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乙女ゲームに異物混入  作者: 岩切 真裕
【第1章】乙女ゲーム、チュートリアル編
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チュートリアル終了

 いろいろあったが、どうやらゲームで言うところの「チュートリアル」とされる顔合わせは無事、終わったようだ。


 いや、あんな物別れの状態を無事と言って良いのかは分からないが、少なくとも、わたしにはそこまで害はなかったから悪くはない結果だとは思う。


 わたしは競合相手であるはずの「アルズヴェール」と手を組んで、このよく分からない世界で暫く生活していくしかない。


 確かに彼女()に関しては、少しばかり思うところはあるものの、他の主人公たちに比べればマシという認識だった。


 いや、乙女ゲーム的には、この展開ってどうなのよ? と思わなくもない。


 ライバルと手を取り合ってゲームクリアを目指す! ってのは、既に恋愛ゲームではないだろう。


 ただ、「ラシアレス(わたし)」も、当然ながら「アルズヴェール()」も神様と恋愛をする気は絶対にないという共通点があった。


 だから、できることだと思う。


 普通に考えれば、「目もくらむばかりの美形揃い踏み! 選ばれた少女たちは彼らと好きなだけ恋愛もできるよ! 」って世界なら、かなりやる気になることなのだろう。


 だが……、その先に待つのは間違いなく修羅の道だ。

 少なくとも、わたしには無理だと思う。


 確かに「すくみこ! 」世界ならそれは許された。


 実際、この世界が本当に「すくみこ! 」の世界だというのなら、「トルシア」のように本能のまま、神様たちを攻略! というのもありだと思う。


 だが、正直、今のわたしは出会ったばかりの神様に対して、そこまで強い関心を抱くことができなかった


 真面目を気取る気はないが、学生時代より恋愛観はかなり変わっている。


 そして、現実の恋愛は酷く重いものという認識もあるせいだと思う。


 確かに自分自身は男女交際というものの経験はないが、それでも、周囲を見ていると、三次元の生物(なまもの)に惚れても、二次元の登場人物(キャラ)に入れ込んでも、かなり疲れるものという認識でしかない。


 そして、永遠に続く保証もない。

 ずっと不変のものではないということも、もうこの年になると知ってしまっているのだ。


 今更、夢など抱けるものではないのだ。


 Q:じゃあ、どうするか?

 A:仕事するしかないでしょう?


 仕事は自分を裏切らない。

 やった分だけ。


 その成果は見えなくても、自分の中に経験と言う形で蓄積されていく。


 ―――― ああ、なんだ。


 何も変わらないのだ。

 現実も、この世界でも。


 どんんなに見た目は変わってしまっても、中身が「宮本 陽菜(わたし)」である以上、変わるはずもないのだ。


 ここまで「すくみこ! 」の世界に類似していて、何も関係がないと思わない。


 神様たちの名前はともかく、「みこ」たちの名前が全く同じと言うのは偶然であるはずがないだろう。


 それに「みこ」たちの外見は「すくみこ! 」世界の特徴とあまり大差はない。


 勿論、二次元と三次元。

 さらには「中身」が違うために、その印象は全然違う。


 でも、基本デザインが同じなのだ。


 これで無関係だったら……、「すくみこ! 」製作陣による恐ろしいまでの予知能力っぷりに拍手するしかなくなるね。


 さらに原作読者であった「アルズヴェール」が言うには、原作では、神様って存在は主人公に関わるものを除いて、ほとんど出てこなかったらしい。


 そもそも、神様って原作の主人公でもこんな簡単に会えるような軽い存在(扱い)ではなかったそうだ。


 それは、当然と言えば当然の話。


 最初にその疑問を持たなかった辺り、わたしはいい年して、まだ乙女ゲーム感覚が抜けていないのだろう。


 そう考えると、本当に「シルヴィクル」が言うように、「みこ」たちの中身が変わったせいで、「すくみこ! 」の世界観というやつがぶっ壊れてしまった可能性もある。


 それってマズくない?


 一つの世界を破壊してしまったってことになるのだ。

 この場合、責任の所在はどこにあるのだろう?


 ……この世界を作りし創造神(製作者)


 それとも、主導すべき創造神がこの世界にはいないから?


 いや、案内人であった女神の話では、「創造神」という言葉は出てきた。

 もしかして、その「創造神」の身に何かあって、最終的にはそれを何とかする課題が出てくる……とか?

 そんな乙女ゲームもどこかにありそうだ。


 でも、これ以上は、一人で考えても仕方がない。


 この辺りは、「ラシアレス」のパートナーである「ズィード」様か、手を組んだ「アルズヴェール」に少しずつ探りを入れていくことにしよう。


 それにしても……数年か。

 その間に、現実の身体はどうなってしまうのだろうね?


 物理的な意味で、腐ってなければ良いのだけど。


****


 さて、部屋である。


 見事なまでにオレンジしかない。

 いや、本当にどれだけ好きなんだよ? って言いたくなるぐらいの拘りっぷりで笑えてくる。


 元の「ラシアレス」がそれだけ好きだったのか?

