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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第5章】乙女ゲームの歪(いびつ)化
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神子たちは思い、悩む

「ちょっと、数字が伸び悩んでるんだよな~」

 目の前にいる金髪美少女は悩まし気に溜息を吐く。


 どこからどう見ても、絵になる姿は……、毎度のことながら、その口から零れ出す様々な言動で全てが台無しになる。


「どうしたら、ヤツら、ヤる気がもっと出るようになるんだろう?」


 当然ながら、彼女が口にしているこの場合の「やる気」とは、何かを成し遂げようとする気力のことではない。


「アルズヴェールの所は、それでも数字が一番高いでしょう?」


 どんなに頑張っても、わたしは彼女に追いつけない。


 それが悔しかった。

 でも……、どんな方法をとっているのかを確認したことはない。


 それは、同時に負けを認めることになるから。


「いや、確かに多くなったが、伸び率そのものは少し緩やかになってきている。もっと人口を増やさないと、まだ人口減少に歯止めがかかったとは言い難い」


 さて、一体、今はいつの時代でしょうか?


 何故、こんな本に囲まれた場所で、見た目は若い女子が二人して、「産めよ増やせよ」的な話を四六時中しなければならないのか?


 いや、そのためにわたしたちはこの世界に呼ばれて、頑張っているのだろうけど、それでもふとした時に疑問は湧くのだ。


 ―――― 何故、選ばれたのがわたしたちだったのか?


 わたしやアルズヴェールの中の人はそれなりに成果を出している。


 人口が減少に向かっていた火と風の大陸は、わたしたちの感覚で2年前、人界の感覚では20年ほど前から少しずつ、増加に転じていることからもそれは明らかだった。


 だけど、他大陸を担当している神子たちは、光の大陸を育成中のシルヴィクルを除き、神様たちと仲良くしているばかりで、そこまで人類たちに関心がないのだ。


 そんな人たちに任せて大丈夫か? ってぐらいに。


 勿論、そこにはわたしが知らない何らかの選定基準はあるとは思う。

 身体と中身が違うこともそこに理由があるのだろう。


 だけど、創造神様を筆頭とした神様たちには、どうも、本気で人間たちを救う気があるとは思えなかったのだ。


「火の大陸は、大気魔気が一番、濃密なんだ。だから、もっと強い魔力保持者を増やさないといけないってのに……」


 彼は、そんな不思議なことを口にした。

 わたしの知らない話……ということは……。


「それは原作設定?」


 そんな話は「すくみこ! 」内にはなかったと思う。


「そうだ。ゲームの方にはなかったのか?」

「ないね~。そもそも、『すくみこ! 』は、乙女ゲームだから」


 そんな小難しい設定はなかった。

 もともと「すくみこ! 」は、それぞれの「みこ」たちが主人公となる。


 だから、情報の偏りを避けた可能性はあるかもしれない。


「でも、ゲーム内ではアルズヴェールが一番、人口が増えやすいと思っていたけど……、チートってわけじゃなく、ちゃんとした裏設定だったってことかな?」


 主人公(その1)(メインヒロイン扱い)であるアルズヴェールは、何もしなくても、ある程度は人口が増えていく。


 バッドエンドを含めた全EDを見るためには、ある意味、彼女が一番の強敵だった。


 他の「みこ」たちが、育成から離れて恋愛モードになっても、彼女だけはぶれずに大陸を育ててしまうのだ。


 でも……、それは中身が「男性」だったと分かれば、納得もできてしまう。


 NPC状態の彼女が攻略対象に興味を示さなかったのはそう言うわけだったのか……、と。


 ……いや、プレイヤーがアルズヴェールを主人公に選んだ時点で、その設定は揺ら……がないのか。


 中身が「男性」から、その時だけ、「女性」に変わっているわけだから。


 それすらも裏設定にあったとしたら……、「製作者すげえ」と感嘆するしかない。


 いや、裏設定以前に、この状況が、既にいろいろとおかしいってことは分かっているのだけど。


「それで……、伸び悩んでいるってどれくらい?」

「ハルナの言葉を参考にして、神官から人口を年齢ごとに集計させてるんだが……、増えているけど、同時に減っているんだよ」


 そう言いながら、書類を渡してくる。


 どうやらその資料を見ろと言うことらしいが、彼は、わたしが競争相手という自覚はないらしい。


 これをわたしが悪いことに使うとかは考えないのだろうか?


