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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第2部

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喧噪の再来

 芽衣メーイー様の死刑が決まった夜に、私は皇后・薇瑜ビユ様の部屋へ呼ばれていた。


「妾がいない間、後宮が大変だったようじゃのぉ」


 部屋には甘ったるい香の香りが広がっており、先日の事件を彷彿させ思わず小さく唾を飲み込む。


「皇后様ご不在が後宮にどのような影響を与えるか知る良い機会でございました」


「そう言ってくれるか。嬉しいのぉ。そうじゃ、今回も事件を解決してくれた礼に林杏リンシンを返してやろう」


林杏リンシンをでございますか?」


 下げていた頭を思わずあげてしまう。現在は、美雨ビユイ様付きの宮女となっている林杏リンシンの人事権は後宮の最上位に位置する薇瑜ビユ様が握っているのは確かだ。だが彼女の口から「林杏リンシン」の名前が出てくることが不思議だった。


「なんじゃ、妾が林杏リンシンのことを知っているのが不思議かえ?」


「は、はい」


 林杏リンシンの位は後宮で行けば、かなり低く、薇瑜ビユ様からすればその他大勢の宮女の一人でしかない。


「あれは妾の子飼いでのぉ。美雨ビユイに探りを入れたかったのだが、人がおらぬので林杏リンシンを遣わしたのじゃ」


「り、林杏リンシンがでございますか?」


「そうじゃ。外宮では美雨ビユイ芽衣メーイーの親の派閥争いが激化しておってのぉ。どちらに与するべきか、林杏リンシンに調べさせておったのじゃ」


 突然明かされた事実に私は驚きを隠すことができなかった。


「で、ですが、林杏リンシンは、そんな……そんな間者のようなことをできる人間ではございません」


 あんな人間を間者にしては任務に失敗するだけではなく雇い主の情報すらも駄々洩れになるだろう。絶対、拷問などを受ける前に全て自白する人間だ。


「それじゃ。そなたは一つも林杏リンシンが間者である可能性を考えなかったであろ?それが私の狙いでもある。程よく抜けており愛されている。人の懐に入るのが上手な女なのじゃよ」


 確かに失敗は多いが彼女を嫌う人間がほとんどいないのは不思議でもあった。


「使いを頼めば半日近く戻らないこともあったじゃろ?あれは妾の所へ定期的に報告に来ておったのじゃよ」


「サボっていたわけじゃないんですか――」


「サボっていたと思っていても手元に置いておいたそなたも大分、お人よしじゃのぉ」


 薇瑜ビユ様は高らかに笑いながら持っていた扇で口元を隠された。よほど破顔されているのであろう。


「陛下がそなたの所に渡るように進言したのも林杏リンシンじゃったろ?あれも妾の差し金じゃ」


 林杏リンシンは無謀な性格をしているが、常に私の想定内の言動しかせず、それ故に許容ができていた。だがあの日、瑛庚様に『渡ってきてくれ』と願うのは想定外の出来事だった。もし林杏リンシンの後ろに薇瑜ビユ様がいたと考えると、色々なことが説明がつくような気がした。


林杏リンシンは今回も役立ってくれた。まぁ、そなたが芽衣メーイーを潰してくれたのは想定外じゃったが」


『想定外』と本人は言っているが、おそらく私が芽衣メーイー様のたくらみを暴くことも想定内だったのだろう。だから林杏リンシンが絶妙な頃合に私達の目の前に現れ、薇瑜ビユ様が渡されたという蝋燭を持ってきたのか……。


「それで林杏リンシンをそなたの元へ戻そうと思う。どうじゃ?」


「ありがとうございます」


 私は間髪入れずに、そう言って深くお辞儀をした。



「え~~私が間者って聞いて、引き取ったんですか?蓮香様ってお人よしですね~~」


 薇瑜ビユ様とのやり取りを林杏リンシンに説明すると、あきれたように彼女はそう言った。


「でも、普通間者って言って、間者を送り込みますかね?」


「そうよね」


 私は久々に彼女が入れてくれたお茶を飲みながら、その言葉に同意する。

 林杏リンシンが間者である可能性も高いが、それが薇瑜ビユ様によるハッタリという可能性も捨てきれない。現に戻ってきた林杏に間者の話をすると


「間者って何するんですか~~」


と一笑に付された。

 ただあの場で林杏リンシンを引き取らないという選択肢は私には用意されていなかった。もし断れば、薇瑜ビユ様の監視を拒むことになるからだ。


「こんな間抜けな間者はいないと思いますが――、どちらにしても居ない方がいいような気がしますが……」


 お茶菓子を机の上に置いてくれた依依イーイーは、そう言いながら大きくため息をつく。自然と私の口からもため息が漏れ、それがさらに林杏リンシンの怒りを買うことになった。

 だが久々に戻ってきた喧噪が何故だか妙に嬉しいから不思議だった。

 

【御礼】

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― 新着の感想 ―
林杏が居るとうまいこと色々事が動くなぁとは思ってましたが間者!!!
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