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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第2章】乙女ゲームの始まり
23/75

神子は夢を見る

 ―――― 夢を見た。


 深くて白い霧の中。

 わたしは一人、立っている。


 視界は真っ白すぎて何も見えない。


 まるで、山の中で迷子になった時のようだ。

 それでも、ここが夢の中だということは、何故か分かった。


『二人目か……』

 唐突に声がした。


 男性にも女性にも聞こえるが、覚えのない声。


 でも、どこから聞こえるのかは分からない。

 周囲は反響しているわけでもないのに、その声の出所が掴めないのだ。


「二人目……?」

『初めまして、「ラシアレス」……。いや、「ハルナ」か』

「ふおっ!? は、初めまして……?」


 突然、身体の名を呼ばれ、その後に中身の名を呼ばれた。

 わたしの混乱は必至である。


『2,3、現状に答えてやれと『導き』に言われた。何か、あるか?』

 姿が見えない声は、どこかやる気がなさそうな声で、そんなことを言った。


 いや、わたしにとって大事なのは、この人が誰で、目的は何か?って話だ。


 だが……、この状況に対して、2,3しか受け付けてくれないのは少し困る。


 だから、相手の正体確認は除こう。

 そこで使うのは勿体ない。


 数を増やせないか? という質問もNGだ。

 逆にその質問がカウントされるだろう。


 あまり良くない頭をフル回転させる。


 この人はわたしの身体も中身を知っている人。


 さらに、「導き」という言葉を使った。

 それは、チュートリアルのような状況説明をしてくれたあの女神のことだろう。


 関係者なのは間違いなさそうだ。


『何もなければ、行く』

 うん、やはりあまり気は長くないらしい。


「この世界は何でしょうか?」

『……意識』


 短い!

 そして、わけが分からない!!


 さらに、一瞬、微妙な間があった時に、舌打ちが聞こえた気がしなくもないが、そこに突っ込むことはしない。

 この様子だと、絶対、それもカウントに入れる気でしょう?!


『もうないのか?』

「あります。わたしたちの選定基準を教えてください。分かるのなら、身体ではなく、精神(中身)の方でお願いします」

 できるだけ、答えを濁されないように、要点を絞ってみた。


 これなら、答えるしかないでしょう?


『強靭な精神と魂の色。身体の相性と資質。そして、世界への関心』

 思ったより、長く返答された。


 そして……、それについて答えられる人だと言うことも分かった。


『「ラシアレス」については……もっと、適任がいたのだが、()()()()()()()()()()()からな』

 ……もしかしなくても、わたしは、補欠で選ばれたと言うことでしょうか?

 いや、適任がいたなら、そちらを呼ぶべきでしょう?


 わたしなんてただのOLですがな!!


『それにアレを呼ぶと、世界を壊しかねない』

 あ~、諸刃の剣系ですか……。


 どんなに資質があっても、世界を破壊するようなタイプを選ぶくらいなら、確かに次点を選ぶわ。


 それを聞かされた方は、いろいろ複雑だけどね!!


『あと一つ』


 なるほど……。

 本当に3つ限定ですね。


 2つにされなかっただけマシだけど。


「この身体の本来の意識はどこにありますか?」

『……どこにもない』


 ちょっと待って!?

 それってどういうことですか?!


『以上だ』

 そう言ったきり、その不思議な声は聞こえなくなった。

 

 おい、こら。

 声の主?


 こんな所にわたし一人、残されてどうしろと言うのか?


 そう言えば、声は、この場所を「意識」と言っていた気がする。

 それって、誰の意識だろう?


 夢だってなんとなく思うのだから、わたしの意識ってことだろうか?

 その考えで正しい?


 白い靄の中で、じっと自分の手を見る。


 白く、ぼんやりと隠されているが、これは間違いなくわたし、「宮本陽菜」の本来の腕だ。


 黄色人種らしく黄色味がかった肌の色。

 少しも手入れされていない爪。

 皺が必要以上に刻まれ、手相を見るのに苦労しそうだと思ったことがある手のひら。


 左腕には特徴的な、「北斗七星(ひしゃく)」のような並びの黒子(ほくろ)があり、右の手の甲には親指近くに二つ並んだ黒子(ほくろ)がある。


 こんな身体……わたし以外の何者でもない。


 わたしの身体である「ラシアレス」は、顔にも身体のどこを探しても、染みも黒子(ほくろ)もなかった。


 それどころか……、あの「神子さま(からだ)」。


 実は、髪の毛以外の毛も生えてないのです。

 手足の腕に産毛の一本すらないの!


