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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第2部

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99/99

姉と妹

わらわがあれしきのことで死ぬと思うたか?」


宮女に支えられながら寝台から体を起こし、そう言った薇瑜ビユ様の声は予想に反して明るいものだった。事件から二週間が経った日の昼、「瑛庚エイコウ様、耀世ヨウセイ様には極秘に」と私は薇瑜ビユ様に呼び出されたのだ。


「死ななくて残念だったのぉ」


私は慌てて首を振る。

薇瑜ビユ様はリー様に切り付けられたものの、たまたま式典用の着物を重ねて着ていたこともあり、内臓まで届くような怪我ではなかったようだ。未だに病床にいるが、問題なく会話もできるという。


薇瑜ビユ様の言うように後宮では、彼女の死を望む声が決して少なかったわけではない。特に従一品の后妃様方は誰が皇后になるかを競い合っているような節もあった。だが勿論、下手に問題に首をつっこみたくなかったので、あえてその事実には触れないことにした。


「そんなことございません。私だけでなく、後宮の皆も皇后様のご快復を祈っておりました故――」


「蓮香は人の嘘を見抜くのは上手いが、嘘をつくのは苦手のようじゃ」


呆れたと言わんばかりに大きくため息をつき、返す言葉を失う。


「して――本日は、そちに皇后になってもらいたく呼んだのじゃ」


「え?」


突然の申し出に私は思わず言葉を失う。まるで菓子を買ってくれと言わんばかりの気軽さだ。


「妾は傷が悪化した故、皇后の地位を降りる。そしてそなたが皇后になれ」


あまりにもアッサリその地位を手放そうとするその意図が分からず困惑していると、薇瑜ビユ様はクスクスと嬉しそうに笑った。


「これは取引じゃ。陛下――いや、瑛庚エイコウ様は自分のせいで私が傷ついたと思っている」


確かにあの状況では、瑛庚エイコウ様に代わり薇瑜ビユ様が私を守り刺された――と捉えても不思議はないだろう。


「だから陛下は二日に一度、自分が後宮に来れる時は妾の元へ来てくださる。あれが愛情ではないのは分かっているが――」


 あの事件以来、瑛庚エイコウ様は私の宮だけでなく、他の后妃の部屋へも渡っていないといわれている。彼は頑なに薇瑜ビユ様の側に付き添っていた。


「この時間を手放したくないのじゃよ」


薇瑜ビユ様は、はにかみながらそう語る。まるで恋する乙女のようであり、温かい気持ちが私の中で広がるのと同時に顔がほころんだ。


「元の皇后である私に戻れば、陛下の罪悪感は日に日に薄れていくに違いない。兄上を呼んでまで、痛い想いをしてまで作り上げた罪悪感なのに」


「本当に瑛庚エイコウ様を……?」


「流石、蓮香じゃ。分かっておったか。そうじゃ。この国にやってきてからずっと瑛庚エイコウ様をお慕いしておった」


耀世ヨウセイ様ではないのですか?」


非常に見た目が似ている二人だ。正直、耀世ヨウセイ様を好きになっても不思議ではなかったはずだし、後宮外に出ることもある皇后は耀世ヨウセイ様との接触もあっただろう。


耀世ヨウセイ様には吐かれたのじゃ」


「は?」


思わずぶしつけに聞き返すと薇瑜ビユ様は渋々といった様子で口を開く。


「妾を皇后へ迎えて下さった時、耀世ヨウセイ様が最初に妾の元へやってきたのだが――、一緒に寝台に入るなり吐かれたのじゃ」


過去に「後宮で皇帝としての務めを果たせなかった」と耀世ヨウセイ様が打ち明けられたこともあったが、なるほど、その相手は薇瑜ビユ様だったのかと心の中で静かに納得していた。


「ですが――私に皇后など務まりませぬ」


「なに、妾の妹じゃ、後ろ盾にもなろう。一度、国に帰り、改めて皇后として入宮してもよいと考えている」


一つの提案であるかのように語っているが明らかに彼女の中では決定事項となっていそうな内容だ。


「本当に私は妹なのですか?」


かねてから抱いていた疑問を彼女にぶつけてみる。おそらく最初に私の顔を見た時から妹である可能性に気付いていたのだろう。そして絵師に描かせた絵を見て確証を得たに違いない。


「妾が幼い頃にかどわかされた妹がそなたかどうかは大切ではない」


「そ、そんな……それで振り回される私の身にもなってくださいよ」


あっさりと断言され思わず私は食い下がるが、薇瑜ビユ様は気にした様子もなくクスクスと笑われる。


「だがそなたは耀世ヨウセイ様のことを好いているのじゃろ? ならば“妹”である可能性を利用すればよいではないか」


「それでは機織りができぬではございませんか」


かねてから耀世ヨウセイ様だけでなく瑛庚エイコウ様にも伝えていた言葉だ。后妃にもならないのは機織りができなくなるからだ。


耀世ヨウセイ様もお可哀想に……」


大げさにそう言ってため息をつかれ思わずムッとする。


「機織りは私の人生をかけた仕事なんです! 幼い頃から苦しい修業にだって耐えて――」


「妾の皇后修業だって生半可なものではなかったぞ」


実際に皇后修業を受けたわけではないので実態は分からないが、確かに決して楽なものではないだろう。


「そなたは、まだ人生をかける恋をしていないのじゃな」


薇瑜ビユ様は呆れたようにそう言って、再び大きくため息をつく。本当の恋を知らない私に同情しているかのような口ぶりだ。


私は耀世ヨウセイ様に自分の気持ちを伝えているが、それは薇瑜ビユ様のいう“恋”とは性質が違うかもしれない。


「ならば私の人生をかけた恋のために犠牲になっておくれ」


 薇瑜ビユ様は当たり前であるかのようにそう言う。おそらく反論の余地はないのだろうと考えると、自然とため息が漏れてくるのを感じた。


99話にて第2部が完了となります。

第3部も構想を考えてはいるのですが、トリックが薄くならないようお時間を頂きたいと思います。

(放っておくとトリックが薄~~く薄~~くなりがちなので)


その間の箸休めといってはなんですが、新作『京都あやかしタクシー~陰陽師の車屋~』を2月22日からスタートする予定です。


『京都』×『あやかし』×『グルメ』


と京都在住という地の利を活かした現代ファンタジーになります。もしよろしければ合わせてお楽しみいただければと思います。


どうぞよろしくお願い致します。


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― 新着の感想 ―
黒幕としての無茶ぶりではなく、姉としての無茶ぶりになって、本当に良かったなあ
[一言] 続き、気長にお待ち致しております。 凄く気になります。
[良い点] 話は面白いですし、文章の書き方も素晴らしいと思います。 [気になる点] 完結していない、3年も更新していない物を書籍化するのは無責任だと思います。 商業誌に完結迄のせているので、無料公開は…
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