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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第1部

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32/99

幼なじみとの再会

「この中にそなたの初恋の相手はおる」


 瑛庚エイコウ様にそう言われて、案内されたのは先日、見世物が披露された広間だった。


「五人の男性がおる。どのような方法でもいい。見つけられたならば、その者と後宮を出ることを赦そう」


 少し演技がかっているのは、おそらくこの集められた男性達の手前だろう。私と林杏リンシン、護衛の数名しかいない状態だったが、やはり二人きりでない以上、瑛庚様ではいられないに違いない。


「近くに行き、話をさせていただいてもよろしいでしょうか」


「勿論だ。服を脱がせる必要があるならば脱がせてもよいぞ」


 悪趣味な笑い声と共にそう言う瑛庚様に少し冷めた気持ちを送りながら、林杏に手を引かれて最初の男性の前に立たされた。フンワリと品の良い香の奥から微かに土臭い香りがしてくる。衛兵の一人を綺麗に磨き上げて、官吏のような服装をさせているに違いない。


「失礼します。少しかがんでいただけますでしょうか?」


 男性の肩に手を置き、そう頼むと男性は無言で膝をついてくれた。陛下から事前に『言うことを聞くように』と命じられているのだろう。かがんで貰った男性の眉間に右手、首筋に左手をそっと添える。


「私のことを覚えていらっしゃいますか?」


 眉頭が軽く上がり驚きを感じたようだが、「はい」と返事が返ってくる。おそらく彼らは私の『幼なじみ』に成りすますように伝えられているに違いない。


「山間の村で何年か一緒に過ごしましたね」


 今度は少し間をおいて「ああ」と返事が返ってくる。思いがけない質問だったのだろうか――。嘘をつく時、人はとっさに応えることができないという。


「一緒に遊んだのは川だったかしら……」


「山だったような気がします」


 ただ同意するだけでなく、あえて違う答えを回答することで、真実であるかのように聞こえる。そして山間の村にいたのだから、川ではなく山で遊んでいたとしても不思議ではない。この男性、少しは頭が回るようだ。

だが先ほどから感じていたが、脈が速くなっている。嘘をついている時、人は脈が速くなるのだ。


「その者か?」


 楽しそうに私に背中から声をかけてきた瑛庚様に私は優雅に振り返り首を横に振った。


「この方ではございません」


 そう言って、再び男性に振り返り「ご協力ありがとうございました」と礼を伝えると、男はハーッと大きく息を吐く。皇帝の酔狂な遊びに付き合わされ、緊張していたのだろう。


「面白い方法で人の嘘を見抜くものだな」


 そう感心する瑛庚様に私は小さくため息をつく。


「何度か会話があり、日々の癖などが分かっていらっしゃる方の嘘は分かりやすいのですが、初めて会う方や久々に会う者の嘘はなかなか見極められぬ故、このような方法を取らせていただきました」


 人には色々な癖がある。その癖を把握できたならば嘘を見抜くことも簡単だが、短時間のうちに相手を見極めなければいけないと難しくなってくる。そのためこうして触れてみるという方法をとったのだ。



同じ要領で三人の男性に質問をするが、やはり返ってくるのは『嘘』ばかりだった。


「最後に残った男が、そなたの『幼なじみか?』」


 やはり嬉しそうにそういう瑛庚様を私は軽く睨みつけた。


「最後の方は質問しなくても分かります。宦官の耀世ヨウセイ様でございます」


 最初に部屋に入った時に彼が列の端に並んでいることは直ぐに分かった。おそらく耀世様の宦官の姿と合わせるために最初の男性も官吏のような服装をさせられていた……と考えると自然だ。


「ここには最初から私の『幼なじみ』はいなかったのですね」


『見つけた』というからにわかに期待したが再び、姑息な手段を取られたことに軽く苛立ちを感じる。


「おらぬか――」


「はい。正直、気分がよくありませぬ」


「すまなんだ。実は、そなたの『幼なじみ』とやらは、今日は都合が合わなくてな。ただ『今日』とそなたと約束したので、このような悪戯をしかけさせてもらった」


 ハッキリと『悪戯』と言われて、さらに苛立ちが募る。そして本人は隠しているつもりだが「都合が合わなかった」といった彼は明らかに嘘をついていた。どんな理由があるのか分からなかったが、顔も覚えていない幼なじみが会いに来てくれなかった事実に静かな寂しさがこみあげてくる。そんな悲しみをぶつけるように静かに瑛庚様の方へ向かい


「以前も申し上げましたが、后妃様方のご出産が続き帯の制作が立て込んでおります。このような悪趣味な遊び……お止め下さい」


と静かに伝えた。この時点で私の怒りがようやく伝わったのだろうか、パタパタと慌てた様子で瑛庚様が駆け寄ってきた。


「怒るな。怒るな。そなたは怒った顔も美しいが、笑顔の方が好きだ」


 私を抱きしめるようにしてそう言う瑛庚様の顔はデレデレとしているのだろう。周囲にいた人間からは驚きの声が聞こえてくる。


「会いに来てくれない『幼なじみ』などよりも私を『幼なじみ』にしてみてはどうだ?」


 とんでもない申し出だが、どうやらかなり本気で言っているようだ。私は小さくため息をついて、根本的な問題点を指摘することにした。


「陛下、『幼なじみ』は幼少期に出会うものでございます」


【御礼】

多数のブックマーク、評価ありがとうございます。


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