神子の決意
ここから、ゲーム本編(1年目)が始まります。
「みこ」生活2日目。
いよいよ、今日からわたしの「みこ」としての生活が始まった。
『では、ラシアレス。まずは、神子である貴女に人界の現状を見ていただこう』
朝食後、わたしの部屋に訪問された橙色の羽をお持ちのズィード様。
その大きな羽は収容できないようだ。
日常生活に邪魔ではないのだろうか?
そして、残念ながら(?)、逢引きのお誘いでもない。
わざわざ自ら、現状説明に来てくれたらしい。
神様だと言うのに、呼びつけない辺り、好感が持てると思う。
まあ、「すくみこ! 」世界もいきなり「みこ」と神様がデートすることはなかった。
だけど、好感度という目に見えない数値をある程度上げていないと、お部屋へ訪問してくれることもなかったはずだ。
それなのに、一日目から来てくれるのは不思議だね。
普通に考えれば、神様が来てくれるってかなり畏れ多いことなのだと思うが、昨夜、わたしがこの方に「人の世界を見たい」と、連絡させていただいたのだ。
その願いが叶うかは半々ぐらいの気持ちだったのだが、思ったよりもあっさりと承諾を得ることができた。
わたしが「自分が手伝うべき世界を見たい」と言ったからだろうか?
一応、断られた時を想定して、いろいろと他のプレゼンの準備までしていたのだが、それらは全て無駄になってしまったようだ。
ズィード様はどこからか大きな鏡を取り出した。
イッツアマジックワールド?
いや、神様に「マジック」ってなんかおかしいけど。
その鏡は最初、この部屋を映していたのだけれど、ズィード様が手をかざすと、別の場所を映し出した。
まるでテレビだ。
電源を入れる前は部屋を映し、スイッチ一つで、別の世界を映し出す。
そうなると、ズィード様の手はリモコンってことになるのだろうか?
しかし、神様をリモコン扱い。
この発想って人としてどうなのか?
テレビ……いやいや、鏡面世界に映し出されたのは、一面の森だった。
そして、その映像はスーッとどこかに向かって進み出す。
しかし、どこまで行っても、森を抜けることはない。
まるで、環境映像のようだった。
タイトルは「神様自然紀行」?
10分ぐらい、その自然映像を見せられたが、植物に見覚えは多分、ない。
わたしたちの住んでいる世界とはちょっと違う気がした。
少なくとも……二足歩行する樹は見たことない。
なんだ?
あの不思議植物。
根がまるで足みたいだ。
気持ちが悪いと思うよりも面白い、と興味の方が先に出る。
鞭のようにしなる枝をぶんぶんと振り回す低木もいる。
あれも凄い。
あまり長くはない枝に見えるので、その動きに何の意味があるかはあまり分からないのだけど、動きが妙にかわいいのだ。
植物なので、表情は見えないはずなのに、なんとなくドヤ顔をしているような雰囲気がある。
あれ?
動いている時点で、見た目はともかく、系統は「動物」になる?
そんな不思議な植物たちがいる森や、その中にある湖、森を抜けた先の平原、そして……海に到着した。
その途中にはやっぱり見たこともない動物はいたものの、人間の姿はほとんどなく、まさに「大自然万歳! 」としか言いようもなかった。
「人間は……いないのですか?」
少なくとも、先ほどの鏡面には映らなかった。
『いるけれど……、数が少ないから映らなかったみたいだね。流石に全ての場所を映したわけではないから』
なるほど……。
確かに先ほどの映像は周囲がわかる程度の速さで一直線に走り抜けただけだった。
それでも数十分はかかっている。
その調子で大陸全部の場所を観るのは大変かもしれない。
でも……。
「人間を見ることは出来ませんか?」
わたしが救わなければいけないのがこの大自然ではなく人間だというのなら、ちゃんと見ておきたい。
『……分かった』
少し迷いを見せるような仕草でそう言って、ズィード様は再び鏡面に手を翳す。
すると……、そこには数人の人間たちが映し出された。
特に何をするでもなく、座ってお喋りをしているように見える人たち。
その近くでは、せっせと木の実を拾っている人がいる。
そこには滅びに向かっている悲壮感はない。
平和といえば平和な印象だった。
画面が変わった。
今度はどこかの建物の中で、装飾品がついた服を着ている人たちが数人映し出された。
難しい顔をしながら、話し合いをしているようにも見える。
声は聞こえないので、その協議についての中身は分からない。
ただ……、議事録などを作成するような記録役の人間がいないことは気になった。
記録を残さない協議ということなのだろうか?
