第一章 1.
1.
その日、室伏貴明は長細い荷物を大事そうに抱えながらバスの一番後ろの座席に座っていた。
重い荷物を抱えながら帰宅時間の街を歩くのは思いのほか大変だった。中身が高価なものというのもあるのだろう、いつも以上に神経を使ってしまった。
「こんなことなら送料をケチらず配送にしておけばよかった」
ポツリとそう呟く。
無表情な自分の顔と薄暗い車内が映り込む眺めた街の景色はネオンやイルミネーションでキラキラと輝いていて、道行く人たちは寒そうに背中を丸めながら足早に歩いていた。今は12月、早いもので今年もあと二週間で終わりであった。
「次は、丸々町、丸々町…」
掠れた声のアナウンスが聞こえる。
室伏は窓枠近くに付けられたブザーを押す。ビィ、という電子音の後にランプが点灯した。
「はい、次、止まります…」
アナウンスの後、しばらくしてからバスが停車すると室伏は荷物を抱えながら運賃箱まで歩いて行くとポケットの中からICカードを取り出し運賃箱の上にかざした。
ピッ、という電子音がするとICカードをポケットに仕舞い、運転手に一礼してからバスを降りた。
バスを降りると室伏はそのままバス停の前にあるホテルに入っていった。