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舞わない蝶《其の九》

21:15追記

間違えて短い原稿を公開してしまいました。申し訳ございません。

「最初から分かっていたのですか……」


 私は恐る恐ると薇瑜ビユ様に問いかける。瑛庚エイコウ様の腕の中に抱かれている彼女を見ると、これも全て彼女が仕組んだことという可能性が浮上してきた。


 後宮中の宮女、后妃の似顔絵を集めさせたのも彼女だ。おそらく最初から妹となる人物を探していたのだろう。その結果、都合よく特徴的な痣を私が持っていた。目障りな人間を異国に持ち帰らせるための大義名分ができたのだ。


「妹を……妹を守っただけじゃ……。姉なら当然じゃろ」


 薇瑜ビユ様はそう言うと自嘲気味に笑う。その可能性がどこまで正しいのか分かりかねたが、今は反論する言葉が見つからない。


「れ、蓮香レンカ、大丈夫か?」


 人混みをかき分けるようにして現れた耀世ヨウセイ様は、そう言って戸惑った様子で現れた。


依依イーイーが知らせてくれたのだが……」


 私の肩を抱きながら、耀世ヨウセイ様は言いかけ目の前の惨状に言葉を飲み込むのが分かった。


「どうしてこんな――」


「私のせいでございます」


 薇瑜ビユ様が宮医らに連れていかれる音を聞きながら私は思わずうなだれる。


「本当は踊り子の代わりなんて受けるべきではなかったんです。でも――踊れるのが嬉しかったんです」


 自分が踊れる可能性を一度も考えたことがなかったので、踊れるという事実がただただ嬉しかったのだ。それが他人の気持ちだけでなく、人生を踏みにじることにもなる可能性を全く考えていなかった。


瑞季ルェイジー、その者は?」


 自称兄を名乗る皇子にそう言われ、私は思わず耀世ヨウセイ様の腕に自分の腕を絡めてニッコリと微笑む。


「私の想い人でございます」


「そ、そのような者がいるのか……」


 驚いたというような声が投げかけられ、私は内心、しめたと喜ぶ。


「兄上は私が不幸せな人生を送っていると思っていらっしゃるのでございますよね?」


「そうだ。目が見えないにも関わらず、こんな宮女として働かされているじゃないか」


 皇帝たちのように、この皇子は私を手元に置いておきたいというわけではないのだ。


「殿下や皇后様のような貴族とのしての生活を送ることはできませんでしたが――」


 もし薇瑜様が言うことが本当ならば私も彼女達のような皇族としての人生があったのかもしれない。


「ですが、私には天職がございます。それはそれで幸せなのでございますよ」


 だが、今選ぶならば確実に薇瑜様のような皇族の人生は選ばないだろう。策をめぐらせて、想い人を振り返らせることに終始する人生など、まっぴらだ。


「それに――、この方はこの国にしかおりませぬ」


 私はそう言って耀世ヨウセイ様に絡めた腕をさらにギュッと自分に引き寄せる。そんな私に耀世ヨウセイ様は「れ、蓮香!?」と戸惑った様子を見せるが、私は黙っていろと言わんばかりに腕に込めた力をさらに強める。


「では、そ、その者もわが国へ招こう。宦官だが大臣として地位を与えてもいいぞ。だから、一緒においで」


 なるほど――そう来るか、と驚きながらも私は苦笑する。


「もう私は子供ではございませぬ。自分の幸せは自分で見つけられますよ」


「そう……そうだな。何時まで経っても俺の中では、幼い頃の瑞季ルェイジーのままなんだよな。悪かった……」


 彼はそう言うと、がっかりした様子で部屋からトボトボと立ち去っていく音が聞こえてきた。皇子が完全に部屋からいなくなったのだろう。耀世ヨウセイ様は私を部屋の隅へ連れて行くと、思いっきり私を抱きしめた。


蓮香レンカ! 私のためにこの国に残ってくれたのだな!!」


 歓喜の声を上げる耀世ヨウセイ様を私は慌ててその体を押し返し、軽くにらむ。


「勘違いしないでください。演技ですよ。演技」


 そんな私の言葉に耀世ヨウセイ様がガクリと肩を落とすのが分かった。


「だって、あれぐらい幸せだって教えてあげないと、絶対異国に連れていかれましたよ」


 私の技術があれば、異国でも機織りとして仕事を得ることはできるだろう。だが私が持つ秘伝の技術はこの国の後宮でしか発揮されない。それはこの後宮で后妃となり、趣味として機織りをするのと同じことだ。


 それにこの技術と知識を持って国外に行ったならば、真っ先に暗殺されかねない。例えば皇族として厳重な警備が敷かれていたとしてもだ。


「蓮香と一緒なら、私も異国に行ったのに――」


 本気で悔しそうな耀世ヨウセイ様がおかしく思わず苦笑する。


耀世ヨウセイ様こそ、この国を出たら全く意味がないじゃないですか」


 そんな軽口をたたきながらも、もし私と彼がただの宮女と宦官だったならば、そんな可能性があったのか……と思うと不思議な気持ちになった。

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