内密な話かもしれないけれど、後で、「言った」、「言わない」の話になると、面倒だよね。
さらに画面が変わる。
畑っぽい場所で、やっぱりお喋りをしているだけの人と、土を調べたり水をあげたりするなど作業している人に分かれていた。
他にも布を織る人の傍でお喋りをする人。
鍛冶をしている人の傍でお喋りする人。
道具を作る人の傍でお喋りをする人など、作業している傍でお喋りをしている人が必ずいて、それが妙に目についた。
……なんだこの世界。
「働かざる者食うべからず」って言葉を知らんのか?
いっそ、滅べ。
『これが、この大陸全ての人間たちだよ』
「ふわっ!?」
ズィード様の言葉に、わたしは思わず変な声が出てしまった。
思っていた以上に、少なすぎる。
もしかしたら100人もいなかったかもしれない。それに……。
「子供と年配の人がいない……」
映っていたのは二十代くらいの若者だけだった。
話し合いをしていた人たちの中にはナイスミドルが一人いたような気もするが、それでも年寄りはいなかったと思う。
これって……、もしかしなくてもかなり困った事態なのでは?
「他の大陸は?」
『同じようなものだ。数少ない人間たちが、身を寄せ合って生きている』
身を寄せ合って生きている……。
その言葉の割に働く意識の差が激しかった気がするのは気のせいか?
どの場所を見ても、のんびりお喋りをしている人が目についた。
あれは、休憩時間……だっただけ?
「この世界の人間たちの平均寿命を伺ってもよろしいですか?」
『平均寿命?』
……通じなかった。
「平均」って言葉がないのかもしれない。
「えっと……、この世界の人たちは、大体どれぐらい生きますか?」
『人によって違うけど……、人類は弱い。35回り生きれば長い方……だな』
その言葉にぞっとする。
神様は人間と感覚が違うと思うが、言葉から察すると恐らくは35歳で長寿って考え方なのだろう。
……多分。
だから、年寄りがいない。
そして、子供がいないってことは、もしかして、生殖能力も低いってこと?
それって、全滅待ったなしってことじゃないの?
「う、うわあ……」
思っていた以上に絶望的な世界。
なるほど……。
そんな全滅寸前の世界を救ったなら、確かに「救いのみこ」という言葉に間違いはないだろう。
漫画や小説に出てくる「聖女」と呼ばれる存在に等しいかもしれない。
ゲームをやっていた時はそこまで意識していなかったけれど、現実として状況を見せられると実感する。
そして、当事者たちにその当事者意識や危機感がないこともある意味、責められない気がした。
この人口減少は疫病とか、分かりやすく目に見える脅威ではないのだ。
さらに……、人口調査をしているかどうかも分からないし、わたしたちの世界のように情報を発信しているところもないと思う。
だから、ますます知らないうちに人が減っていくのだ。
そう考えると、意識してはいなかったけれど、現代日本のシステムってかなり凄かったんだなと思う。
戸籍による全体の管理。
各自治体による毎月人口増減の把握と公表。
数年ごとに国による各世帯状況の調査。
国外との交流。
さらには重箱の隅を突くような細かい情報発信。
でも、この世界にそれらのシステムを取り入れるのは難しいことも分かる。
その必要性を当事者たちが感じていないのだから。
「わたしたち『みこ』は何をすれば良いのでしょうか?」
こんな状況で、ゲームのように神様たちの不思議な力を借りたぐらいでどうにかできるものだろうか?
しかも、わたしの身体は「ラシアレス」……、各大陸から選ばれたという「みこ」の一人ではあるが、その中身は平凡なOLである「宮本陽菜」でしかない。
こんなわたしに一体、何ができるというのか?
『貴女はこの現状を見て、退かないのだな』
ズィード様はどこか驚いたかのようにそう口にした。
「退く? 何故ですか?」
当事者には分からない脅威でも、別視点から客観的に見たわたしの目に映るもの。
それを分かった上で見捨てる理由はない。
「選ばれた以上、微力ながらも手を尽くさせていただきます」
わたしは胸を張ってそう答える。
そうでなければ、ここに喚ばれた意味がない。
なんでわたしたち「異世界人」が「乙女ゲームの登場人物」たちに「憑依」させられているのかも、その辺りに意味がある気もするのだ。
この様子では、簡単に戻らせてはもらえないのだろう。
ならば……、神様との恋愛などと悠長なことをやってないで、とっととこの世界を救うために頑張るのだ!
ここまでお読みいただきありがとうございました。




