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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第1章】乙女ゲーム、チュートリアル編
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神子たちの質問

『それぞれのパートナーと協力し、必要ならば周囲の手を借りながら、人類を繁栄させること。それが、貴女たちへのお願いです』

 金髪の女神は微笑みながら、念を押すようにこう言った。


『人類が豊かになり、滅びの危機を乗り越えた後、その褒賞として、「どんな願いでも一つだけ叶えよう」と創造神は仰せになりました』


 その言葉に「みこ」たちの雰囲気がどことなく騒めいた気がする。

 いや、わたしも「創造神」の言葉で胸がときめいたけど


 まあ、普通に考えれば、世界に散らばる七つの龍の珠でも集めない限り、言われることのない言葉だ。


 「すくみこ! 」を知っていなくても、魅力的な提案だと思う。


 そして、「すくみこ! 」の世界では、この願いこそがED分岐に繋がることもある。


 質問が出て来て、「このままここで生活したい」、「神様と共に生きたい」、「家族の元へ帰りたい」、「もう少し考えたい」の順に並び、「はい」か「いいえ」を選ぶ形になっていたと思う。


 その前に神様の方から告白してくれるルートもあるが、それが一番、早くて楽だった。

 創造神は、なかなかその状態にはなってくれなかったけど。


 因みに、「神様と共に生きたい」を選び、その神様の名前を口にしても、その場で振られるというある種の公開処刑EDは本当に辛い。


 そうすると、どこにも行き場のなくなった主人公は、一人、傷心の旅に出てしまうという、なんとも後味の悪いバッドエンドを迎えるのである。


 画面が真っ暗になって、「その後、主人公の姿を見た者はいない」と白い文字でゆっくりと浮かび上がるあの絶望感を何度味わったことか。


 特に創造神!

 主に創造神!


 でも、個人的に、そこまでして叶えたい願いはない。


 仮に「家族の元へ帰りたい」というのを選んでも、「ラシアレス」の身体が、家族の元へ返されるだけだろう。


 そこに「宮本陽菜」の行き場はないのだから。


『最後になりますが、月に一度、この場所に来て、状況報告をお願いいたします』

 女神様はそう言って、微笑んだ。


 なんというか、笑顔が似合う女神様だね。


 なんで、この女神様は「すくみこ! 」に出てこないのだろう?

 もしかしなくても、「乙女ゲームに美女は要らぬ! 」ってことかな?


『これまでのことで、何か質問はありますか?』

 女神様からの問いかけ。

 これはゲームになかったので本当にありがたいね。


 さて、何を聞いたものか。


 わたしが先ほどまでの話を頭の中で、整理していると……、周囲の「みこ」たちから、それぞれ手が上がる。


 この挙手の仕方は、間違いなく日本人だ。

 いや、日本で作られたゲームだからはっきりと断言はできないのだけど。


『「トルシア」様、何をお聞きになりたいですか?』

 金髪の女神は嬉しそうに口元を綻ばせながら、水色の髪の「みこ」を指名する。


 確かに、あの勢いよく、真っすぐに伸ばされた手は指名したくなるよね。

 だけど、彼女の笑顔にどこか嫌な予感しかしないのはわたしの気のせいか?


「パートナー以外の神様と共に生きたいって願いを言うのはありですか?」


 無邪気に飛び出す爆弾発言。

 それでも、できた女神のディアグツォープ様は笑顔のままだった。


 凄い!

 見習いたい!


 わたしだけでなく、他の「みこ」や周囲の神様たちすら、ぎょっとした顔をして、彼女を見たのに。


 乙女ゲーム「すくみこ! 」では、確かにそれを選べた。

 少し「すくみこ! 」世界とは違うから確認したくなったのだろう。


 でも、この場での発言としてはない!


 背後にいるパートナーとして紹介されたはずの神様に対しても失礼だと思わなかったのだろうか?


 全く、思わなかったのだろうね。

 彼女は、満面の笑みを崩していないから。


『その神様が貴女のお気持ちにお応えになれば、問題はありません』

 動揺することなく、笑顔のままお答えくださったディアグツォープ様を称賛させてください。


「よし!」

 お礼を言うことなく、拳を握りしめる「トルシア」。


 何歳ぐらいだろう?

