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帯の秘密《後編》

DEATH OBIじゃないです。


「一度織った帯は全て覚えておりますので、存じ上げています」


 私は脳裏で、後宮で初めて織った帯のことを思い出す。


「一方は青龍、もう一匹は白虎でございました」


 皇帝が即位する際に使われる帯ということで、緻密な柄が描かれており意外にも手間取ったのを今でも覚えている。


「あぁ……聞きたいような聞きたくないような。でも俺達は二つの命日があるんだよね?」


 当然の疑問だ。一人の皇帝として占っているが、二人の人間であることには変わらない。


「私も帯を制作している際は不思議で仕方ございませんでしたが、二つの命日がございました」


「じゃあ俺のだけ……教えてもらえないかな?」


「どちらが瑛庚様の物か分かりかねるのですが……。状況からいうと、おそらく宮女と宦官の密会が発覚した日が陛下の命日でございました」


「あの日?! でも俺死んでないよ?」


 私は静かにうなずく。


「別に呪いの帯というわけではございません。刻印された日時に必ずその人物が死ぬわけではございません。瑛庚様がおっしゃったように、あくまでも『占い』でございます。どんなに素晴らしい吉報を告げる占い結果だとしても、日々を怠慢に過ごしていれば悪い方向へと変わっていくように、人の死も変えることが可能でございます」


「じゃあ……蓮香は俺を助けるために、彼女達を捕まえてくれたの?」


「正確には捕まえることはできませんでしたが……何かできることはないか、必死でございました」


 皇帝が亡くなると後宮の住人は全員が入れ替えられる。これは機織り宮女である私も例外ではない。つまり皇帝の命日は私の命日でもあったのだ。


「蓮香……」


 熱のこもった声でそう言われ、握られた瑛庚様の手は何時もより熱かった。その時にかなり違う意味で言葉が捉えられたことに気付いた。


「となると……紅花フォンファの娘の命日も分かっていたの……」


 小さな棘が傷をえぐるように『紅花の娘』という言葉に、体が少し硬くなる。


「実は……彼女の命日自体が存在しておりませんでした。死産か直ぐに亡くなられるのかと思っていたのですが、おそらく瑛庚様のお子様ではないことが占いで出ていたんですね」


「なるほど。その占い、かなり精度が高いんだな」


「国の役人が人生をかけて占っているんですよ?」


 私は少しムッとして瑛庚様を睨む。どうやら彼は私が精工な帯を織る職人で、占い結果はオマケぐらいに考えていたのだろう。


「怒るなよ。だって誰もそんなに重要なことだなんて教えてくれなかったからさ……。でもそうなると蓮香をどうやって后妃にするかが問題だよな」


 小さく唸る瑛庚様は子供のようで思わず私は苦笑する。


「以前、賭けの話をしてくださったではないですか。私の初恋の相手を見つけてくださるって」


「した……かな?」


「私がその相手だと分かった時には、その者と後宮を出ることを赦す……と。それは私を事実上死んだことにして後宮から出してくださるということだったのではないですか?」


「あぁ!なるほど!」


 膝を叩いて大きく納得する彼に、今までその考えに至っていなかったようだ。かなりの確率で、あの『賭け』は守るつもりのない口約束だったことが伝わってきた。


「ちなみに探してくださっているんですか?」


 既に初恋の相手などどうでも良くなっていたが、会ってみたくないわけではない。そして瑛庚様が約束を守って下さっているのかが気になった。


「実は既に見つかっているんだ」


 そんな私の想いを知ってか知らないでか、瑛庚様はあっさりとそう言い切った。さすが国家権力だ。私が一度も探したことがなかったのもあるが、この数か月で既に「村に一時期いた少年」という漠然とした情報で彼を見つけだしたことに驚かされた。


「み、見つかっていたんですか?!」


「だけど……、そしたら蓮香は後宮から出て行っちゃうわけだろ?だから黙っていた」


 皇帝でありながら、意外にも姑息な手段を使う彼に思わず笑ってしまった。


「もう、どこにも行きませんから、会わせていただけませんか?」


「それなら……いいけどさ」


 ちょっと不満そうな彼の言葉が妙にくすぐったかった。


【御礼】

多数のブックマーク、評価ありがとうございます。


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