 資料に目を通すと、いつもながらかなり癖の強い文字が目に入る。


 アルズヴェールは見た目、丸っこい文字を書きそうに見えるが、実際、その中身は男性のためか、定規で引いたように、妙にまっすぐで力強い文字が並んでいた。


 わたしの文字も上手くはないけれど、彼の文字よりは読みやすい……はず。……多分。


「……死因の調査をした方が良いかもね。年配の方を中心なら寿命とか考えられるけど、この中途半端な年代に集まっているのが気になる」

 癖のある文字で書かれた資料を見ながら、思ったことを口にする。


 普通は、10歳以下の子供や、平均寿命が30年という言葉を信じるなら二十代後半に亡くなった年齢が集まりそうなのだけど、彼の資料は十代後半が少し多い気がする。


 自分の資料と比較する限り、それは気のせいではない気がした。


「疫病とか……か?」

「疫病で真っ先に亡くなるのは、弱い子供や年寄りだと思うよ」

「そうか……。この世界は医療が発達していないはずだから、それが理由かと思っていた」

「そうなの?」


 まあ、昔の時代ってそんなものかな?


 昔話にもたまに医師も出てきたりするけど、基本的には身分が高くないと病院のような施術院の世話になるのは難しいイメージがある。


「魔法がある世界だからな。病気に対する術がないらしい。流行り病で身内が亡くなったり、身分が高い人間がタネなしになったりする話もあった」

「た、タネなし?」


 ちょっと場違いな言葉が出てきた気がする。

 なんと言うか……乙女ゲームらしくないような話題?


「……詳しい説明がいるか?」

「不要! 不要!!」

 詳しく説明されても困る。


 でも、そんな話題があるなんて……、原作漫画は一体どんな話だったの?


 確か、少女漫画だったと記憶していたのだけど……、それは、どんな層を狙った話だったのか?


「な、なかなか……、原作って凄い話だったのね」


 そう言うしかない。


「おお、凄い話だったぞ。女性が描いているのに、割と男性視点もあったぞ。特に『発情期』の話は……、いろいろと考えさせられた」

「は、『発情期』?」


 先ほどと同じような系統の話が聞こえてきた気がする。


 女性の作者だということは聞いていたが、もしかして、名前(ペンネーム)が女性なだけで、男性が描いているのかもしれない。


 でも、絵柄は女性っぽかった気がする。


「今みたいに人口が衰退している時期に、神が人口増やすために行ったらしい。年頃になっても童貞のままだった男が発情して、好きな女に襲い掛かるとか、そんな設定だったと思う」

「しょ、少女漫画だよね?」


 なんだろう?

 その青年漫画の無茶設定にありそうな話は……。


「少女漫画だったぞ。だけど、その時期を通して、主人公たちも成長するようになっているからな」

「それ……、同人誌の設定とかじゃなくて?」

「本編だな。オレは、同人誌というものを読んだこともない」


 まさかの公式設定。

 ますますもって、どんな話か見当もつかない。


 病気に対応する方法がないというのは分からなくもないけれど、人口衰退に歯止めをかけるために人為的……、いや、神がかり的な力で発情させられて、好きな人を襲ってしまうとか。


 男にも女にも苦痛でしかないのではないだろうか?


「そうでもしなければ、好きな女を抱けないのが一番の問題なんだが」

「そうだね」

 あっさりと言うリア充。


 でも、世の中、そんな勝ち組ばかりではない。

 見ているだけで満足して終わってしまう恋の方が圧倒的に多いのだ。


 それは自分だけかもしれないけれど。


 今の居心地が良い関係を、自分の手で壊してしまうのは本当に怖いことだから。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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