリンスさんは盾のキャッスルで過ごせます」

「……君は困らないか」

「大丈夫ですよ! 私、実は結構ミクニさんのこと好きなんです」


 さっぱりしているミクニは嫌いじゃない。


「ではそうしてほしい」

「はい! じゃあ早速」

「待ってほしい」

「えっ」


 意外な形で待ったがかかる。

 不思議に思っていると、片手を掴まれた。


「君と二人でいるうちに伝えておきたいことがある」


 上半身をぐっと前に出してこられる。

 顔と顔の距離が一気に近づいた。

 そんなに近づけなくても……と内心突っ込みを入れつつも、できるだけ落ち着いて対応するよう心がける。


「何ですか?」


 彼は、実は、とは発したが、言い淀む。

 息苦しさを感じるような顔をする盾のプリンスを見ていたら、こちらまで息苦しさを感じているような気になってくる。

 きっと彼には彼の葛藤のようなものがあるのだろう。

 それですぐには言葉を紡げないのだろう。


「プリンスさん?」


 顔を覗き込むと、彼は急に数歩後退した。


「えっと、あの、大丈夫ですか?」

「……勇気が足りない」


 何だそれ。


「君にはないか、言いたいことがあるのに勇気が足らず言えないこと」

「ありますよ」

「なら分かってもらえるだろうか、この上手く言えずもやもやする感覚」


 弱気になってそんなことを言い出す彼を見ていたら何だかおかしくて、笑ってしまった。


「なぜ!?」


 目をぱちぱちさせる盾のプリンス。


「す、すみません……つい、笑ってしまって……」

「なぜ笑う!?」

「盾のプリンスさんって独特ですよね」

「……よく分からない」


 困ったように視線を横へやる。

 言葉が途切れた。

 こちらから切り出すなら、ここが狙い目かもしれない。


「プリンスさん、私もね、実は伝えたいことがあるんです」


 彼の視線はすぐにこちらへ戻った。


「これからも一緒にいてほしい、そう思うのです」


 今さら躊躇うことはない。

 機会があればはっきり言おうと思う。


「貴方が連れていかれていなくなった時、寂しくて、気持ちに気づきました。私には貴方が必要です」

「やはり、盾がないと落ち着かな……?」


 違いますよ。

 やめてください。


「必要なのは貴方です」


 誤った解釈をされないよう、はっきり言っておかなくては。


「盾の力で護ってくださることには感謝しています。が、その意味だけで必要と言っているのではありません」

「そ、それは……」


 珍しく狼狽えている。


「いきなりすみません。でも、これだけは伝えようと思って」

「ええと……その……こちらこそいつも世話になっている、が……」


 何だか挨拶の一種みたいになってしまっている。


「これからも一緒にいてくれますか?」

「それは、もちろん」

「良かった」

「私も……君といたい。……でき、れば」


 盾のプリンスがかなり分かりやすく照れた顔をするものだから、こちらまで恥ずかしくなった。

 だが、抱いている気持ちを伝えられたのは良かったと思う。

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