 それを知ったわたしは総毛だったよ?

 毛もない身体なのに。


 おかしい!

 最近の女子中学生(J C)女子高校生(J K)って髪の毛以外、全身脱毛してるの!?


 羨ましいよ、こんちくしょ~!!

 そんな金があったら、別のことに使うけどな!


 いや、落ち着け、わたし。

 今はそこを深く追い求めても仕方ない。


 この世界は、誰かの「意識」。

 それは分かった。


 それだけでは、今、わたしがいる場所のことなのか。

 それとも、「みこ」たちがいる世界がそうなのかが分からない。


 そう考えると、質問は、もっと別のものにすべきだったね。

 でも、最初の質問は探りを入れる意味だったから仕方ない。


 そして、わたしたちが「みこ」に選ばれた理由はちゃんとあったらしい。

 ランダム抽選ではないことは分かった。


 わたしは二番手だったようだけど。


 ―――― 強靭な精神。


 うん、皆、かなりしぶとそうだった。


 円卓を囲んだ自己紹介で、それぞれ個性も強いと感じたのだ。

 わたしは、あの人たちと同列なのか……、と思うといろいろ複雑である。


 ―――― 魂の色。


 これについては、正直分からない。

 でも、なんとなく、わたしの魂って橙色なのだろうな、とは何故か思った。


 ―――― 身体の相性と資質。


 これはイヤらしい意味ではなく、単純に適合とかそんな話なのだろう。

 身体に上手く意識が入れるかってことなのだと言うことにしようか。


 ―――― 世界への関心。


 この世界が「すくみこ! 」だったとしても、それが10年前ではなく、何故、今か!? と言う話である。


 なんで、そのゲームの内容も忘れかけていた今頃になって選ばれたのか。

 本気で分からないのですが?!


 そして……、その選定基準なら、ゲームをやったこともない「アルズヴェール」の中身は完全なるイレギュラー要素だろう。


 何より、「男性」を選定っておかしくない!?


 でも一番、気になったのは、最後の質問だった。


 わたしは「身体本来の意識」の行方を尋ねたのだ。


 期待した答えとしては、わたしたちが割り込んだことによって、「どこか別の所に待機している」とか、「投げ出された後に浮遊中」とか、一番可能性が高いのは、「身体の中に眠っている」だったのだが、その返答はいずれも違った。


 ―――― どこにもいない。


 これって、一体、どういうことなのだろうか?


 そして……、一番、大事なのは、これが夢だってことだ。

 夢は目が覚めた瞬間、薄れて忘れてしまうもの。


 今回の会話は、結構、重要なものだったと推測する。


 ゲームの自動で発生するイベントの一種だろう。

 そう言えば、「すくみこ! 」内でも、好感度が高い神様たちが夢に現れるというトキメキイベントがあった気がする。


 今回みたいに姿を見せないような神様はいなかったけれど。


 わたしが「二番目」ってことは既に、誰か「一番目」がいて、もしかしたら「七番目」まであるかもしれない。


 恐らくは、「みこ」たち全てに3つの質問をさせるのだろう。


 自慢じゃないが、わたしは夢を全て忘れてしまう自信がある。


 見た夢を全て書き留める夢日記?

 一度だけやったことがあるけれど、ミミズがのったくったような字ばかりで、何を書いたか分かりませんでしたが、何か?


 さらに、唯一読めた文字が、「ヘル」。

 「HELP」なのか「HELL」なのか「HELMET」なのか、本気で分からない。


 いずれの単語だったとしても、どんな夢なのか思い出したくないレベルのお話ですよ?

 もう二度としたくないと思った。


 でも……、今回は新たな黒歴史を生み出したとしても、やらなければならない。


 れっつ、ちゃれんじだ!

ここまでお読みいただきありがとうございました

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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