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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第2部

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流星王の喪失《其の伍》

「で、どうやって探すんですか?」


「そうね……。おそらくそこら辺に宦官の耀世様がいらっしゃるんじゃないかしら」


 馬の足音、犬の鳴き声、朝ご飯を準備する人々の喧騒で彼の足音だけを聞き分けるのは難しいが、おそらく流星王が盗まれたと知れば彼がこの場所に駆け付けているに違いない。


「え~~そうなんですか?いないと――あ!いた!本当にいた!」


「でしょ?そこまで連れて行ってちょうだい」


「凄いですね~~。良く分かりましたね。もしかして待ち合わせしていました?」


 下品な笑いと共にそう言った林杏の言いたいことは分からないでもなかった。


「私が后妃にならないのは耀世様が原因だって言いたいんでしょ?」


「え~~そんなこと言ってないじゃないですか。でも仮面付けていても分かりますよ。あれは絶対、男前ですよね」


「本当にあなたって男前好きよね」


 呆れたようにため息をつくと、林杏リンシンは「そうなんですよ!」と大きな声で同意する。


「今まで后妃様付きの宮女をしたことがなかったんで分からなかったんですけど、本当に男性との接触がないんですよ。小間使いだってさせてもらえないし――」


 美雨ビユイ様も林杏リンシンを使いに出せば、なかなか戻ってこないことが分かったのだろう。私の場合、林杏リンシン以外に頼む人がいなかっただけだ。


「でも意外に美雨様のところでも上手くやっているじゃないの。数日で戻されるかと思っていたわ」


「バカにしないでくださいよ~~。お菓子作れって言われても作れないんで、適当に見様見真似で作ったんですよね。そしたら凄い不味いものができたんですけど、『これを陛下が好まれる』って宣言しておきました」


「それで、陛下の元へ味がしない菓子が大量に贈りつけられていたんだな」


 自慢げに話す林杏リンシンに対して恨みがましそうな口調で耀世ヨウセイ様が、そう言った。


「あれ~~耀世様もご存知でしたか?陛下は実は甘い物が好きじゃないから、これぐらいがちょうどよくて『美味しい美味しいって食べている』って言っておいたんですよ」


 大きく「はぁ~~~~」とため息をついた耀世様に思わず同情してしまった。


「毒見役も一瞬、『毒が入っているのではないか』と確認したほどだったぞ」


「え~~。そこまでじゃないですよ~~」


 そんな彼らのやり取りに思わず吹き出してしまうが、遠くから馬のいななく声がし思わず現実に引き戻された。


「それで流星王の行方でございますが。やはりまだ見つかっていないということでしょうか?」


「それで来てくれたか」


 耀世様は林杏から私の手を引きとり、軽く体を引き寄せる。


「蓮香からみて南西半里の場所にあるのが浩宇ハオウーさんのゲルだ。そして真西一里の場所にあるのが流星王の一番の対抗馬といわれている馬の飼い主がいるゲルがある」


「なるほど……。で、耀世様はなぜここにいらっしゃるんですか?」


 聞き込みをするならば、対抗馬の馬主のゲルにいるはずだが……。


「流星王の足跡と点穴針が落ちていたのが先ほど発見されてね。もしかしたら、ここで殺されてバラバラにされたのではないかと」


「点穴針――?」


 聞きなれない言葉に首を傾げると、「これだ」と言って耀世様が私の手の平に編針のような長さの金属の棒を置いた。


「暗殺や護身用に使う暗器の一種で、中指にこれをはめて点穴や急所を攻撃するんだ。流星王を盗んだ犯人は相当な手練れかもしれん」


 恐る恐る先端を触ってみると鋭利に研がれており、刺さり処が悪ければ死に至りかねないだろう。恐る恐る匂いを嗅いでみるが血のような匂いはしない。


「流星王の足跡は他にはございませんでしたか?」


「残念だが、昨夜の雨で足跡が全て流れてしまったようだ。ここは木の下ということで足跡が奇跡的に残っていたらしい」


 確かに前日、大雨が降っていた。


浩宇ハオウーさんは流星王が盗まれた日に探さなかったんですか?」


 足跡が残っていればそれをたどればいい話だと思うのだが……。


「探そうとしたが、それよりも息子の仔空シアが盗人に襲われてね――。昨夜は生死をさまよっていたみたいなんだ」


仔空シアが?」


「あぁ、あの日、皆飲み過ぎたのか眠りこけてしまったが、仔空シアだけは起きて馬番をしていたところ、盗人に襲われたらしい」


 自分の子供であるかのように流星王を大切にしていた仔空シアだ。料理の手伝いをして疲れていたにも関わらず『寝ずに番をしていた』としても不自然ではない。


「もしかして仔空シアは、この付近で倒れているのを発見されたのではないですか?」


「そうだ。よく分かったな」


 全ての謎と流星王の行方がわかったような気がした。


「まず対抗馬の馬主がいるゲルに連れて行ってくださいませ」


「そこは既に探しているが……」


「お願いいたします」


 私は有無を言わせないように耀世様の手を強く握った。



【御礼】

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