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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第1部

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36/99

大いなる眠り《其の参》

 部屋に響いた



「パッ、パンッ」



という音に私も含めて全員の身体がビクリと震えたのが分かった。想像はしていたが、いざ音を聞いてみると私の推理が裏付けされたような安心感を覚える。


「これが怪奇音か」


 小さく唸る瑛庚エイコウ様に、淑妃様付きの宮女長が膝をついて謝罪する。


「大変申し訳ございません。淑妃様の宮でこのような現象が起こっていることが公になれば、陛下からのお渡りがなくなると思い……隠しておりました」


 確かに霊がついているといわれるような場所を積極的に訪れたいという人は少ないだろう。


「なるほど……さすがだな。それで淑妃の様子は?」


「はい。お腹のお子様もすくすくお育ちで――」


「ここでも音がするの……?」


淑妃様の『健康』を強調しようとした宮女長の言葉を打ち消したのは応接室の入口に立つ淑妃様だった。線が細く綺麗なお方と聞いていたがその声はかすれており、健康体とはいいがたい状態なのだろう。


「淑妃様、そのようなお姿で!!」


 宮女長が慌てるのは無理もない。衣擦れの音の少なさからして、おそらく寝間着一枚というような軽装で現れたのだろう。私の隣にいた林杏が


「あんなにお痩せになられて……」


とポロリと漏らす。妊娠中はむくみやすいと言われているが、それでもなお痩せて見えるというのはよっぽどのことに違いない。

淑妃様の後ろでは着物を持ってオロオロとしている宮女達の音もする。瑛庚様の来訪からすぐに現れなかったのは化粧などの支度だけでなく、着物を着こみそのやせ細った身体が目立たなくするようにする予定だったのかもしれない。


「淑妃、深夜の突然の来訪すまん。ただ怪奇音が聞こえると聞いてな……」


 瑛庚様がそう言った瞬間、鋭い視線が寄せられるのを感じた。おそらく宮女長殿だろう……。


「この者がその謎を解いてくれるというので、連れて参った。もう安心して眠れるぞ」


「勿体ないお計らい……淑妃様、さ、お礼を」


 宮女長はそう言って、淑妃に礼を言うように勧めるが、淑妃様はワナワナと静かに震えているようだ。


「解決など……解決などして頂かなくて結構でございます!」


 絞り出すようにそう叫ばれ、思わずビクリと身体が動く。やはり怪奇音よりも人の方がよっぽど怖い。


「いえ、解決などいたしません。あえて解決するならば……あと数年という時間が必要でございます」


「時間が……?」


 瑛庚様の疑問に静かに頷く。


「こちらの宮が建造された年、例年になく長雨が続いた時期でございました。そのため工事がなかなか進まず、工期が遅れたのを覚えております」


「そういえば……そのようなこともあったな?」


 瑛庚様の心もとない返事を無視して私はさらに続けた。


「そのため淑妃様が工夫らを急かされている……というような噂を耳にしたこともございます」


「そなた!ありもしないことを!!」


 宮女長が私の言葉に激怒の声をあげた。陛下の前で主を悪く言われたら当然の反応かもしれない。


「あぁ――。確かにそのようなことはあった。工夫らに別料金を支払い、雨の中作業をするように命じた記憶がある」


「へ、陛下……」


 膝から崩れ落ちる宮女長を無視して私は話を続けることにした。


「家屋を建造するために使われる木造は、一定期間をかけて乾燥させてから使用します。乾燥しきらない状態で家屋に使用しますと、壁として存在しながら乾燥を行うことになります」


「それと怪奇音が何か関係あるのか?」


「固定された木が乾燥すると、先ほどのような怪奇音が鳴るといわれております」


 今回、夏場を経て秋に怪奇音が鳴り始め、夜間にしか鳴らないのも乾燥が進んだからといえるだろう。


「なるほど……それでは霊などではなかったということだな?」


「はい。ただ霊ではないため、一朝一夕にこの問題を解決するのも難しいというのが現状でございます」


「では旧淑妃宮に移り住むか……部屋を用意させよう。怪奇音がなくなるまでそちらで過ごせばよい」


 一件落着したという様子で瑛庚様が立ち上がると、淑妃様が慌てて駆け寄ってきた。


「お待ちください陛下。陛下から賜ったこの宮から出とうございません。理由が分かればこんな音など気にもなりませぬ」


 もし怪奇音に悩まされて睡眠不足になり体調不良になったならば、理由が分かってしまえば解決するといえば解決する。


「どうぞ、このままこの宮を使うことをお許しいただけませんでしょうか?」


 あまりの気迫に思わず瑛庚様は、「あ、ああ」と短く同意させられていた。




【御礼】

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