4話 自己紹介
「ん………」
「ん?起きた?」
目を開けると、目の前に銀髪の青年がしゃがみこんでいる。
あれ、私……
「大丈夫?」
銀色に見えた髪は月の明かりでてらされた灰色の髪だった。
先程の青年だ。青い瞳が私を覗き込む。
「だ、大丈夫。ごめんなさい…。」
先程の失態を思い出し顔をさげる。
初対面の人の前で泣きじゃくり、あげく眠ってしまうなんて。
「いや、謝らなくていい。それより、帰れる?」
「え?あっ!」
腕時計を指さす青年につられ、時計を見ると深夜1時。
終電を半刻逃していた。
「あー…大丈夫、です……。」
今日はタクシーで帰ろう。
幸いこの辺りはすぐにタクシーが捕まるから帰れるだろう。
「あの、貴方は…?」
「ん?あぁ、俺はアイル。よろしくね、中井麗華ちゃん。」
「え、あ、え。」
青年は帰れるのか聞こうとしたら、自己紹介をされてしまった。
そして、何故か名前を知られている。
「あ、まだ名前聞いてないんだっけ。ごめん、君は?」
「え、あー、中井麗華です。よろしくお願いします。」
「うん、よろしくー。」
流されるまま挨拶をする。
あれ、私もしかしてヤバい人の前で醜態晒した??
「あ、えっと、アイルさん?は帰れそうですか?」
「俺?うん、帰れるよー。」
車通勤の人とかかな?羨ましい。
とりあえず帰れるようで一安心だ。
私が眠っている間ずっと横にいてくれたようだし、私のせいで帰れないのは困るからね。
「あ、では帰りましょうか。ありがとうございました。」
「えー、もう帰るの?」
「え、えぇ、もう遅いですし…」
「夜はこれからだよ?」
っっっっ。
この人、危ない人かもしれない。
話を聞いてくれて、起きるまで横にいてくれて、いい人だと思ったのに。
体が目的なのだろうか。とりあえず帰ろう。
「あ、明日も仕事があるので!!!」
「明日?」
ちょっと強引に断ろうとしたら、アイルさんはキョトンとしたあと、にやぁと悪い顔をした。
「そうだね。明日、楽しみだね。」
一瞬、何かゾクッとするものを感じ一歩引く。
「夜遅いから、送っていこうか?」
「結構です!」
あ、今のは失礼だ。
助けてくれたのに。隣にいてくれたのに。
「あ、ご、ごめんなさい。」
失言に謝ると、アイルさんは気にもしなかったかのようにいいよと言ってくれた。
なんだか掴めない人だ。
「あの、今日はありがとうございました。」
「うん、気をつけて帰りなね。」
アイルさんが手を振ってくれ、私はお辞儀をして屋上をあとにする。
……そういえば、アイルさんはどうやって屋上に入ったのだろう。