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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第1章】乙女ゲーム、チュートリアル編
9/75

自己紹介は化かし合い

 さて、「みこ」の一人、「シルヴィクル」からの発言によって、案内人と紹介されたディアグツォープ様は笑顔のまま退室され、他の神様たちは、それぞれに何か思惑がありそうな感じで部屋から出て行った。


 つまり、この場には7人の「みこ」たちだけが残されたのだ。


 それ自体に不満はない。

 わたしも少し、気になっていたことは確かめておきたかったし、一人分の想像だけでは限度もある。


 でも、彼女「シルヴィクル」に何の意図があるのかはまだ分からない。

 だって、彼女、神様たちがいなくなって、7人だけになっても何も話そうとしないし!


 いや、それはないでしょう!?


 会議の進行役を買って出ろ! とまでは言わないまでも、最低限、目的を離してくださいませんかね!?


 他の5人もお互いに様子を見合うだけで、何も口にしようとしないし。

 でも、気持ちは分かる。


 せめて、発起人に何か言って欲しいよね?

 これが何の会合なのかを。


 さて、どうしようか?


「えっと……、何故、ワタシたちは残されたのでしょうか?」


 誰もが待っていた最初の一言を口にしたのは、「アルズヴェール」だった。


 ……敬語、使えたのか。

 そう思ってしまったわたしもどうかとは思うのだけど。


「分かりませんか?」

 訝し気に「アルズヴェール」を見る「シルヴィクル」。


 その視線には言外に「察し悪いな、こいつ」と言っているような気がする。


 いや、出会ったばかりの見も知らぬ他人に対して、何を期待しているのでしょうね? このお嬢さん。


 「報告」、「連絡」、「相談」って、社会人の基本じゃないっけ?

 「空気読め! 」では、社会は回らないのよ?


「いや、分からないでしょ。常識的に考えて」

 そう言ったのは、先ほどの説明会で爆弾発言をかました「トルシア」。


 えっと、常識って何だっけ?


「私、こんなことしている暇はないんだけど。移り気な橙羽(とうう)様にしっかりアタックしなくちゃ! こんなチャンス! 逃すわけにはいかないんだから!」


 えっと……。

 もう一度考える。「常識ってなんだっけ? 」。


「その発言。貴女は『すくみこ! 』プレイヤーってことで間違いないかしら?」

 そう「シルヴィクル」は確定的な単語を口にした。


 あの質問の場でも誰も触れなかった言葉。

 誰も確認しなかった事実。


 即ち、この世界は一体何なのか?


「そうよ。『すくみこ! 』はやり込んだわ! 本命は創造神サイエク様だけど、あの人、二週目以降じゃないと落とせないでしょ? 現実はセーブ&ロードなんてものはないから、二週目の保証はない。それなら次点の『ヴェント』様狙いになるのは当然じゃない?」


 ゲームプレイヤーとしてはある種、当然の発言。

 でも、「現実」という単語を口にする以上、ちゃんと「現実」を見てくれ。


 ここが「すくみこ! 」の世界だとは誰も言ってないよね?


「じゃあ、改めて自己紹介とさせていただきましょうか。私は『みこ』名『シルヴィクル』。中身は『七瀬(ななせ) (れい)』。31歳。原作読破済、ゲームは踏破済。死んだ覚えはないから、異世界転移じゃないはずよ。質問は?」

 まさかの年上!?


「玲さん、ゲーム内の本命は?」

 そして、安定の「トルシア」さん。


「ごめんなさい、何の関係があるか分からないわ? 『トルシア』」

「え~? だって、本命が被ると面倒でしょう? 攻略のライバルなら、邪魔しなきゃいけないし」

 どこまでも分かりやすい理由。


「……紫羽(しう)様」

 そして、言っちゃうんだ。


 彼女の言葉に一理あると思ったのかな?


「か、勘違いしないでよね! これは、友好を深めるために答えたのであって、私は一刻も早く帰るために、神様なんて相手にせず、攻略するんだから!!」


 あ、ツンデレのテンプレ台詞。

 さらには、顔を赤らめている辺り、可愛いさポイントも追加ですね。


「あ~、根暗な陰キャラ好みかあ……。私とは趣味が合わないね」

 あ、言っちゃった。


 いや、意外だとはわたしも思った。

 どちらかというと、誇り高く堂々とした真面目な「黄羽(おうう)」様好きかなと。


 もしかして、逆だから惹かれるってやつかな?


