第二章 1.
翌朝、室伏と野上はホテルをチェックアウトすると、駅に向かっていった。新幹線の到着まで一時間あったため、二人は駅ビルの中にある店で同僚達の土産物を物色することにした。
「これなんていいんじゃねえか?」
野上がそう言うと、室伏は軽く頷いた。
「うん、いいね」
ふと、外の方から「――界の膿を出し切ることでの既得権益の打破ッ!これしかありませんッ!」と、野太い男の声が聞こえてきた。見ると、濃い顔のスーツ姿の中年男性が辻立ちをしながら政策を声高に叫んでいた。身につけているタスキから彼が衆議院議員選挙の立候補者であることがわかった。
「既得権益の打破、か……。あの政党って、アレだよな。最近、話題のタレントが党首の……日本革命党だっけ?」
野上が候補者の後ろに立つ幟を指差しながらそう言った。
「なあ、アンタはどう思う?」
「どうって?」
室伏は、そう言った。
「既得権益をぶっ壊してくれるかって話だよ。……大企業や与党にも噛み付いてるって話だしよ」
「いや、俺はそうは思わないな」
室伏はそう言うとにこりと笑った。
「なんで?」
野上はそう言った。
「歴史を振り返ればわかるさ。大抵の場合、既得権益を壊した奴らが次の既得権益の座に収まってる。そして、そいつらに不満を持つ奴が次の破壊者になる。そんな、悪循環なんだぜ?」
野上がわからないというような顔をすると、室伏は、ふいっと、笑った。
「愛の寓意って絵を知ってるか?ブロンズィーノって画家が描いた絵だよ。人間ってのは、あの絵のように複雑に入り組んでんだよ。既得権益を破壊しようとしている=ヒーローって考えるのは安直だと思うな。……なんせ、人は仮面を被っているんだからね」
野上はわからないという顔をしながらも室伏の言葉に軽く頷いた。