組まないか?
「どういうおつもりですか?」
わたしは肩に置かれた手を払いながら、「アルズヴェール」にそう水を向ける。
結局、わたしたちはあのまま、流れで二人仲良くその部屋から出ることになった。
なんとなく、一本道の通路を二人でそのまま歩く。
傍から見れば、仲の良い友人。
どこか穿った見方をすれば、百合カップル?
だが、現実はそうではない。
何か企んでいるのは分かっている。
そうでなければ、「彼」が、わたしに構う必要などはないだろう。
「分からないか?」
挑発的な笑みを浮かべる「アルズヴェール」は本当に美少女です、はい。
こんなCGは見たこともないので、心の中に収めておこう。
「分からないから聞いています」
「あの女は信用できない」
それは同感だ。
わたしも彼女は無理だった。
三十過ぎてもあんな言い回ししかできないなんて残念過ぎる。
友達、少なそうだよね?
わたしも多くはないけどさ。
「親切な方だったでしょう?」
「それを本気で言っているなら、あんたは『ラシアレス』以下だよ」
なんだと?
わたしが、あの天然ドジッ娘に劣ると申すか? この男。
この娘、うっかり神様に飛び込む場面が多すぎるのだよ。
彼女特有のシナリオ、転んだ弾みで二階の窓から何故かすっ飛び、慌てた創造神様の腕に抱かれすっぽり収まってしまう場面なんて、凄く美麗な一枚絵でした。
あの創造神様の珍しくどこか困ったような表情は本当に大好物!
製作者様たち、本当にありがとう!!
「気に障ったら、すまんが、オレが知る『ラシアレス』は、のんびりマイペースに見えて、その場の敵意にはかなり敏感だったんだよ」
ああ、原作の方ですね。
そちらは分かりません。
「わたしは現実の人間が憑依しているので、貴女の理想に添えず、申し訳ございません」
そう頭を下げてから思った。
この状態は確かに「異世界」への「転生」でも「転移」でもなく、「憑依」だと。
でも、どうしてそんな状況になったのかは分からない。
それも、10年も経った後に。
でも、ちょっと言い方、慇懃無礼過ぎたかな?
そう思いながら、彼をチラリと見ると……なんと!? 目も眩むほどの美少女の笑顔があった。
な、なんだろう?
そんなに喜ぶ要素がどこにあった?
まさか……、噂に聞いたことがある、特殊な性癖の持ち主ってやつ?
「やっぱり、あんたは信用できそうだ」
「はい?」
思わず、素で言葉を返してしまった。
ごめん、わたし、あなたより5歳も年上だから、今時の若い人の思考って、よく分からないの。
そんな言葉が、頭を走り抜けた。
「オレと組まないか?」
「はい!?」
再び、素で返してしまう。
いや、だって、何!? この人、どちらかと言うと、初っ端は、わたしに敵意を向けてきた方だよね?
さりげなく「彼女いる」と言って牽制したよね?
しかも、そう言ったのに、出会って数分ぐらいで唇まで奪いやがりましたよ!?
そんな軽い男と組めと?
だが、わたしの頭の中では、緑のTシャツと紺色っぽい半ズボンの男性が数人、何故か洗脳するように「組まないか? 」とキレッキレなダンスを踊り始めた。
いや、あの歌詞はともかく、曲とダンスは好きでしたよ、ダンスは!
しかも、この元ネタって、青い繋ぎを着た良い漢だったはずなのに何故、Tシャツと半ズボンで踊ってるの!?
「えっと……、ごめんなさい?」
ぐるぐると頭の中で「組まないか? 」と、謎のダンサーズが踊り狂う中、わたしはそれだけをなんとか口にする。
洗脳曲ってマジで洗脳してくるわ~。
「なんで、オレが振られたみたいになってんだよ? もっと別の単語を使え」
こんな状況でなんという無茶ぶり。
「御断りの定番でしょう? 『ごめんなさい』って」
こっちは、ダンサーズがひたすら、頭で踊っていたのだ。
そんな状況で言葉を返しただけでも「上出来」と褒めてくださいませんか?
「マジか~。結構、本気でアテにしてたんだけど……」
「当てに……ですか?」
彼の言葉で、ようやく頭が正気に返った。
「組まないか? 」ダンス、恐るべし!!
