第一章 3.
3.
翌朝、室伏と野上はホテルの食堂にいた。朝食は、ビュッフェ形式で、並んでいたのはうどんやラーメン、寿司など当たり障りのないものばかりだった。
「で、今日はどこ回るんだ?」
野上はトーストにかじりつきながらそう言った。彼は朝から不満そうだった。
「K商事と田中貿易だな」
室伏はそう言った。彼の背後には池田満寿夫のリトグラフ「宗達讃歌」が掛けられていた。
「田中貿易か……。俺、あそこの社長、苦手なんだよな」
「そうか?」
「アンタは気に入られているからな。あまり気にしなくていいし、だから、そんなに呑気なんだよ」
野上は不満そうに口をへの字に曲げながらそう言った。
「……次のニュースです。昨夜、すめらぎ市内で、高倉一郎さんが何者かに殺害される事件が起きました」
ふと、テレビのニュースが流れる。その名前に室伏は聞き覚えがあった。
「どうした?」
野上はスープのカップに口をつけながらそう言った。
「いや、昔の知り合いと似た名前の奴がニュースに出ていてな」
室伏がそう言うと野上は「そうか」といった。
「聞かないのか?」
「別に?関係ないしな」
「そうか」
「さ、はやく食べちまおうぜ?あそこの社長、時間に煩いからさ」
野上は、笑いながらそう言った。