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悪役令嬢、婚約破棄シリーズ

婚約破棄しろと周りに言われていますが、僕にその気はありません!

作者: 巫月雪風

ギリムは、婚約者であるクレアに対し、婚約破棄をするよう周りに言われていた。


しかし、ギリムは絶対に婚約破棄などしたくなかったのである。


なぜ、婚約破棄するよう言われるようになったのか?


そして、二人はどうなってしまうのか?

「クレア・レゾナンス!お前との婚約を破棄する!」


 彼がそう叫んだ。


「お前は公爵令嬢という地位を利用し、他者を虐げ、挙句の果てには平民ながら特待生として学園に入ったマリナに対して犯罪紛いの嫌がらせを行った!!その行為、王太子として許す事は出来ない!!よって私は、お前との婚約を破棄し、マリナと新たな婚約を結ぶ!!!」


 彼はそう言うと、僕に顔を向けた。


「という感じで言うんですよ。ギリム様」


 彼は僕の友人の貴族だ。

 いま、僕はこれから行われる国王である父主催のパーティ開催にそなえ、控室にいる。

 僕は王太子なので、控室と言ってもそこそこ広いし、友人である高位貴族も数人いる。

 ついでに、先ほど名前の出たマリナもいて、なぜか僕の隣に座って僕にくっついている。

 僕は今、彼らから婚約破棄しろ、と迫られている。

 困るのは、彼らがそれを僕の為だと心底思っていることだ。


 はっきり言うが、僕は婚約破棄などしたくない。

 マリナの事は愛してなどいない。

 僕が愛しているのは、婚約者であるクレアだけだ。


 みんなが勘違いしだしたのは、いつからだろうか。

 学園に入った頃は、こんな勘違いはされていなかった、と思う。


 クレアと共に学園に入った頃、僕は幸せだった。

 僕もクレアも、勉強に忙しく、一緒にいる時間が少なかったからだ。

 勉強の時は隣に座り、一緒に昼食を食べた。

 幸せだった。


 勘違いが始まったのは、それからしばらくしてからだった。

 僕もクレアも、仕事をする為に学園に通えない日がある。

 たまたまクレアが行かなければならない仕事が続き、彼女が長い事学園に来ない日が続いていた頃だった。

 そんな時、僕はクレアを思い、いつもため息を吐いていた。

 そんな僕に、友人が話しかけてきたのだ。


「ギリム様、いかがなされましたか?」

「いや、クレアの事を考えていたんだ……」

「そうですか……やはり、そうなのですね……」

「え?やはりって、何を言っているんだ?」

「みなまで言わないでください。私はギリム様を友人と思っております。ギリム様のお気持ちは分かっております」

「?」

「ギリム様の為に、一生懸命働かせていただきます!!では、これで失礼いたします」

「いや、ちょっと!」


 そういって、友人は帰っていった。

 それからしばらくしてだろうか……

 クレアの悪評が流れ出したのは。

 授業をさぼっているとか、自分より身分の低い貴族をいじめている、とか。


 僕にはわかっているが、クレアがそんな事をするはずないのだ。

 授業に出ていないのは仕事があるからだし、学園にいる時はほとんど僕と一緒にいるから、いじめていれば僕が知っているはずだ。

 確かに、貴族にあるまじき行為をした人に対しては、厳しく言う事もあったが、それだって当たり前の事を言っただけだ。

 それをいじめと言ったら、人に注意する事は出来ない。

 僕はその噂を否定したが、ひどい婚約者を庇う優しい王太子、と思われただけだった。


 僕がその噂に困っていた頃、新たな問題が発生した。

 僕が平民の女性であるマリナと恋仲だという噂が生まれたのだ。


 ……誓って言うが、僕とマリナはそんな仲じゃない。

 確かに僕とマリナは一緒にいる事が多い。

 平民でありながら貴重な光の魔力を持つ彼女を守るために、僕が学園にいる時は彼女の傍にいるのだ。

 はっきり言うが、これも王太子としての仕事である。

 マリナの事を愛するわけがない。

 僕が愛するのはクレアだけなのだから。


 当然、僕はこの噂も否定したが、信じてもらえなかった。

 しかも、王太子と平民の悲恋という謎のストーリーまで流れて行った。

 ひどい婚約者から逃げられない王太子と、それを心配する心優しい平民の少女というストーリーが。


 たしかにマリナはいい女性だろう。

 だが、僕は王太子なのだ。

 結婚相手は、政略結婚が当たり前だ。

 好きな相手より、国の為になる相手と結婚するのが当然なのだ。

 いかに貴重な光の魔力の持ち主とはいえ、平民と結婚などありえないのだ。