「他の女は使えねえ。歩み寄りの姿勢を見せた女は信用できん。だけど、オレは元になったゲームを知らないんだよ」
「今からでもあの姐さんに頭を下げればよろしいのでは?」
「いや、オレは、あの女は好きじゃない」
あれ?
でもそれって……。
「わたしのことは好きなのですか?」
ちょっとだけ、揶揄う気持ちを込めてそう言ってみた。
だって、前後の話をまとめると、そう言うことになるよね?
「おお」
なんと!?
あっさり肯定! これが若さか!?
「『ラシアレス』の顔は好きだ」
「顔かよ」
迷いのないあまりの即答っぷりに、思わず素のまま、声に出していた。
「……それが、素か? 『ラシアレス』」
どこか呆れたような視線をくれる「アルズヴェール」。
そんなジト目も美人さんで羨ましい。
「これが素だよ、『アルズヴェール』」
それに対して笑顔で応える。
まあ、ここまでわたしの調子を崩すような相手に隠していても仕方ないね。
ここが「すくみこ! 」の世界だと言うのなら、最長、5年は一緒に行動することになる。
出会って、一日も経たないうちにここまで、猫を被り切れないような相手なら、どうせ、一月と持たなかっただろう。
社会に出てから、わたしのような人間相手にここまで積極的に会話を続けようとしたこと自体、珍しいのだ。
学生時代は同年代ばかりだし、趣味とかの共通の話題さえあれば、いくらでも話し続けることができた。
でも、社会は年齢どころか世代が違う人間の方が多い。
だから、どうしても一歩引いて、踏み込まない、踏み込ませない会話ばかりになる。
職場に現れる掃除のおばちゃんたちみたいにぐいぐい無遠慮に私生活まで口出すような人種ではない限り、そこまで多く話すこともない。
だから、必要以上の会話はしてこなかった。
事務的に言葉を返せば、事務的なやり取りしかできなくなるのは当然なのだけどね。
「思ったより、あっさり本性を暴露したな」
本性って……。
「無駄なことはしたくないんだよ。どうせ、遠からずバレるなら、さっさとバラした方が、わたしも疲れないから」
相手は5歳も年下だ。
中身が年上である「シルヴィクル」「キャナリダ」、「トルシア」相手にはともかく、そこまで敬語でなければいけないわけでもないだろう。
「潔い理由だな」
「まあね」
「そっちの方が良い」
ぐはっ!?
何? この満面の笑み。
「……なんで、そんなに懐いた?」
わたしはなんとかそれだけを口にする。
「なつっ!? 人を犬猫みたいに言うなよ」
「ああ、ごめん。言葉が過ぎた」
でも……、始めの印象から随分、変わったのは確かだ。
「どうせなら、仲良くした方が良いじゃん。好みの顔なら」
一言、余計だよ。
でも、なるほど……。
この「ラシアレス」が好みの顔だから、味方にしておきたい、と。
分かりやすい理由過ぎる。
「中身が25歳で別人だけど?」
「中身が25歳で別人でも。外見は15歳の可愛い少女なら、問題ないだろ?」
あくまでも外見重視らしい。
「それで、キスされた身としては、警戒心バリバリな理由も分かっていただけないかな?」
「あっ! ……ああ、うん」
この野郎。
半分以上、忘れてただろ?
「でも、25歳ならキスぐらい初めてってわけでもないだろう?」
なるほど、笑顔で殴りぬくスタイルですね?
承知しました。
「初めてでしたが、何か?」
だから、同じく笑顔でカウンターを決めてくれよう。
「は!?」
驚きの声と共に、「アルズヴェール」が目をこれでもか! と言わんばかりに大きく見開かれた。
「良い年して、乙女ゲームを嗜む程度の女性ですもの。彼氏などいたことがあると思いますか?」
さらに、さっき言ったキミの言葉を含めて叩き込んで差し上げよう。
少しでも罪悪感を覚えると良い。
「マジか? そりゃ、悪かった」
……軽すぎる!?
若さ故? 坊やだから!?
「でも、ノーカンだよな?」
あんまりな発言。
本当にさっきまでは引っ込んでいたはずの怒りがふつふつと湧いてきた。
「しっかり、カウントされとるわ!!」
だから、わたしは素を出して叫んだのだった。
作中のダンサーズに心当たりがある方は、同じように洗脳されると思います。
原曲のイントロも良いですよね。
但し、適さないようなら、タイトルと該当部分は削除しようと思っております。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




