ゲームの特徴
一日、投稿が遅れました。
申し訳ありません。
「ハルナ、顔色が悪いぞ」
ズィード様が去った後、わたしに向かってアルズヴェールがそう声をかけてきた。
「え……?」
反射的にわたしは彼を見る。
金色の柔らかそうな髪と、紅玉のように透明感のある紅い瞳が目に入った。
その色は、心配そうにしていることがよく分かる。
「そ、そうかな?」
「熱は……、なさそうだけど……」
戸惑うことなくわたしの額に手を当て、自分の額と比較しながら、彼はそう言った。
流石に少女漫画の王道(?)互いの額をゴツンとはしない。
そんなことをされては熱が無くても高熱となってしまう気がする。
そして、それは、あまりにも危険すぎることだった。
わたしの気持ちに気付かれたら……、恐らく彼は距離を取る。
彼の好みに合致しているのは「外見」であって、「宮本陽菜」ではない。
それに、「自分は彼女持ちだ」と言うことを、事あるごとに口にして、「異性」に対する予防線はちゃんと張ってくれているのだから。
「オレの部屋……、来るか?」
何故か少し戸惑いながら、アルズヴェールは確認する。
わたしは……、無言で頷く。
今は、なんとなく一人になりたくはなかったし……、何より、この見知らぬ場所から一人で自室に帰れる気はしなかった。
****
想像通りの赤みが強い部屋に通され、わたしはアルズヴェールと向かい合って座った。
でも、この部屋は、「すくみこ! 」内のアルズヴェールのものとは、やはり少し違う気がする。
確かに赤系の色を中心としているのだけど……、フリルやレースがふんだんに使われた少女趣味全開の世界ではなく、もっと飾りが少なくシンプルな感じになっていた。
あれは……、製作者の趣味だったのだろうか?
傍には、書物庫で会っていた時のようにロメリア嬢が控えている。
でも、前と違って、その表情から険が取れている気がした。
主人であるアルズヴェールを見ている瞳は、やはり鋭くはあるが、前ほどではない。
キツネ目の美人さんにありがちな目つきだと思う。
書物庫には、アルズヴェールは付添人が必要なわたしと違って、一人で来ている。
だから、二年目に入る頃にはこのロメリア嬢に会うことはほとんどなくなっていた。
わたしが会わない間に、二人の仲は深まったのだろう。
……なんか複雑なのは気のせいか?
「ロメリア、場は外せる? 神子同士の大事な話をしたいから」
アルズヴェールは、主人らしく指示を出す。
「かしこまりました。御用の際は、またお申し付けくださいませ」
そう言って、ロメリアは一礼をし、感情を出さないまま、すっと部屋から出て行ってくれた。
傍目にも、完全なる主従関係が成立している。
わたしは少しばかりアイルに甘えすぎているかもしれないと思うほどに。
「どうした?」
わたしの尊敬の眼差しに気付いたアルズヴェールは、不思議そうな顔で問いかけてきた。
「主従関係って……、別に男女じゃなくても良いもんだね」
「……なんだそりゃ?」
わたしの奇妙な言葉に、彼が苦笑する。
いや、主従関係って貴族令息と女中、貴族令嬢と執事の関係性がドキドキわくわくして好きだったけど、女主人と同性の付き人と言うのもありではないか……、とうっかり思ってしまったのだ。
「オレとしては……、男主人とメイドの関係が一番……、いや、天然の女主人と男の護衛の関係もありだな。それが実は幼馴染だと尚、推奨!」
「……女性に男の護衛……? ああ、騎士様と貴族令嬢の関係は確かに激しく萌えるね」
身分違いの幼馴染の女の子を、騎士となってこの生涯を懸けて護ると誓う少年とかは、ある意味、王道だろう。
うん。
十分ありだね。
乙女ゲームでもありそうな設定だ。
「騎士……? ああ、あれは、騎士と言えなくも……? でも……、あの二人の関係はもっと……」
だが、アルズヴェールはわたしの考えた設定とはちょっと違ったらしい。
さらに、何やら考察するように呟いている辺り、その言葉の基となった具体例があるのだろう。
