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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第1部

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黄色い部屋の秘密《其の参》

「私は、やってない……」


 部屋に戻された賢妃様の口調は疲れ切っており、この押し問答が何度も繰り返されたことがうかがえる。ただ不謹慎ながら、そのハスキーな声色は中性的で彼女に心酔する宮女が少なからず存在する理由が分かったような気がした。


「密書が見つかった」


 耀世ヨウセイ様の声に賢妃様の肩がピクリと動く音が聞こえてきた。


「そなたの国の言葉で書いてあるが……」


「おそらく――、手紙は宮殿の地図を得たいと――言ってないか?」


 賢妃の言葉に耀世様は無言でうなずく。翻訳できる人物を呼んでいる最中で、その手紙に何が書かれているかは分かっていない。しかしそんな素振りを全く見せない耀世様は、若き皇帝とはいえさすがだった。


「だけど私は同意しなかった。彼には国に帰るように言ったんだ。だけど――彼は私の姉妹を殺すと言った――」


「だから殴り殺されましたのね」


 私がそう言うと賢妃様はバッと頭を起こし私の方へ振り返った。


「何故、それを――」


「象牙は柔らかすぎない材質であるため細工を施しやすいことから、装飾品の素材として人気を集めています。ですが、さすがに窓の上から落ちてきたら、一つや二つは欠損する置物が出てくるはずです。現状、一つも壊れたり欠けたりしている置物はありませんでした」


 ガサツな林杏リンシンが片付けを手伝っても、象牙の欠片が落ちる音は聞こえてこなかった。


「妹様方のことで脅迫され、思わずカッとなって手元にあった象牙の置物で殴ってしまったのではないでしょうか。一度は隠蔽しようと検討されたものの、先日の淑妃様の一件で後宮の警備が厳しくなっています」


 ここ何件か続く事件の影響もあり後宮には衛兵が常に巡回している状態が続いている。床下に穴を掘って埋めようものならば、土を掘っている時点で見とがめられるだろう。


「だから、あえて『事故』に見せかけて遺体を発見させたわけです」


「では他の象牙の置物は全て犯行を偽装するための小道具だったのか?」


 その通りだ、と私は耀世様の言葉に頷く。


「おそらく『落ちてきた』のではなく『落ちてきたように見せかける』ために遺体の上に象牙の置物を置いたのでしょう。勿論、上から落とすこともできたでしょうが、賢妃様は象牙の置物を何よりも大切にされている方でございます。罪を隠すためとはいえ、置物を乱暴になど扱うことができなかったのでしょう」


「男装の麗人」として後宮ではもてはやされている賢妃様だが、彼女は故郷の名産品である象牙の置物を壁一面に並べるような乙女の部分も持ち合わせている人物なのだ。


「ただ最大の問題は間者が西国出身の方だったことでございます」


 おそらく間者がこの国の民ならば、賢妃様に通謀の嫌疑はかからなかっただろう。


「夜目ではその風貌が分からず隠蔽作業を終え、衛兵を呼んだ時にもまだ間者の相貌を確認できていなかったのではないでしょうか?だから賊として衛兵に届け出られたのでしょう」


「それで殺人の容疑はかからなかったものの、通謀の容疑がかけられたわけだな」


 私の推理は全て終わったという意味も込めて私は「さようです」と短く締めくくった。


「何故協力しなかった」


 耀世様の言葉に私を含めてその場にいた全員が思わず彼を振り返る。


「妹達の命がかかっていたのだろ?何故、縁もゆかりもないこの国を……この後宮をかばうのだ。間者に協力していたならば、無用な殺人を行うことも妹達の命の危機を救うこともできただろうに」


 賢妃様が小さく唇をかみしめる音が微かに響いた。


「それは――、あなたとの間に子供がいるからだ」


 まるで吐き出すようにそう言った言葉は私の胸の中に何かを落とす。


「私はこの国民ではない。だがこれから生まれてくる私の子供はこの国民だ。私には――私にはこの子供をその祖国を裏切ることはできなかった――」


 項垂れるようにしてそう言った賢妃様の言葉が、白い布に墨汁を落としたようにジワジワと私の胸の中で広がるのを感じた。この感情は何だろう……。賢妃様を捕らえる衛兵らのの喧騒に包まれながら、そんなことを静かに考えていた。


【御礼】

多数のブックマーク、評価ありがとうございます。


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