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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第2章】乙女ゲームの始まり
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神子の役割

「貴女の決意は分かった。ならば、私もパートナーとして力を尽くさせてもらおう」

 そう言いながら、ズィード様はニコリと微笑んだ。


 いや~、美形の微笑みは見ているだけで心が癒されるね。

 でも、不思議なことに、あまりトキメキはなかった。


 彼の笑顔がどこか作り物に見えるというのがある。

 なんとなく、精巧な人形。


 いや、神様だからそんな造形でもおかしくはないのか。


 加えて、先ほどの映像。

 あんなものを見せられてすぐに恋愛脳になれるほど、わたしは自分のことしか考えられない人間ではないのだろう。


 正直、元の世界では、他人に無関心な自覚はあった。

 でも、それは余裕があった世界(ころ)の話。


 ここまで追い込まれた世界を見せられて、他人事とできるほど、わたしは人の心を捨ててはいなかったのだろう。


「『みこ』の役割を教えていただけますか?」


 パートナーであるズィード様に、先ほどの問いかけをもう一度、言葉を変えて尋ねてみる。


 よく考えれば、人間と神様で言葉が通じているのは不思議だけど、全ての言葉が通じるわけではないかもしれない。


 現代日本人の感覚では一般的な用語、知識がこの世界にない可能性もある。

 だから、意思疎通をするためにはいろいろとその辺りも勉強していく必要があるだろう。


『「みこ」たちの役目は、人類と我らの橋渡しが主となる』


 ふむふむ、なるほど。

 そこは「すくみこ! 」と同じようだ。


 ゲーム内でも「みこ」たちは、人間たちの代表となる神官からの言葉を受け取り、神様からの言葉を伝え、不思議な力を使う……だったはず。


「橋渡し……とは?」

 でも、念のために確認しておこう。


 思い込みで情報に相違があっては仕事も上手くいかなくなる。


『人類の願いを聞き入れ、発展に尽くすこと。そして、神が気付いた人類の不和や錯誤を正すこと。そして……精霊の乱れを落ち着かせること……だな』


 ぬ?

 なんか不思議な言葉が出てきた気がする。


 人類の願いを聞くってのも、そのやり方について説明はなかった。

 失敗を正す必要もあるってのも、どうやればよいのか不明。


 でも……、それ以上の疑問。


 精霊って何?

 そんなの「すくみこ! 」ゲーム中に、見た覚えはなかった。


 わたしはよほど奇妙な顔をしていたのだろう。

 ズィード様は続けてこう口にした。


『勿論、精霊と言っても人間の目にも映るような中級精霊ではない。源精霊(げんせいれい)()精霊(せいれい)……、貴女たちにも分かりやすく言えば、「大気(たいき)魔気(まき)」と呼ばれるモノの調整だな』


 「大気(たいき)魔気(まき)」という耳慣れない単語なら、「すくみこ!」内でも出てきた。


 大気の中に含まれている魔力のことだと解説にあった覚えがある。


 それらを合わせて考えると、この世界では魔力って精霊のことなのか。

 「げん」の文字はちょっと分からないけれど、「び」は「微」のことだと思う。

 その文脈から考えて、「美」ってことはないだろう。


 しかし、時々、「すくみこ! 」世界と重なるような、そうでもないようなこの微妙なバランスがちょっと不思議に思える。


 完全に違うわけでもないけど、全く同じというわけでもないのだ。


 だから本当に、誰かの考えている「異世界人(わたしたち)が介入することによって、この世界が微妙に変化してしまった」と言われても、妙に納得してしまうかもしれない。


「人の願いとはどうやって聞き届ければ良いのでしょうか?」

 少なくとも、人の住んでいる世界には、簡単に行ける気がしない。

 テレポートみたいに瞬間移動でもしろというのだろうか?


『人類の……、「シンカン」とか言ったか。その者に「鏡の間」と呼ばれる部屋で定期的に連絡を取り合う形となっている』


 ぬ? 「シンカン」……?

