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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第3章】乙女ゲームは続く
32/75

定期報告中の話

『お待たせして申し訳ありません』


 部屋の奥の扉から出てきたのは、前回も案内してくれた導きの女神ディアグツォープ様だった。


 相変わらず綺麗でどこかほんわかとしているけど、どこか隙が無いようにも見えるから不思議だ。


『それでは、お一人ずつ奥の部屋で報告をお願いいたします』

「奥の部屋に一人ずつ……ですか?」


 そう問い返したのは、シルヴィクルだった。


 流石、中身は最年長。

 神様相手にも躊躇いがない。


『はい』

 ディアグツォープ様は笑顔で返す。


 ゲーム内の報告会も一人ずつだった覚えがある。

 今日は、「定期報告の日だ」とお迎えが来て、「行く」か「行かない」かを決める選択肢が発生するのだ。


 そこで、「行く」と決めたら場面が変わって、創造神様の前に「みこ」が一人だけ立ち、大陸の発展状況を告げることとなる。


 それで、その日は一日経過して、次の日となるのが「すくみこ! 」の流れだったはずだ。


 だから……、何もおかしくはない……よね?


 いやいやいや?

 この世界は切羽詰まっていると聞いている。


 それならば、皆で意見を出し合って協議した方が良いと思う。

 その方がより多くの角度からこの世界を見ることができるのだから。


 それとも……、わたしが考えている以上に、神様たちもそこまでの危機感はないってことなのか?


『そこで……、創造神が貴女方にお会いになられます』

 ざわりと周囲の雰囲気が変わったことが分かる。


 確かに、「すくみこ! 」の定期報告は、創造神に対して行うものだった。

 だが、なんとなくこの世界ではそれがない気がしていたのだ。


『それでは、闇の神子、『リアンズ』様はいらっしゃらないので……、空の神子『キャナリダ』様からお願いします』

「は、はいっ!」


 ゲームではアルズヴェールがメインヒロインだけあって、何でも最初だった。


 「すくみこ! 」内では、基本的に赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の順番になっている。

 だから、神子たちだけの自己紹介の時でも、プレイヤーたちが慣れているその順番で指定されたのだろうし。


 その考え方がどこかにあったのか、キャナリダは慌てたように返事をし、ディアグツォープ様に連れられて、奥の部屋へと消えていった。


 しかし、先ほどディアグツォープ様は気になることを言っていた。


 リアンズのことを「闇の神子」。

 そして、キャナリダのことを「空の神子」と。


 「紫羽」や「藍羽」ではなく、別の言葉で。


 そして、そのルールに当てはめるなら、わたしは「風の大陸」から選ばれた「神子」らしいから、「風の神子」となるだろうか?


 なんだろう?


 この世界は「すくみこ! 」とは違う。

 でも、どこか「すくみこ! 」に似ている。


 ゲームに一致するようで、微妙にズレた感じは、この一月(ひとつき)に、何度もあったのだ。

 これは、わたしが原作漫画を知らないせいだろうか?


 だけど、横にいるアルズヴェールも変な顔をしているし、原作もゲームもどっちも知っているという神子たちもどこか奇妙な表情をしていた。


 先ほどまでのどこか浮ついた雰囲気はなくなり、少しだけ重苦しく感じる。


 誰も口を開くことないまま、次の「水の神子」トルシアが呼ばれ、続いて「地の神子」マルカンデも呼ばれた。


 そこでようやくシルヴィクルが口を開いたのだ。


「ねえ……、この世界って、やっぱり『すくみこ! 』と違うわよね?」

「以前、言った通り、ワタシはそのゲームに対する知識がないので、よく分かりません」


 その言葉に対し、わたしより先にアルズヴェールが答える。


「あら、本当にゲームやってなかったの? ポーズかと思っていたわ」

「はい」

「ああ、だから『アルズヴェール』という初心者向けの役が貴女にあてがわれたのかもね」


 シルヴィクルさん?

 さらりと彼女に酷いこと言ってませんか?


「アルズヴェールは……、初心者向けなのですか?」

「その整いすぎた容姿。それだけで、勝ち組だとは思わない?」

「いえ、ワタシは、『ラシアレス』の方が好みの容姿なので」


 おい、こら。

 さらりと何を言ってやがる、この男。


「ああ、美人系より可愛い系が好みなのね。分かる気がするわ」


 分かるんかい!

 ああ、脳内で突っ込みの嵐だよ。


「じゃあ、『アルズヴェール』というだけで、ゲームの攻略難易度が下がるとだけ理解できれば良いわ。男の人って、見た目で八割判断するらしいから」


 そんなことをシルヴィクルはしたり顔で言っていますが、その相手の中身が本物の男って知ったらどうするのだろうか?