もしかしたら、原作の話なのかもしれない。
「いや、そんな話はどうでも良い」
「うん、わたしもそう思う」
「ハルナ、手を握らせてくれ」
そう言って、彼がわたしの手を握ろうとするので……。
「……セクハラ?」
すっと両手を引く。
「馬鹿言え。手を握るぐらいでセクハラ扱いされたら、フォークダンスなんか踊れなくなるぞ?」
「いや、フォークダンスはお互い、合意の上だからね? いきなり理由もなく握るってものじゃないからね?」
運動会とか体育祭とかで、教師たちから当然のように踊らされることを合意の上と言って良いかは横に置いておく。
「理由ならある」
「さっきの話?」
アルズヴェールにわたしが手を引かれて移動していた時……、彼の頭も方向感覚が狂ってしまったらしい。
だから、あの場所からこのアルズヴェールの私室に向かう時は、手を引かれず、誘導されるように移動してきたのだけど……。
「『ラシアレス』の特性に、方向音痴があることは理解できる。だが……、それが手を握っただけでオレにまで影響するのはおかしいとは思わないか?」
「それは思うけど……、手を握る必要性はないと思う」
既にその結果が出ているわけだし。
「この『ラシアレス』の体質……、いや、性質は、それだけ、『すくみこ! 』のイベントに対する強制的な流れが強いってことかな……、とは思うよ」
逆らっても、逆らってもそうなるように仕向けられているとしか思えない。
それは、まるで「運命」のように。
「先ほどの……相棒とのやりとりは、ゲームにもあるのか?」
ゲーム未プレイの彼に確認されて、少し考える。
「ラシアレス限定でランダム発生する『迷子イベント』に似ていた。でも、全てではなかったと思う」
「『迷子イベント』?」
アルズヴェールが問い返す。
「『すくみこ! 』内は、同系統のイベントを『みこ』たち、攻略相手にあわせてCGとシナリオが違うだけのものが多かったのだけど……」
「組み合わせのCGとシナリオが違うなら、もはや別のイベントと言って良いんじゃないか?」
わたしのちょっと説明が悪かったのか。
上手く伝わっていないような気がする。
「具体的には『私室デート』。「みこ」の部屋に攻略対象者が来て、数種類の会話内容と段階に合わせたCGがある。他には『庭園デート』や、『書物庫イベント』とかな」
「ああ、つまりいろいろと使い回したやつか。名前を変えるだけのシナリオとか、CGもその部分だけ相手を入れ替えるようなやつだな」
その言葉に、少しだけムカッとなった。
何も知らない人は、簡単な説明だけで分かった気になるから困るのだ。
「何を言うか! 『すくみこ! 』の売りは、『原作関係ねえ! 』だけじゃなく、当時としては珍しいほどのその膨大な文章量と絵だったんだから! 全てのヒロインと攻略対象者に合わせて、同じ場所で違う展開の書き分けと描き分けが凄くて……」
「ああ、悪い」
興奮して語り出したオタクに向かって、アルズヴェールが制止する。
「別に馬鹿にしたわけじゃないんだ……って、全てのヒロインと攻略対象者って……ヒロインが7人で、攻略対象者も7人……?」
どうやら、彼もその凄さに気付いたらしい。
「攻略対象者は相方の神様たちだけでなく、二周目以降は創造神様も入るから……8人だよ」
「絵描きと、文章書きと、設定者を過労死させる気か?」
「『すくみこ! 』の闇だよね」
それでも、「すくみこ! 」関係者で、表向きは亡くなった方はいないらしい。
体調管理を含めたスケジュール調整が万全だったということだろう。
……実際は、分からないけど。
「それでも……、最大の特徴が『原作関係ねえ! 』と言われてしまうのは、原作在りのゲームと言うのはどうなんだろうな?」
そんな今更言っても仕方がないことを、彼は口にしたのだった。
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