 言動は十代だけど、雰囲気は同年代っぽい。


『他にはありませんか?』

 再び、言葉をかける女神。


 あんな質問の後に手を挙げるって結構、勇気がいるかもしれない。

 周囲を伺うような微妙な空気が流れている。


 その雰囲気を創り出した当人は妙に浮かれているけど。


「はい」

 だから、その微妙な空気を払拭すべく、わたしも手を挙げた。


『「ラシアレス」様、どうぞ』


「成果を上げることができなければ、処罰の対象となりますか?」


 これって、結構重要な質問だったりする。


 確か「すくみこ! 」では、定められた期間内に目標値まで発展させられなければ、強制バッドエンドだったはずだ。


 創造神が7人を集め、「無能な『みこ』どもが! 」となかなか酷い言葉を叫ぶのだ。


 そして、フラッシュが瞬き、画面が上から赤く染まっていき、そのまま黒い文字のスタッフロールが高速スクロールされる。


 最後の文字が消えた後、一瞬だけ、倒れている7人の「みこ」の姿が映って終わりという明らかに救いのないED。


 普通に考えても進みたくないルートなのだけど、困ったことにここにもあるのです、創造神CGが。


 しかも、「END」の文字が表れないとセーブができないため、回収できないようになっているという鬼畜仕様でした。


 昔のゲームですもの。

 オートセーブ? なにそれ、美味しいの?


 ええ、頑張ってCG回収しましたよ。

 CGの回収率を100パーセントにするためには絶対、一度は見なければいけないのは本当に辛かったけどね。


 でも、現実問題として、そんな終わり方は嫌だ!


『処罰は特にありません。こちらの都合で、来ていただいたのですから』

 そう言って、女神様スマイル。


 だけど、わたしは見逃さない。

 周囲の「みこ」たちが数人、驚いた顔をした。


 確実にあのEDを知っているプレイヤーだ。

 結構、衝撃だったもんね、アレ。


 そうなると、やはり「すくみこ! 」とは言い切れない。

 でも、「すくみこ! 」っぽい世界。


 そうなると、その元となった世界(原 作)の方?


 誰か、原作サイドの質問をしてくれないかな?

 ああ、でも、その判定がわたしにはできない。


 なんとなく横にいる原作の読者で、ゲームはやっていないと言っていた「アルズヴェール」を見る。


 彼は、何か迷っているようだ。

 脳と動きが直結しているかと思えば、意外と慎重な部分もあるってことだね。


 わたしの質問によって、それまでのなんとも言えない空気が変わったのか、次々と手が上がり、質問が飛び出てきた。


 質問の制限もなかったことが良かったのだろう。


 それらによると、「みこ」の仕事期限は明確な期限はなく、定期報告の内容によって、中止や続行を決めるそうだ。


 この辺り、しっかり5年と期限が決まっていた「すくみこ! 」とは違う。


 言い換えれば、状況が良くないと判断されればいきなり取り()められるという可能性もあるのだ。


 あまり、のんびり構えてはいられないと考えた方が良いだろう。


 成果が出なければ、それに伴う予算は出せないのがお仕事というものである。

 無駄なことにいつまでも時間とお金をかけられないという現実はよく分かるのだ。


 ただ、今回は人類の衰退というものもセットになっている点がある。


 ある程度は気長に見てもらえると思うけれど、神様がどれだけ長い時間を見守ってくれるだろうか?


 そして、今回の話は、試験運用のようなもので、失敗を恐れずにいろいろな手段を試して欲しいとのこと。


 神様がいろいろとやってみても思うような成果が出せなかったのだ。


 人類の衰退を進めさせてしまうことがなければ、大丈夫……と気楽に構えず、できる限りいろいろと考えてみようと思う。


 だって、相手は神様なのだ。

 神様に許容できるような失敗も、人間が同じように許されるはずがない。


 神様の意識としては、人間を対等と思ってはいないだろう。

 それが、例の質問に対して神様たちの反応を見たわたしの感想である。


 それ以外にもいろいろな質問があったが、今後としては、わたしの場合、後ろにいるズィード様と連絡を取り合って、方法を模索していく形となるようだ。


 そしてわたしは、ズィード様からオレンジ色に光る手鏡を渡された。

 この方はどこまでも橙色から離れられないらしい。


 他の「みこ」たちも、同じように色違いの手鏡を受け取ったようだ。


 なんでもこの手鏡を使って呼びかければ、ズィード様が応えてくれるらしい。


 スマートフォンみたいなものかな?

 いや、特定の相手にしか通じないなら無線機?


 そう考えると、迷惑じゃない時間帯を先に確認しておかねば!

 緊急時は仕方なくても、人間と時間の感覚は違うかもしれないし。


 でも、この世界って細かく時間って分けられているのかな?


 「すくみこ! 」は、朝昼夕夜の行動指定がかなり、大雑把だった。

 その辺りも含めて、ズィード様にはちゃんと確認をしておかないといけないね。


 そして、そろそろ解散の流れになりそうな時、「みこ」の一人である「シルヴィクル」から、こんな提案があった。


「ここからは、『みこ』だけで、話をさせていただけませんか?」

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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