 ああ、「神官」か。


 その辺りも「すくみこ!」の世界と同じだ。

 

 「鏡の間」と呼ばれてはいなかったが、さっき人の世界を見た鏡以上に大きな鏡のある部屋で、神官から土地に足りない「魔力」を乞われるのだ。


 不思議な力である「魔力」とは、その土地に影響を与えるものだとその神官から説明される場面があった。……多分。


「それならば、神様が気付いたことも、その時に神官へ伝えれば良いのでしょうか?」

『そうだな。その方が無駄はない』

 無駄がない?

 無駄のある方法もあるのかな?


『だが、我々が人の世について気付くのは不定期だ』

 ああ、なるほど。

 確かに気付いてすぐ報告する方が、被害(キズ)は少なくて済むという話かな?


『それに人類の世と、我らの世界では時の流れが違うらしい』

 その言葉に、ビクリとなる。


 それはつまり……仮にこの世界で5年間を過ごしたなら、実際の世界はもっと早く時が過ぎているということだ。


 思い出してみれば、「すくみこ! 」世界もそうだった。

 ゲーム内で、神官たちが世代交代をしていた覚えがある。


 確か、5年で5人。

 寿命が30歳までだと仮定して、……うぬう、分からん!


『この世界の1年で人類の世では約10年の月日が流れると聞いている』


 3倍ではなく、10倍の速度!?

 そうなると、25歳のわたしの身体は、寿命を迎えているかもしれない。


 もう、ここで骨を(うず)める決意をしなければいけないのか?


 いや、待て!

 確か、「すくみこ! 」は、神様との恋愛イベントを無視して突っ切れば、最短で3年ぐらいでクリアした強者(つわもの)もネット上ではいたはずだ。


 わたしにはできなかった……というより挑戦すらしなかったけれど。


 いや、当時は今と違って、「乙女ゲームで恋愛しないなんてありえないでしょ? 」という学生時代だったので……。


『ラシアレスは随分と表情が変わるのだな』

 そんなズィード様のお言葉があった。


 わたしは慌てて、顔を両手で隠す。

 社会人としてあるまじきことだ。仕事仲間の前で、表情をコロコロと変えるなんて、不審すぎる!!


『隠さなくてよい』

 そう言いながら、ズィード様はわたしの両手をやんわりと掴んで、見つめてくる。


 おおう。

 流石は美形だ。


 実際の社会人(男)が異性に対して行えば、セクハラとなりそうな行動も、文句が付けようもないほど絵になっている。


 ただ……何故だろう?

 それでも、不思議とわたしに響かない。


 特に、美形に慣れているわけではないのに……。


 この行動も、乙女ゲームのプログラムだからと思うせいか。

 それとも、「宮本陽菜」に対してではなく、「ラシアレス」に向けられていると分かっているからか?


 そして、困ったことにどちらかと言うと、昨日の「アルズヴェール」の方がドキドキした気がする。


 いや、わたしに同性愛の()はなかったはずだ。


 彼氏はいたことはないが、少なくとも四半世紀の人生の中で、これまでに好意を持ったのは二次元も三次元も全て男性だった。


『「神子」たちが「純粋培養」という話は……本当だったか……』

「はい?」

 不意に聞こえたズィード様の言葉。


 「じゅんすいばいよう」……。「純粋培養」?


 だが、ズィード様はわたしの手を離して、顔を反らした。

 どうやら、言うつもりはなかった言葉らしい。


 「みこ」たちは選ばれた存在。

 それならば、どこかで俗世から隔離されて育てられていた可能性はある。


「『純粋培養』で育った自覚はありませんが、わたしが世間知らずなことは確かです。これから、いろいろと教えてください」

 育った世界が違うのだから、「世間(世界)知らず」であることは間違いない。


 そして、わたしの見た目と中身が違うことも……、この方はご存じないのだろう。


 そうなると、こうなった原因は、異世界物のお約束である「創造神(上位の神)」の能力(ちから)か?

 それとも、一定の人たちが喜びそうな単語、「世界の意思」というやつか?


 現段階では判断しにくい。


『分かった。できる限り、貴女の力となろう』

 そう言いながら、ズィード様は微笑んでくれたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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