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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【序章】ここはどこ?わたしは誰?
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主人公(その1)、登場

 改めて、まじまじと目の前の金色の髪をした少女を見る。

 見るからに細身の美人さん。


 その美少女も戸惑っていることは分かる。

 わたしをどこか訝し気な目で観察しているからだ。


 そして……、もし、彼女が言った「ラシアレス」がわたしのことだと言うのなら、彼女の名は「アルズヴェール」でファイナルアンサーだろう。


 いや、それ以外考えられない。


 主人公(その1)。

 俗に言うメインヒロイン、パッケージの中央部で可愛らしく笑う少女。


 そりゃあ、美人さんなわけですよ。

 ゲーム中では平凡な……って表記されていたけど、平凡な少女が神様たち相手に逆ハーレムエンドなんて目指せるはずもない!!


 何より、パツキン美女に「平凡な」という形容動詞が当てはまると思った開発者は何を考えているのだ!?


 わたしはそう何度も叫んだものだった。


 さて、ここで、わたしが学生時代にドハマりしていたゲーム「救いのみこは神様に愛されて! 」、略して「すくみこ! 」について、簡単に、熱く説明させていただこう。


 この作品は美形たちに囲まれてウハウハな美少女主人公たちによる、いわゆる逆ハーレム、乙女ゲームと呼ばれる恋愛シュミレーションゲームである。


 いや、建前上は、星という名の箱庭を育てていく育成シュミレーションゲームなのだが、どう見たって恋愛要素が多すぎるのだ。


 乙女ゲームとして珍しいのは主人公が1人じゃないこと。

 そしてダブルヒロインでもないこと。


 なんと驚きの7人なのだ。


 そしてその「攻略対象(相手役)」となる神様は8人。

 その内訳として、7人の主人公たちと対になる存在の神様プラス隠しキャラとして創造神がいるのだ。


 そのシナリオの構成上、各神様(ルート)、どの主人公(ヒロイン)を選んでも被ってしまう場面(シーン)はあるが、ノーマル、グッド、バッドの各エンディングに加え、ところどころに挿入されるエピソードやCGを書き下ろしたり、描き下ろしたりしてくれたシナリオライターさんとグラフィックデザイナーさんには本当に心から称賛の拍手を送りたい。


 しかもですよ!

 神様とのEDは単純に主人公を入れ替えただけのCGじゃないのです。


 その主人公たちごとに描き下ろされたCGなのですよ。

 ここが大事なのは分かっていただけますか!?


 それだけに、二次創作の世界もかなり盛り上がっていたとか。


 いや、ちゃんと誰とも恋愛しない箱庭用EDも数種類ありますよ?

 プレイヤーが「選ばなかった主人公(ラ イ バ ル)」たちとの友情EDも。


 でも……、正直、それらはあまり印象に残っていなかったりする。

 どれだけ、恋愛に重点を置いていたのだろうか……って、それだけだよね。


 実際、単純に「箱庭()」を育てるだけのゲームだったなら、面白かったかは分からない。

 今のわたしならともかく、当時のわたしでは無理だったろうね。


 うん、もう少し真面目にあらすじってみよう。


 神々の怒りを買って、星が一度浄化されてしまい、人間たちが激減した時代。

 このままでは、人類が滅んでしまうと焦った神々は、人間をもう一度増やすために一計を案じることにした。


 神様が力を貸して、人間たちを再び繁栄へ導こうとしたのである。


 だが、地上へ力を飛ばすことはできても、神様たちは(いにしえ)の盟約に縛られ、人間たちの領域に降りることは許されない。

 

 神様たちは「聖神界」と呼ばれる世界と、人間たちの魂が向かうとされる「聖霊界」と呼ばれる世界でしか活動ができないそうだ。


 そして、創造神はいるけれど、唯一神ではない世界。

 この世界の神様は万能ではないらしい。


 そのために「みこ」と呼ばれる神と会話することができる7人の少女たちが世界から選ばれたのだった。


 他の特徴としては、このゲームは漫画が原作の作品なのだ。

 ……とは言っても、いわゆるキャラクターゲームではなく、その漫画の要素は何故か欠片程度しかないことでも話題になっていた。


 不思議なことに、「本編関係ねえ! 」が「すくみこ! 」のもう一つの要素でもある。


 わたしはその漫画にそこまで惹かれていないので、詳しくは知らないのだが、元になった漫画の遥か過去の世界が舞台……らしい。


 だから、原作漫画の主人公やそれに(まつ)わる話はほとんど出てこない。


 ごくたまにそれっぽい単語が出てきて、原作ファンをニヤリとさせるギミックがあちこちに散らばっていたらしいが、原作読者ではない自分にとってはどれのことか分かっていなかったのだけど。


 せいぜい、「救国のみこ」と言う言葉が、その原作に出ていたことを知っているぐらいだろうか。


 そんな原作も知らないわたしが、何故、そんなゲームをやり込んだのかというと……、珍しい7人の主人公選択……、ではなく、単純に絵が当時のわたしの好みにどんぴしゃだったのだ。


 原作の絵もこのビジュアルなら即買いしていた自信もある。

 美麗な立ち絵やイベント絵に、可愛らしいディフォルメキャラ。


 特に……、創造神の黒髪ロング、銀色の瞳は当時のわたしの心を直撃したものだ。

 しかも性格は尊大で俺様気質。


 そう言ったものに憧れてしまう年代だったとは言え、今、思い出してみると結構イタい人種だったんだな、わたし。


 いや、現実は真面目な方が好きですよ。

 でも、2次元と3次元で趣味が違うことはよくある話でしょう?


