円卓の神子たち
気が付くと、何故かわたしは半透明な円卓を前に、椅子に座っていた。
あれ?
わたし、さっきまで変な部屋にいなかったっけ?
周囲を見回すと、色とりどりな6人の少女たちが同じようにどこか驚いたような顔で円卓を囲んで座っていた。
そして、そんな困惑している少女たちの背後には、同じように色とりどりの美形が立っている。
いや、人形に対して、「色とりどり」という表現はどうかと思うけど、本当にカラフルなのですよ。
少女たちも、その背後の美形たちも!
主に、髪の毛の色とか着ている服とか瞳の色とか!
日本生まれ、日本育ち。
九州男児と東海地方女子の間に生まれた純日本人の目にはかなり辛いわ。
いや、近年の日本も大分、カラフルにはなってきていたのだけど。
そして、背後にいる美形たちはそれぞれ、これまたカラフルな羽を背負っている。
横から順に黄、緑、青、藍、紫、赤の羽。
わたしの背後にも誰かいる気配がするけれど、怖くて振り向けないでいた。
恐らく、橙色の羽を持った美形がいることだろう。
だけど、振り向いて、至近距離で異性の美形を見るなんて、わたしの目が潰れてしまう気がする。
ふと隣を見ると、先ほど出会ったばかりの「アルズヴェール」も同じように座っていた。
なんだろうね?
この知らない空間に、一人だけでも見知った顔がいるというのはそれだけで妙にホッとするのは。
いや、中身が残念な殿方だってことは理解しているのだけど。
それでも、彼は根っからの悪人では……いや、悪人だわ。
すっげ~、罪深い人だったわ。
いきなり、穢れを知らない純真な「ラシアレス」の唇を奪いやがった超! 極悪人だったわ。
少しぐらい殊勝な態度を見せたからって、簡単に気を許しちゃいけないよね。
だけど、横にいたこの「アルズヴェール」。
わたしの視線に気が付いたのか、にっこりと微笑みやがった!
くそう!
そんな表情をしたぐらいで、このわたしが簡単に警戒を緩めるもんか!
美形の柔和な微笑みなんか、社会人として見慣れている……わけない!
それって、どんな羨ましい環境の社会人だ!?
アイドルコンサートやホストクラブにでも行かない限り、美形の笑顔なんてレアものに出会えるわけない!
どちらにも行ったことなどないですけどね!!
ああ、うん。
これは、仕方ないよね。
世の中、顔が良ければある程度のことは許されちゃうものだからね。うん。
それが、同性であっても、あまり害がなさそうな笑顔を見せつけられるとさ。
うっかり、許しちゃうよね?
こう殺伐とした社会人生活やっているとさ。
潤いが欲しくなるのですよ。
地獄に仏ってやつ?
『全員、この場に揃いましたね』
わたしの思考がいつものように暴走を始めた時、最初の部屋で聞こえた女性の声がした。
その場にいた全員が、一斉にその方向に顔を向ける。
そこには金色の髪、橙色の瞳を持った綺麗な女性がいた。
その人が持つのはカラフルな羽ではなく、黒い羽。
この辺り、「すくみこ! 」の設定通りだと思う。
わたしたちは羽って言うと、基本的には白い羽を思い起こすだろう。
たまに、黒い羽もあるかもしれないけど。
でも、「すくみこ!」の世界は違うのだ。
この世界において、白い羽を持つのは創造神ただ一人。
そして、それぞれ「みこ」の対となる神様たちは、「七羽の神」と呼ばれ、それぞれシンボルカラーとなる色の羽が背中から生えている。
それが、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色。
だから本名とは別に、「赤羽」、「橙羽」、「黄羽」、「緑羽」、「青羽」、「藍羽」、「紫羽」とも呼ばれているのだ。
個人的に、創造神の白い羽を、当人、いや当神(?)の許可を得て、恐る恐る触れる主人公たちの場面はどれも大好きだった。
仏頂面なのに「みこ」に視線を向けている創造神と、幸せそうに羽に触れる「みこ」たちの表情がすっごく綺麗に描かれているし、シナリオの方も、本当にどの「みこ」たちからも溢れんばかりの愛が伝わってくるのですよ。
わたしが初めて見たのはメインヒロインである「アルズヴェール」ルート。
それと同時に、興奮すると、本当に鼻血が出てしまうことを初めて知ることになった「黒歴史」でもある。
他には、メインキャラクターではないけれど、それ以外にも神様はいて、その神様たちは全て、黒い羽がその背中から生えている。
だから、目の前の女性は、創造神でも、「七羽の神」たちでもないのだろう。
『初めまして、大陸より選ばれた7人の神子たち。遠い所をよくおいでくださいました。私は、貴女たちの案内人を務めさせていただきます、「ディアグツォープ」と申します。以後、よろしくお願いいたします』
そう言いながら、優しい笑みを浮かべるディアグツォープ様。
でも、不思議。
その色合いは右隣にいる「アルズヴェール」の方が似ているはずなのに、何故だか、「すくみこ! 」に出てきた「ラシアレス」の方が似ていると思ってしまった。
「アルズヴェール」は金色の髪と紅い瞳。
「ラシアレス」は黒髪、黒い瞳だというのに不思議な話だ。
そして、この女神様は、「すくみこ! 」には出てこないキャラクターだったと思う。
いや、正しくは「すくみこ! 」に「みこ」たちがこのように円卓を囲むという場面がない。
こんなに印象深い場所ならば、忘れるはずがないだろう。
扉を通り抜けるというチュートリアルが終われば、そこには既に主人公以外の「みこ」たちが相方になる神様と共に立って待っている。
さらに、その奥に創造神がいて、自ら説明してくれるという素敵な演出だったのだが、それを見ることができないのは少し、不満。
創造神がいない世界だとしたら、かなり嫌だな。
一番好きなキャラクターなのに。
しかし、今にして思えば、主人公として選んだ「みこ」って、遅刻したのではなかったのだろうか?
