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黄色い部屋の秘密《其の弐》

「不用意に触ると落ちてくる。間者もそれで死んだらしい」


 耀世ヨウセイ様は私の手をそのまま強く引き、壁際から私を引き離した。


「間者の死体は窓際で象牙の置物に埋まるようにして見つかっているんだが、窓の上部に飾っていた象牙の置物が頭上に降ってきたらしい。致命傷は後頭部にある傷で、落ちてきた象牙の置物が原因ではないかと衛兵達が申していた」


「間者が既に亡くなってしまっているため賢妃様との関係性がはっきりとしない――ということでございますね」


「そうだ。通常ならば間者を拷問して吐かせるのだが既に死んでいる。賢妃は通謀していないという。身重な故、拷問だけでなく長時間の尋問も憚られてな……」


 賢妃様が通謀している確証がない中、尋問して子供が流れてしまっては国際問題に発展しかねない。全てが賢妃様を陥れるための罠という可能性も考慮したのだろう。


「それで私をお呼びくださったと……」


「そうだ。以前、皇后を呪った呪符を宮女の帯の中から見つけた蓮香の腕を買わせてもらった」


 確かに、探し物ならば私に任せろと大見得を張った記憶がにわかに蘇ってきた。あんなこと言うんじゃなかった……。後悔先に立たずとは正にこのことだろう。私は大きく息を吐いて、現状を受け入れることにした。


「現在、部屋は間者が亡くなった時とあまり変わっていないということでよろしいでしょうか?」


「死体は動かしているが、探しやすいと思ってそのままにさせた」


「ありがとうございます。それでしたら――、とりあえず窓辺にある象牙の置物を片付けていただけないでしょうか」


 私がそう言うと、耀世様はサッと手を振り、控えていた宮女らに象牙の置物を片付けるように指示をだす。私の隣にいた林杏リンシン依依イーイーもその輪に加わった。


「やはり床下か?」


 少し嬉しそうにそう言う耀世様に私は首を横に振る。


「無数の象牙の置物に死体は埋まっていたんですよね?それでしたら床下に隠す時間などございませんよ。遺体もある以上、敷物の下に隠すのも困難だったのではないでしょうか」


「なるほど……」


 確かに床下に隠してある方が事件としては見栄えがするが、最初から隠す場所が存在していないかぎり、なかなか実現しない策ではある。


「それで――遺体が発見された経緯についてお聞かせいただけないでしょうか」


 密書が隠されている場所は、およそ見当がついている。見つかるまで、事件の概要について整理しておきたかった。


「遺体が発見されたのは今朝方のことだった。衛兵に賢妃が通報し、西国の間者ということは判明した」


「賢妃様が通報されたのですか?」


 てっきり他の宮女が見つけて、大騒ぎになったのだと思っていた。


「そうだ。遺体があるから回収して欲しいと衛兵に連絡があったと聞いている」


「今回の件について賢妃様はなんと仰っているのでしょうか?」


 さすがに自ら「通謀した」とは言っていないだろうが、彼女の言い分も知っておきたかった。


「賢妃は『私は知らない』『この者も知らない』とばかり繰り返しているようだ」


 賢妃様は異国の姫ということもあり、少しばかりこの国の言葉を話すことが苦手だ。おそらくもっと話したいことや弁明したいこともあるのだろうが、うまく伝わっていないとみえる。


「なるほど――。それで賢妃様は現在?」


「以前、徳妃を幽閉していた場所に移している」


「それでは、この部屋へ一刻も早く戻して差し上げてくださいませ」


「それでは賢妃は通謀していないというのか?」


 私は深く頷く。


「その証拠に……依依あなたが今持っている象牙の置物を持ってきて頂戴」


 私がそう言うと、依依は慌てた様子で駆け寄ってきた。


「これが密書でございます」


 私は象牙でできた虎の置物をそう言って耀世様に差し出した。


「ただの置物にしか見えないが……」


 不思議そうにそういった耀世様の気持ちは痛い程分かる。


「象牙の置物は象の牙を加工して制作するため非常に高価なものでございます。そのため模造品が市場には多数で回っており、象牙の置物を買う際は目利きも必要でございます」


「私も商人にそう注意された」


 確かに彼から贈られた象牙の置物の中に模造品は存在しなかった。商人も皇帝相手に下手な仕事はしなかったのだろう。もしバレでもすれば、首が飛びかねない。


「しかし――これは本物か偽物か……なかなか見分けがつかないな」


 手触りは象牙を彷彿させるような艶やかさがある。耀世様が言うのだから、おそらく見た目もかなり本物に似ているのだろう。


「模造品といっても象牙に似せる必要がありますので、象牙を粉末状にして石膏と混ぜ合わせ、型に流し込み置物を作ります」


「象牙の粉も混ざっているから、分かりにくいのだな」


「はい。ただ決定的な違いは中身でございます」


「中身?」


 私は耀世様の手から置物を取り、それを上下に振ってみる。微かだが物が動くような音がする。


「細工が施されている象牙の置物の場合、象牙の先端部分を使うのが一般的です」


 象牙の根本は面積が広そうに見えるが、実際は空洞部分が存在し、細かな細工を施すことが難しいのだ。


「一方、模造品は中身が空洞ということが多くなっています。同じ分量でも石膏が含まれているため重さが軽くなってしまうからです。その代わりに重しなどを入れて重量感を出しているのですが……その空間を利用して密書をやり取りしていたのではないでしょうか?」


 私はそう言って、置物の底に張られた木の板を軽くたたいて外す。すると内部から重しであろう金属の塊と共に一枚の紙が出てきた。

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