「合わない方が貴女にとって、都合は良いのでしょ!?」

「あ、そっか~。つい……」

 そして、どこまでも自分のペースを崩さない「トルシア」さん。

 「シルヴィクル」はすっかりペースを崩されてしまったようだ。


「ゲーム、原作の『七羽(しちう)』の順番で行きましょう。赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順で紹介を頼めるかしら? だから、次は……」

「赤……。多分、ワタシですね?」

 そう「アルズヴェール」が反応した。


 でも、「シルヴィクル」は自分の発言が妨げられたことが不満だったのか、少し口を尖らせた。


 聞き間違いでなければ、年上……でしたよね?


 あれ?

 それとも年齢が15歳の少女だから、それに引きずられている?


 それなら、わたしも気を付けなければいけない。

 顔に出さないようにしていても、うっかり出てしまっているかも。


「えっと……、『アルズヴェール』です。『さかい() ひか()』。20歳です。原作? も、ゲームも、姉からの知識程度しかありません。ワタシも死んだ記憶はないです。よろしくお願いいたします」

 そう言って、彼女はペコリとお行儀よく頭を下げた。


 そんな金髪美少女に対してわたしは思わず「誰だ? お前? 」と言いかける。

 そんなレベルの、見事なまでの化けっぷりであった。


 さっきまでとかなり違いませんか? あなた。

 しかも、この自己紹介、ほとんど嘘じゃない?


 さっき名乗った時「境田さかいだ (ひかる)」って言ったよね?


 実はそっちが本名!?

 それとも、どちらも偽名?


 そして、ゲームはともかく、原作は読み込んでいませんでしたっけ?

 いや、そう断言したわけじゃないけど、そんな感じだったよね? 「アルズヴェール」さん?


 何よりもその口調! さっきと全然、違うじゃないか!!

 詐欺だ! 詐欺!!


 同じだったのは年齢だけだった。

 そして、「シルヴィクル」がさらに眉間に皺をよせたのも見る。


 わたしから見ても、20歳って若いと思うのだ。

 それ以上に年上の彼女は複雑なのだろうね。


「じゃあ、次はその右隣りの貴女にお願いするわ」


 わたしが「アルズヴェール」の中身の経歴を精査……と言う名の突っ込みを心の中でしていたことで、自己紹介をすぐできなかった。


 そのために、この状況をよく分かっていないと判断されたのだろう。

 「シルヴィクル」が、少しだけ優越感のある笑みを見せながら、わたしに話しかけた。


 なんか、この人、いろいろ好きになれないなあ。


「『シルヴィクル』さん、ご指示をありがとうございます」

 わたしはそう言って頭を下げる。

 ますます、彼女は嬉しそうな顔を見せた。


「ここに来る前に出会った横の『アルズヴェール』さんから、わたしの名は『ラシアレス』と伺いました。ここに来てから一度も自分の顔を確認していないので、本当にその人なのかは分からないです。死んだ覚えも勿論、ありません。気付いたらここにいました」

 嘘は言っていない。


 「アルズヴェール」がその名を口にするまで、わたしは自分を「ラシアレス」だと気付かなかったのだ。


「あら? そうなの?」

 わたしの言葉に「シルヴィクル」だけではなく、他の「みこ」たちも驚いたかのような顔をする。

 なるほど、どうやら、顔に出やすい人たちが多いようだ。


 まあ、これ自体が芝居とも限らない。


 女社会は基本的に化かし合いの世界だ。

 外見は化粧などで取り繕い、思ってもいないことを口にして、本心を隠す生き物である。


「はい。わたしの本名は『みやも() は()な』と言います。年齢は25歳。原作、ゲームについては、10年ぐらい前にした友人との会話程度の知識しかありません。いろいろと教えてくださればと思います。よろしくお願いいたします」

 わたしが年齢を告げた時、「シルヴィクル」の顔が再び分かりやすく歪みを見せたが、わたしが彼女に視線を向けながら、「教えて欲しい」と口にした時に再び笑みを見せた。


 少しばかり承認欲求が強い人かもしれない。

 そうなると、話す時は持ち上げるべきかな?


 これが素なら、扱いやすくて助かるね。


 そして、なんとなく横の「アルズヴェール」からの視線が少し痛い。

 多分、わたしも先ほど彼に対して同じような表情をしていたことだろう。


 ああ、うん。

 でも、化かし合いはお互い様だよね?


 さっきはうっかり本名を名乗っちゃったけど、こんな所で個人情報を漏らしすぎるのは確かに良くない。


 年齢だけは偽ってないから見逃してね?

 お互い様でしょ?


 わたしはそう思って、笑顔を彼に向けたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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