 いまさら彼女に貴族の、というより未来の王妃としての教育など出来るはずがないし、他国の王族に下に見られる等、色々問題がある。

 第一、僕はクレアを愛しているのだ。

 クレアと婚約破棄し、マリナと婚約するなど、ありえない。


 そんな噂に困っていた頃、新たな噂が生まれた。

 仕事が終わって学園に戻って来たクレアが、マリナに対し犯罪紛いの嫌がらせをしているというのだ。


 ありえないと思って調べたが、結果として出てきたのは、勘違いによるもの、というものだった。

 たとえば、クレアがマリナの持ち物を壊して返す、という話は、別の貴族が盗んで壊した物を、クレアが見つけてマリナに返した、というのが真実だった。

 また、マリナがクレアに階段から突き落とされた、という話は、マリアが階段から落ちた後、クレアと同じ髪の色を持つ人が彼女を突き落とした場所から逃げていくのが見えた、という怪しい物で、実際クレアのアリバイを調べると、その時は離れた場所で複数の貴族の友人と話をしていた。


 そんな感じで、いじめはなかったのだ。

 でも、マリナも僕の友人も、皆クレアがいじめの主犯だと言い、僕が否定しても、嘘をついてまで婚約者を庇う優しい王太子、という評価がついた。


 この頃になると、僕とマリナの仲は周囲に認められた関係、と思われるようになり、マリナも僕と付き合っている、と思うようになってしまった。

 当然僕は否定したが、マリナも周囲も、あんなひどい婚約者など無視していい、といい、聞く耳を持たなかった。


 こんな風に僕とマリナが一緒にいると、当然クレアは怒った。

 だが、学園の人間は悪いのはクレアだ、と言ってより彼女を怒らせた。

 僕は当然クレアに対して説明をしようとしたが、僕の友人達から僕がどんなにクレアから迷惑を受けているか、という話を受けたクレアは激怒し、僕に会ってもくれなくなってしまった。


 事ここに至って、僕は父である国王に相談した。

 しかし父は、次期国王なのだから自分で解決しろ、と言われた。

 王妃である母も同じ意見だった。


 で、色々頑張ってもひどい婚約者を庇う可哀そうな王太子、という印象がどんどんついていった。

 僕の印象はぐんぐん上がり、クレアのぐんぐん印象は下がっていった。


 そして今にいたる。


 いつの間にか、このパーティで婚約破棄を行い、マリナと新しい婚約をしよう、と言われ、現在その打ち合わせをしているのだ。


「あの……みんな」

「問題ありません。ギリム様。仮にあの性悪女が何を言っても、我らには彼女が起こした嫌がらせの証拠があります。絶対婚約破棄できますよ」

「そうです。我々も全力でサポートします!!」

「気負いせずとも平気です!我らがギリム様の味方なのですから」


 こいつらは人の話を聞いていないし……


「ギリム様、二人の未来の為に、頑張りましょう!!」


 マリナは、なんだか燃えているし……


 とても否定することは出来ず、というか否定しても話を聞いてくれず、僕はマリナをエスコートしてパーティに行くことになった。


 終わった……

 国王、王妃である両親は僕のこの行動を許さず、王太子の座を降ろされるだろう。

 当然、クレアとの婚約は破棄され、僕は愛しいクレアと結婚できなくなる。

 僕もマリナも僕の友人達も罰せられ、将来を失うだろう。

 終わりだ……


 僕がマリナをエスコートし、友人たちを引き連れて会場に行くと、既にクレアが会場に入っていた。

 マリナをエスコートしている僕を見た彼女は、顔は笑っていたが、目は笑っていなかった。

 彼女はその恐ろしい笑顔のままで僕に近づいてくると、


「ギリム様、婚約者の私ではなく、別の女をエスコートするとは、どういう意味ですか?」

「えっと……それは…………」

「クレア様。ギリム様が、クレア様に言いたい事があるそうです」


 マリナが、いらない援護射撃をしてきた。


「言いたい事ですか……それはいったい何なのですか?」

「えっと……」

「ギリム様、頑張ってください」


 僕は脳みそをフル回転して考えた。

 そして、僕が出来る事は一つだと思った。


「ごめんなさい!許してください!!誤解なんです!!!!」


「「「「「は?」」」」」


 僕がそう言って土下座すると、マリナと僕の友人達、そしてパーティに参加していた他の貴族の声が聞こえた。


「僕とマリナは、恋愛関係にありません!すべて誤解なんです!あなたがいじめをしていない事もわかっています!この噂を止められず、このような結果になってしまったのは確かに止められなかった僕の責任ですからその罰は甘んじて受けます!ですからお願いです!見捨てないでください!!」


