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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第2部

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流星王の喪失《其の四》

「流星王が盗まれました!!!!」


 それから二日後の朝、そんな林杏リンシンの叫び声が私を目覚めさせた。

 

林杏リンシン私が寝坊しているのかしら。それともあなたが早起きなのかしら」


 私の横で未だにすやすやと寝息を立てている瑛庚エイコウ様を起こさないように静かに寝台から降りそう質問するが、肩で息をした林杏リンシンにはおそらく私の言葉は聞こえていないのだろう。


「大変なんです!私が半年分貯めていた給金を賭けた流星王が失踪したみたいなんです!!」


 圧倒的な勝率を誇る流星王ということもあって払戻率は決して高くないが、林杏によるとそれでも一.五倍はついていたという。


「それは大変ね……」


「大変ね――じゃありませんよ!早く行く仕度しますよ」


「行くってどこに?」


 私は卓台の上に置いてある水差しから水を注ぎながら、窓から頬にさす日差しの弱さを静かに感じていた。おそらく空はまだ暗いに違いない。


「言わなくたって分かっているじゃないですか。私の流星王を探しに行くんです。きっと蓮香様なら見つけて下さいますよね!」


「それで美雨ビユイ様の部屋から抜け出してきたの?」


 おそらく美雨様の目を盗んでこの部屋にくるため、依依イーイーすらも出勤していない時間に訪れてきたのだろう。


「そりゃ~~そうですよ。だって今回は払い戻しがないっていうんですから!」


「払い戻しがない?」


 競馬が始まる前の時点で該当の馬が出場しなかった場合、その馬に支払った掛け金は返還されるのが一般的だ。


「実は、流星王は凄い人気馬なので特別規則みたいです。まぁ、流星王目当てで、みんな掛け金を支払っているので流星王が出場しなくなったら競馬として成り立ちませんからね」


「まぁ、馬が負けてお金がなくなるのは納得できるかもしれないけど、出場しないのに返還されないのは納得いかないわよね」


「分かっていただけて良かったです」


 そういうと林杏は私の髪を乱暴に一つにまとめ、慣れた様子で着替えも用意する。決して役には立たなかったが、彼女がいないだけで部屋が寂しくなっていたことに、その段になりようやく気づかされた。



 林杏に手を引かれてたどり着いたのは、二日前に耀世様と訪れた遊牧民のゲルの前だった。


「おう、蓮香ちゃんか。どうした?」


 林杏に手を引かれて訪れた私を浩宇ハオウーさんは、初めて会った時と変わらない豪快な笑い声で出迎えてくれた。


「流星王が盗まれたと聞きまして」


 私がそう明かすと、浩宇ハオウーさんの声は一瞬で低くなる。どうやら流星王が盗まれたことは隠しておきたい事実なのだろう。


「そうなんだ。あの日、嬢ちゃん達が帰った次の日の朝にはいなくなっていたんだ。耀世にも頼んだんだが、今、必死で探しているが見つからねぇ」


「でも演習場からは出ていませんよね?」


 後宮の裏側に位置する演習場は非常に広大な敷地を有する。それでも城の敷地内であることに代わりはなく、そこから出るためには関所を通過しなければいけない。流星のような白銀の毛並みをしており、国内外を問わず活躍している流星王だ。そんな流星王に乗った誰かが関所を通過していれば、既に調べはついているに違いない。


「見張りはついていなかったんですか?」


 ゲルの側に囲いを作り馬を飼育しているが、それこそ盗難を防ぐために一般的には見張りが付いていることがほとんどだ。


「面目ねぇが、その日は見張りも眠っちまっていてよぉ。せめて番犬が吠えてくれれば気付いたと思うんだが……」


 確かに前回訪れた時は三匹程の犬がおり、初めて訪れた私に対して警戒心をむき出しにして出迎えてくれた。


「お役に立てるかどうか分かりませんが、探してみたいと思います」


「ほ、本当かい?」


「息子さんと約束しましたから」


 私はおそらくこちらを伺っているであろう仔空シアに向けて笑顔を向けることにした。


 


【御礼】

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― 新着の感想 ―
>私の流星王を探しに行くんです。きっと蓮香様なら見つけて下さいますよね!  わざわざ探しに行かなくても、無線で呼び出せばすぐに向こうから駆けつけてくれますよ。 「流星王応答せよ! 流星王! 来たな …
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