いや、ゲームに突っ込んでも仕方ないことなのだけど。
でも、主人公が一番乗り! ってのもアリだとは思うのだけどね。
そして、状況説明が創造神の口から伝えられた後に、ゲームが開始されることとなる……はずなのに、この状況は明らかに違う気がする。
ふと見ると、わたしと同じように戸惑った様子の「みこ」がいる。
いや、この場にいる「みこ」全てが動揺を隠しきれてないけれど、その種類がちょっとばかり違うのだ。
横にいる「アルズヴェール」は、目を見張るように女神様を見つめている。
もしかしたら、原作に出てきた女神なのかもしれない。
黄色い羽を持った神様の前にいる「みこ」。
恐らく、彼女の名前は「シルヴィクル」だろう。
紅いポニーテールに茶色の瞳。長身な彼女は、公式身長170センチと一番高く、それを気にしているというコンプレックスがあった。
だから、始めに出てくるCGのほとんどは屈んでいたり、猫背で描かれたりしているものが多い。
だが、今の彼女は堂々と背筋を伸ばし、わたしと同じようにそれとなく周囲を観察しようとしている。
だけど、横にいる「アルズヴェール」と同じように、女神を見ている時間が長く、七羽の神様たちに対しては、それぞれしっかり見ては、少しだけ眉を顰めてもいた。
うん、その反応は「すくみこ! 」プレイヤーだね?
多分、わたしと考えていることは同じなのだろう。
神様たちの色もゲームの通りなのに、顔と髪型、衣装が少しだけ違うのだ。
でも、雰囲気は何故かよく似ていると思っちゃう。
特に、ディフォルメ化している方のイラストに。
これは一体、どういうことなのだろうか?
だけど、これらの反応を見る限り、彼女はもしかしたら、原作も読んで、「すくみこ! 」もやっている人なのかもしれない。
他の「みこ」も似たような感じだった。
緑の羽の神様の前にいるのは、間違ってなければ、「マルカンデ」。
緑色の髪の毛を両サイドにお団子にして、翡翠のような瞳を持つ少女。
「すくみこ! 」内では、一番の巨乳設定。
羨ましくなんかないよ?
本当だよ?
「ラシアレス」だって、小さくはないからね?
「宮本陽菜」は……、平らではなく半端なサイズだったことは認める。
彼女は、妙にビクビクして、何故か後ろを気にしているみたいだけど、その視線は女神様に釘付けだった。
彼女は、「すくみこ! 」ではお色気担当だったはずなのに、溢れ出ているはずの妖艶な雰囲気はない。
青い羽の神様の前にいるのは「トルシア」……だと思う。
水色のショートボブに黒い瞳。
彼女は「すくみこ!」内のぽっちゃり担当。
その体型から分かりやすく食いしん坊キャラで、神様に対する執着は薄かった……はずなのだけど、今の彼女から感じる熱い視線はわたし……というか、多分、この背後を見ているね?
始めは少し変な顔していたけど、「これはこれでおっけ~! 」と表情が変化したのは分かった。
濃い青い羽……藍色の羽の神様の前にいるのは、多分、「キャナリダ」。
公式では糸目キャラクターで、こげ茶色の髪の毛を後ろで三つ編みにしている。
開眼したCGはなかったはずだけど、公式では、蒼い瞳と表記されていた。
でも、今、その瞳は不自然なぐらいに見開かれ、それぞれの神様たちを見回しては、意味深な笑みを零している。
あれは、中学の時に見た友人の妄想中の表情に似ているのは気のせいか?
それも増えない掛け算をしている時の顔。
彼女の動きは明らかに変だ。
「すくみこ! 」では知的キャラだったはずなのに、それでは「恥的」キャラじゃない?
そして、最後は紫色の羽を持つ神様の前にいる銀髪さらさらストレートロングヘア、紫の瞳の少女。
わたしの大本命主人公、「リアンズ」だ!
彼女と紫色の羽の神様が並んでいる姿は本当に絵になっている。
え?
創造神はどうしたのか? って?
彼女は本命主人公で、わたしが好きな創造神はどの主人公と並んでも良いので問題ないです。
彼女は病的なほど色白で、実際、病弱、貧血キャラ。
油断をすると、すぐ倒れてしまう性質があった。
どこかトロンとした気だるげな瞳がいかにも本物っぽい。
もしかして、彼女だけは本物じゃないだろうか? と思ったけど、その彼女の視線は、時々、女神様に向けられていた。
だから、現時点でははっきり断定はできない。
しかし、これらの状況から導き出される結論は……、もしかしなくても、7人とも中身が別人ってパターンなのではないでしょうか?
ここまでお読みいただきありがとうございました。