身体と中身の落差
さて、女神様による説明を聞いている間、わたしはずっと周囲の観察を続けていたわけだが、話を全く聞いてなかったわけではない。
いくら何でも、一番初めの説明、仕事の内容も聞かずに働くことなどできないでしょう?
何より、この世界は「すくみこ!」のようで、いろいろと微妙に違うのだ。
説明を聞かないなんて無謀すぎる。
だけど……、説明された内容は、「すくみこ! 」とあまり差がなかった。
黒い羽の女神、ディアグツォープ様が言うには、この世界の人類は滅びの危機に導かれているらしい。
もともと寿命が短く、神様ほど長くは生きられない人間たち。
でも、人類が全くいなくなるのは、神様たちだって困る。
いろいろと神様たちも手を考えたけれど、どうもうまくいかない。
その原因は、神様たちが人間と言う種族をよく知らないからと考え、人類から代表を選び、その人間たちの協力を得て、繁栄に導こうというものだった。
うん、説明している神様が創造神ではなく、綺麗な女神様という違いはあるけど、ほとんど同じだね。
でも、「すくみこ! 」プレイ時には、わたしも子供だったいうこともあって、そこまで深く考えなかったことが気にかかってしまう。
普通に考えるとこの状況ってかなりおかしな話ではないか?
乙女ゲームという非現実な世界とその設定に突っ込んでもしょうがないけれど、これが現実ならば話は全く別になるだろう。
まず、一番に言いたいのは、何故、若い少女ばかりを代表に選んだのか?
設定を信じるのなら、「すくみこ! 」の主人公となる「みこ」たちは、誕生日こそ異なるけど、皆、まだ15歳の少女なのだ。
若々しさ溢れる15歳!
現実では、中学三年生か高校一年生!
若いってだけで可能性無限大!
若さが武器になるって本当に羨ましい! という世代。
でも、その年代の少女って程度の差はあるけど、未熟で、基本的に考えが浅いよね?
精神的にも不安定で、周囲の言動にふらふらしてしまうようなお年頃。
実際、美形の異性に迫られたら、あっさりお仕事を辞めることができちゃうほど無責任な少女しかいなかった。
いや、言い寄られても、断ることはできたので、選択次第でもあるのだけど。
仕事放棄については結果論だから、例として出すのはおかしいことは分かっている。
「みこ」たちを代表として選んだ時には、そんな裏切りは誰も考えていなかっただろう。
でも、それだけ不安定な存在であることは間違いないのだ。
だけど、仮にも人類の代表とするなら、もっと経験豊かな責任感のある年配の人間を選出すべきではないだろうか?
人類の行く末なんて重たいものをこんな可愛らしい少女たちに押し付けるなよ! と言いたくなってしまう。
しかも、何故、男性はいないの?
いや、今回に限り、中身が男なのは一人は確実にいるけど、本来は中身も可憐で純粋な少女だったはずだ。
中身についてはプレイヤー次第という突っ込みはなしでお願いします。
人類を繁栄に導くために選ぶなら、様々な視点や意見を求めるために老若男女問わず集めても良かったのではないか?
何より、「7人」って少なすぎる!
日本の国会議員を見習え!
すっごく多いから。
一つの国を動かすのに無駄に見えるほど多くの人たちを集めているというのに、世界という大規模なものをそんな少人数に任せるなよ!
逆に人類を滅ぼしたいとしか思えんわ!!
ふぅっ。大人になるって嫌だね。
純粋な気持ちで物事を見ることができなくなる。
キラキラした瞳で、「すくみこ! 」をプレイしていた「純粋な少女」はどこへ消えてしまったのだろう?
いや、あの頃も、創造神を前にしたら、ギラギラしていた気もしなくもないか?
だからさ~、思っちゃうわけだよ。
現実を見てしまう上に、穿った考え方を知ってしまった大人の思考としては。
これって、「みこ」が神様を落として逆ハーレム形成するのではなくて、実は、神様たちが異性に対する耐性のない「みこ」たちを誑かして、ハーレム要員にしちゃおうってだけじゃないか? とかさ。
それだと、ある意味、ちょびっとだけ人類が増える可能性はあるもんね。
人間が生涯産むことができる数は限られているから、若い少女を選んで……とか?
かなり品がない話になってしまうけどさ。
でも、想像だけでも、背筋がゾッとするような話だな、これ。
本当にこんな理由だったら、迷いもなく辞退するわ!
そして、神様から力を借りるってのもよく分からない。
確か、「すくみこ! 」の「みこ」たちは、それぞれの神様の手を握ることで、不思議なエネルギーを受け取り、それを人間たちの住む世界に分け与えるとなっていたけど……、それってなんなの?