 それともパートナーである「橙羽(とうう)」の神様の趣味なのか?

 単純に何者かの嫌がらせなのか?


 この部屋からは、何一つとしてそれらの判断ができない。


 確か、「すくみこ! 」ではここまで酷くなかった。

 精々、家具にシンボルカラーが使われているぐらい?


 でも、流石に全面ってのはないわ~。


 いや、濃淡はあるし、センスがそこまで酷いとは思わない。

 寧ろ、こんな縛りプレイのような状態で、よくここまで上手くまとめたなと感心する。


 どちらかと言うと、統一感のなかったわたしの部屋より、よっぽどか素敵な部屋だよ、こんちくしょう!!


 そうなると……、他の「みこ」たちも同じような状態なのかも?


 年代を確認したわけではないが、現代日本で育ったことは間違いない方たち。

 それを思うとこの状態はかなり辛いのでは?


 いや、落ち着け?

 自分の感覚で辛いのは、「黄羽(おうう)」ぐらいだ。


 「緑羽(りょくう)」、「青羽(せいう)」、「藍羽(らんう)」に至っては、すごく、落ち着きそうな部屋だろう。

 「紫羽(しう)」もそこまで悪くない。

 「赤羽(せきう)」は目に痛い系統の色合いではない限り耐えられそうだ。


 でも、「黄羽(おうう)」だけは……、わたしのセンスではどうしようもないね。

 年上女性の「シルヴィクル」先生によるこれからの手腕(作品)にご期待ください!


 う~ん。

 しかし、与えられた部屋や、その備え付けの家具に文句をつけるのもどうか? とも思う。


 無賃で三食昼寝付きが保証されている世界。


 現代社会で仕事に追われて日々、無為に過ごしていた人間としては大変、ありがたい話ではあった。


いや、流石に昼寝をする気はあまりないが。


 多少、家具付きの部屋が好みではなくても我慢すれば良いだろう。


「お部屋はいかがでしょうか? 『ラシアレス』さま」


 部屋を案内してくれたわたしの世話係で「アイル」と名乗った女性が、にこやかな笑顔でわたしに声をかけてくれる。


 彼女はわたしと同じように黒髪、黒い瞳。

 少し、背は高く、年齢は二十代前半ぐらいに見えた。


「少し、緊張してしまいます」

 わたしは、そう答える。


 忘れがちだが、この部屋は神様と呼ばれる存在より与えられたものだ。

 こうしていても、どこか普通の感覚ではいられないのはそのためだろう。


 部屋や家具の色が奇抜なせいではないと思いたい。


 この場所は、「人界(この世)」でも「聖霊界(あの世)」でも「聖神界(神の国)」でもない「狭間界(境界)」と呼ばれる不思議空間らしい。


 本来、偶然でもない限り、普通の人間は入れない場所だが、選ばれた「みこ」たちは立ち入りを許され、「人界」と交信するそうだ。


 なるほど、実は、そんな設定だったのか。

 漠然と「聖霊界(あの世)」にいると思っていたよ。


「大丈夫ですよ」

 世話係の「アイル」はどこかキラキラした顔をわたしに向ける。


「『ラシアレス』様は、我が風の大陸より選ばれし『神子』様。必ずや、あの世界を救ってくださることでしょう」

 どうやら、この「アイル」は風の大陸出身者らしい。

 ……ってことは、人間なのか。


 まあ、背中に羽、生えてないしね。


「私は、そんな貴女にお仕えできることを光栄に思っております。未熟な身ではありますが、これから、よろしくお願いいたします」

 そう言いながら、「アイル」は恭しく一礼した。


 なんというか……、「あなたが『みこ』をやった方が良いんじゃないか? 」というぐらい、キラキラしている。


 それに、良い所のお嬢様って感じ。


「こちらこそ、よろしくお願いいたしますね、『アイル』」

 わたしも同じように礼をした。


 しかし……、彼女ほど気品ある動きはできない。

 どこか事務的な礼。


 しょうがないさ!

 わたしはしがないOLだもの。


 これは、彼女からそれっぽい動きを学ぶべきではないだろうか?


 そう考えて、わたしは溜息を吐く。


 どこの世界に自分付の使用人に礼儀作法を学ぶ人間がいるのか? と。

 家庭教師の位置付けの人間ならともかく、そんなことを頼まれても「アイル」は変に思うだろう。


 そして憧れに近い「みこ」の中身が「残念女性」と気付かれてしまう可能性はある。

 それはちょっと避けたい。


 世話係というポジションにいる人間に不信感を抱かせてはならないのだ。

 

 思ったより、この世界には味方がいない。

 そんな割とどうしようもない状態から、わたしの「みこ」生活は始まってしまったのだった。

チュートリアル編、終了です。

次話から、ゲーム本編(1年目)となります。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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別視点
少女漫画に異質混入
別作品
運命の女神は勇者に味方する』も
よろしくお願いいたします。

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