 対するアルズヴェールの表情は笑顔のままだった。


 無害で純真無垢な印象。

 俗世の穢れを知らない本物の「みこ」。


 だけど、その中身はチャラい男だ。

 そのことをわたしだけは知っている。


「そっちのラシアレスは? 神様攻略は進んでる?」

「神様攻略?」


 はて?

 神子の仕事って……、人類の救済ではなかったか?


「まさか、貴女……。真面目に育成やってるの?」


 わたしの言葉にシルヴィクルは目を丸くした。


「真面目に……って、神子は人類を繁栄させるために呼ばれたのですよね?」

「馬鹿ね。手っ取り早いクリアは、神様を落とした方が早いのよ」

「ワタシも……、人類の人口を増やすために頑張るって話だと思っていましたが……」


 アルズヴェールも戸惑っている。


 そりゃ、そうだ。

 わたしたちが毎日、書物庫で相談している話の全否定となる。


 いや、最近は雑談になることが多いのも否定しないけどさ。

 この男、結構、話とか着眼点とか面白いから、つい……ね。


「私たちはこの世界にとって『異物』って話はしたわよね」

「「はい……」」

 最初の……共闘の申し出の時にそんな話を聞いた。


「だから、ほっといてもいずれは元の世界へ還されるはずなのよ」

「そうなると、人類の救済はどうなるのでしょうか?」

 戻れるからって放置する理由にはならないと思うのだけど。


「後は本物に任せれば良いでしょ? そもそも、何の能力もない私たちを呼んだ方がおかしいのだから」


 なんという無責任な発言。

 役目を与えられても知らんぷりするとは……。


「それに、原作通りなら、この世界は救われるのよ」

「どういうことでしょうか?」

「本当に、貴女も何も知らないのね。漫画(原作)は7人の『救いの神子』たちによって再び、人間の世界が繁栄した後の話なのよ。だから、ここで人間たちが滅んでしまうと困るの。話がおかしくなるから」


 この場合、困るって誰が困るのだろうか?

 やっぱり、創造神を含めた神様たち?


「それでも……、何の努力もしないのはおかしいと思うのですが……」


 アルズヴェールもわたしと同じ疑問を持ったようだ。


 それだけでも、わたしは何か救われた気がした。

 それが何かはよく分からないのだけど。


「神様を落とすためにどの『みこ』も最低限、育成のポーズはとるはずよ。そうしないと神様との好感度が上がらないから」


 確かに、「すくみこ! 」でも、全く育成をやらず、義務を果たさなければ、創造神に怒られるルートに突入しやすくなる。


「まあ、『リアンズ』が役目を放棄したから、ちょっとバッドエンド率は高くなっているかもしれないわね。でも、その分、貴女たちが頑張ってくれるなら、『アルズヴェール』や『ラシアレス』のノーマルエンドにいきやすくはなるかしら」

 彼女の言うノーマルエンドとは、育成を完了し、家族の元へ帰るEDのことだろう。


 本当に無難で、「みこ」が家族や友人たちと思われる人たちに囲まれて笑っているCGが表示され、「そうして、『みこ〇〇(ヒロイン名)』は世界を救い伝説となった」というメッセージが出る世界救済系のゲームによくありそうなEDだった。


 でも……、いろいろ知ってしまった後でよく考えると、時間の流れが違うはずなのに、よく家族は生きていたなという矛盾もある。


 もしかしたら、その時間に戻される仕様だったのだろうか?


 今更、そこに突っ込みを入れても仕方がないのだけど。

 ゲーム内に、時間をそこまで追求する描写もなかったしねえ……。


「シルヴィクル……、いえ、(れい)さんは、早く帰りたいのですね」

 ふと、アルズヴェールはそんなことを言った。


「え? あ、ま、まあね。その溜まっていた仕事もあるし、その……、うん。一月(ひとつき)も離れてしまうと、あんな生活でも恋しいと言うか?」


 顔を紅くしながら、誰かに言い訳をするように答えるシルヴィクル。


「実は、好きな人が、いたのよ。私に、その自覚はなかったのだけど……」

 そう言うシルヴィクルの後ろにぼんやりと、知らない誰かの影が重なった気がした。


 それは、長い黒髪を後ろで一つに纏めた女性の姿。

 面長で、なんとなく「可愛い」よりは「綺麗」系な感じの女性だった。


 だけど、その次の瞬間。

 それらがいろいろと吹き飛んだ。


「神様に熱烈に口説かれて、そのことに気付いたの」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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