 だが、今はそんなことはどうでも良い。


 認めたくないけれど、ここが「すくみこ! 」の世界だと仮定しよう。

 認めたわけじゃないけど、その方が話も早く進みそうだから。


 それに違っても問題があるわけではない。

 「すくみこ! 」要素を口や態度に表さなければ良いのだ。


 だが、やり込んだとは言え、10年も昔のゲーム。


 印象的な台詞や場面ならともかく、細部などはほとんど覚えていない。

 十代ならともかく、二十代の記憶力などそんなものだ。


 いや、最近やった印象に残らないゲームたちよりは覚えている気もするが。


 そして、そこが問題というわけでもない。

 一番の疑問は、何故、現代社会で平凡なOLしていたわたしが、こんなところにいるのかということ。


 しかも、ゲームの主人公(その2)の姿というのが解せぬ。

 見た目だけなら主人公(その7)の銀髪、紫の瞳の少女が一番好きだったのに!


 いや、この黒髪、黒い瞳のラシアレスも嫌いじゃなかったけれど、どうしても日本人って感じがしてしまうんだよね。


 それにラシアレスは、快活な女の子だけど、プレイヤーが操作していても、信じられないぐらい突き抜けた「ドジっ()」だったはず。


 そこから発生する彼女独自の場面もあるぐらいだし。


 ただでさえインドア気味の中身。

 さらに二十代も中盤のこの年齢で、元気の良い少女って無理がありますわ。


 そうなると、一番、分かりやすいのは「夢オチ」である。


「この非現実な出来事は全て夢でした」


 本来ならば、読者、視聴者、プレイヤーが暴動を起こすような終わり方にもなる可能性が高いが、今のわたしの状況としては、一番、現実的でもある。


 寧ろ、これであって欲しいと切に願う。


 次に頭をよぎったのは「異世界転生」である。

 これは、ライトノベルや漫画、最近ではアニメによくみられるようになったジャンルで、ファンタジーを取り扱った世界では飽和状態となっているように感じている。


 確か乙女ゲームの主人公や悪役、モブに生まれ変わるというものもあった覚えがあるが、そのジャンルにもあまり詳しくはない。

 ただ、これだけは言える。


 次元の壁というのは、死ぬことでしか越えられないのだろう。


 そして、わたしはPCの電源を落とした覚えはあるが、命まで一緒に落とした覚えなどなかった。

 死んだことを覚えていないだけかもしれないけれど、その可能性は除外しておく。


 よく分からないうちに死んでしまうなんて……、無理ゲーにも程があるだろう。


 導入も雑すぎて、自分が納得できない。

 せめて、異世界運送トラックというものを用意してください。


 詳しくはないけれど、そんな話を聞いた覚えがある。

 何でも、轢かれることによって、異世界へ運ばれるそうな。

 でも、痛いのは嫌だな。


 そして……、もう一つの可能性は「異世界転移」である。


 これは「異世界転生」とは異なり、死なずに、何らかの事情で別の世界に放り込まれる話。

 こちらもゲームを元にした世界に移動したりするなど、いろいろある。


 「異世界転生」が流行る前は、こちらの方が多かった気がする。


 うっかり別世界に行っちゃったって話は、昔からあるのだ。

 分かりやすいのは、「御伽草子」にある「ねずみ浄土(おむすびころりん)」が代表例といえるだろう。


 宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」も現実から離れるという意味では異世界転移と言えなくもない。


 しかし、ルイス・キャロル作「不思議の国のアリス」シリーズが一番、分かりやすい「異世界転移」ではないだろうか?


 いや、「不思議の国」も「鏡の国」も結局は夢オチなんだけど、それを元にして書かれた数々の後世の作品たちは……。


「ラシアレス……ですよね?」

 わたしの思考を中断させるかのように、目の前の少女は尋ねた。


 さて、彼女の質問に対して、わたしはどう答えたものだろうか?


 実際、わたしは「ラシアレス」ではないのだ。

 中身は二十代OL。


 だから「はい」と答えるのは違う気がする。


 でも、「いいえ」と答えても説得力がないだろう。


 少なくとも彼女の瞳にはわたしの姿が日本人の「宮本(みやもと)陽菜(はるな)」として見えていないはずなのだから。


 だけど……、事態はわたしの言葉など待ってくれなかったのだ。

改めて考えると、「異世界転移」の定義って難しいなと思いました。

ある意味、古事記の「黄泉の国」の話やギリシア神話等の「冥府(死後の世界)」とかも該当しますね。


次話は明日、投稿予定です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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