手を握る必要、ある?
そんな力があるなら、神様が直接ばらまけば良くない?
身体は人間たちの世界に簡単には行けなくても、力だけなら送れたはずだよね?
因みに「すくみこ! 」世界では、それで、相方の神様との好感度が微増する仕様です。
それ以外の神様とは、会話、接触、イベント、そしてそれ以外の通常行動で好感度が上がるようになっていました。
現実は、そんなに簡単にはいかないだろうけどね。
神様と呼ばれる存在だというのに、少しばかり見た目が良い小娘たちに言い寄られたぐらいで、共に生きたいと思うようになるなんて、逆にこの世界が不安になってしまうよ。
『それぞれ、背後にいる方々が、貴女たちのパートナーになってくださる方です』
そう言われたので、一応、振り返ってみる。
なんと!?
そこには、橙色の髪の毛に橙色の瞳、橙色を基調とした衣装に身を包み、橙色の羽を背にした美形の神様が御座しますではありませぬか!?
うん、いることは分かっていた。
そして、この神様もやはり「すくみこ! 」とは微妙に違うデザインだった。
でも、ここまで全てを同色系統で纏めてしまうとどこかおかしく見えるはずなのに、その濃淡をバランスよく使っていて、違和感が全くない!
いや、この神様は下手に橙色以外の物を身に付けてはいけない気がする……とまで思ってしまった。
なるほど、このビジュアルはCGで表現するのが難しいかもしれない。
絵で表そうとすれば、どうしたって違和感の塊になる。
「お前、どれだけ同じ色が好きなんだよ!? 」って。
でも、それはそんなレベルの話じゃないのだ。
この神様にはこの系統の色しか許されない! って言いたくなるほど本当によく似合っているのですよ。
そして、それは他の6人の神様も同じだった。
それぞれのシンボルカラーがよく似合っている。
まさに「象徴色」だ。
『初めまして、「神子」。私の名は「ズィード」と言う。風の大陸神である「ドニウ」様の正使だ。これからよろしく』
橙色の髪をした神様がにっこりと笑いながらそう言った。
ぬ?
風の大陸神の「正使」?
橙羽の神様というわけではないの?
そして、名前も違う。
「すくみこ! 」の世界では、橙羽の神様の名前は「ヴェント」様だったはずだ。そして、その能力は「風」の力。
微妙に近い辺りがなんとも言えない。
「初めまして、ズィード様。わたしは『ラシアレス』と申します。至らない部分が多く、不出来なものですから、何かとご迷惑をおかけしてしまうかと思いますが、自分にできる限りのことはさせていただきますので、よろしくお導きください」
初対面の挨拶は大事だから、できるだけ丁寧にすることを心掛けた。
自分の本名ではない言葉を名乗ることに罪悪感があっても、この姿は「宮本陽菜」ではないので、この点については諦めよう。
そして、わたしはある意味、右も左も分からないこの世界で、この神様の力を借りて、なんとしてでも、人類を繁栄させなければならないのだ!
そんなわたしの挨拶がお気に召したのか、ズィード様は微笑んでくれた。
くっ!
美形の笑顔が眩しい!
因みに「すくみこ!」世界では、気紛れで移り気、軽いノリで油断をするとすぐ他の「みこ」たちと一緒にいるような「ヴェント」様だったが、この神様はどこか違う気がする。
でも、他の「みこ」と一緒にいても、わたしは構わない。
わたしは自分のやるべきことをやるだけだ!
『そう気負うな、「ラシアレス」』
そう言って、ズィード様は、わたしの頭に手を置いた。
さらに……。
『風の大陸出身の人類はどうも自分の力以上のことをしたがる。できることは限られているのだ。焦らず、ゆっくりと流れよ』
そう言葉を続けてくれた。
普通の少女ならば、ここでときめくのだろうか?
それとも、「子供扱いしないでください! 」が正解?
でも、分かりやすく気を使ってくれているのだろうから、その反応もどうかと思う。
15歳の少女に対して神様が激励してくれるってだけで、本来なら、とてもありがたい話なのだろう。
「お気遣い、ありがとうございます」
頭に手を置かれたままの状態で、わたしはそう答えることにした。
「ラシアレス」は15歳だが、その身長からどの神々からも子供扱いされることは避けられない。
多少、お子様扱いされてしまうのは、キャラクター的に仕方ないと思うことにしよう。
中身は10年ばかり歳、食ってますけどね。
わたしは、歳相応の反応を返せないことを申し訳なく思いつつ、心の中でズィード様に謝罪したのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。