 王太子の威厳もプライドも全て捨て、僕はそう絶叫した。


 空気が凍っているのが分かる。

 僕は、クレアの言葉を待った。


「知っていましたよ」

「……へ?」

「私を見くびらないでください。あなたとマリナさんの間で噂が起こった時点で、私は既に行動を起こしていたんですよ。私は国王陛下にお会いし、マリナさんの身辺調査や、学園で起こっていることを調査してもらいました」


 ……つまり、僕が父に相談した際には、既に父の耳に入っていたわけだ。


「結果は白、まったく問題ありませんでした。マリナさん及びあなたの友人達、そして噂を話していた学園の生徒達も全員が善意で動いていました。まったく、勘違いがここまで広がるとは、迷惑な話です」


「え?あの……クレア様?すみません、何が何やら分からないのですが、どういう事なのですか?」

「全部貴様らの勘違いという事だ!」


 マリナの質問に答えたのは、父だった。


「クレア殿がさぼっているのは、次期王妃としての仕事をしているからだし、下位貴族への嫌がらせは当然の注意をしただけ、ギリムがマリナ殿と一緒にいたにはそれが仕事だからで、マリナ殿への犯罪紛いの嫌がらせは単なる勘違いだ!!」

「え?え??噓でしょ!!」

「嘘ではない、王国の密偵に調査させた結果、これは間違いない事実だ!!」

「そんな……」


 マリナが泣き崩れた。

 僕の友人達も、ショックで倒れている。

 僕と言えば、パニック状態になっていた。


「あの……父上、それで、私たちはどうなるのでしょうか?」


 父上ははぁ、とため息をつき、


「今回の件はほぼ誰も悪意が無かったとはいえ、このような事態が起こったのは事実。よってギリムを含むこの騒ぎを起こした者たちは全員王城で下働きをしつつ、王室付教育係に再教育をしてもらう」


 その言葉を聞いたとき、マリナ以外の僕達全員が悲鳴を上げた。

 王室付教育係の指導は、超ハードだからだ。

 マリナが悲鳴を上げなかったのは、知らないからだろう。

 ある意味幸せかもしれない。


「あの……それで僕の婚約と王太子の座は?」

「王太子の座は今回の罰が終わった際に再考することとする。なお、婚約に関しては継続するものとする」

「そ、そうなんですか」

「ああ、クレア嬢に感謝するんだな。彼女が継続してもいい、というから許可しているのだ。だが、再教育がうまくいかなければ、破棄もあり得るからな!」

「はい!!」


 俺は涙を流しつつ、喜びの声をあげた


「ギリム様」

「クレア……」


 クレアは僕に近づくと。


「頑張ってくださいね。応援していますから。」

「クレア、怒っていないのか?」

「怒っていますよ」


 彼女は、怒ってそう言ったが、すぐに相好を崩し、


「ですが、あなたがきちんと噂を否定する等の行動を起こしていましたから、許せました。最も、すぐ私に相談してくれなかったのは残念でしたが。私も国王陛下に相談しつつ、いつあなたから相談が来るか待っていたんですよ」

「それは……君が忙しいと思って」

「忙しい、と言ってもあなたが言ってくれれば少し仕事を待ってもらう事だって出来ました。婚約者なのですから、少しくらい時間を作る事は出来たはずです」

「うう……」


 図星である。


「あなたは頑張ったとはいえ、噂を止める事が出来ませんでした。王太子として、噂を止められなかったのは失敗でしたね。ですから、しっかり勉強してください。私も支えますから」

「クレア……ありがとう」

「頑張ってくださいね。私も、あなたとの婚約を続けたいですから」

「ああ、頑張るよ」


 そう言った後、僕は兵士に連れられて、パーティ会場を後にした。


 僕はその後、地獄の再教育を受け、なんとか王太子の座を守った。

 友人達も今も変わらず頑張っている。

 マリナはというと、光の魔力を欲している国の機関に勤める事になった。

 将来有望な職員として、頑張っているらしい。

 そして数年後、僕とクレアは結婚した。

 お楽しみいただけましたでしょうか?


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