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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第1部

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25/99

そして誰もいなくなった《其の参》

「今すぐに部屋を変えてくださいませ!!!!」


 苦悩に満ちた声で『ついてきてほしい』という瑛庚エイコウ様に連れられて渋々正二品・紅花フォンファ様の部屋に行くと、半狂乱になって泣き叫ぶ部屋の主の姿があった。確かにこの現場に一人で踏み込むのは、なかなか勇気がいるだろう。


蓮香レンカ様、こっちが現場です……」


 惨状を目の当たりにして声を出せずにいる私達の背後から、林杏リンシンはこっそりとそう言って私の手を引く。どうやらこれに関わらない方がよいと判断したのだろう。林杏の珍しくいい機転に感心しつつ、瑛庚様から声をかけられる前に紅花様の部屋から静かに退散することにした。



 遺体が発見された井戸は紅花様の部屋から数十秒の位置にあった。


「井戸が部屋の裏にあるのが嫌って、当初はゴネられたんですよねーー」


「確かに直ぐ側ね」


「宮女としては、各部屋にこれぐらいの距離感で井戸があると便利なんですけどね……」


 作業場としての目的もある私の部屋からは井戸は比較的近いが、それでも往復五分以上はかかる。機織り機が湿気を嫌う性質上、近すぎると弊害があるため仕方ないのだが、林杏は気に入らないらしい。


「で、ここから落ちた……と」


 私は井戸の淵に手を置いて井戸の中に軽く身を乗り出してみる。自分の声が反響することから、かなりの深さがあることが伺える。


「壺が割れる音がしたって言ったわよね?」


「はい!すぐ側の宴会場で作業をしていたので、悲鳴と壺が割れる音がはっきりと聞こえました」


 後宮でいくつかの事件を経験して、現場の状況を正確に伝える能力が林杏の中で養われている事実に感じひそかに感動する。


「で、割れた壺は井戸の中なの?」


「おそらくそうですね。底が暗くて見えないので、どうなったか分かりませんが、おそらく持っていた壺と一緒に落ちたんじゃないですかね?」


 井戸に続く綱を動かして、水面を探ってみるが特に異音などは聞こえてこない。いたって普通の井戸だ。

 手がかりを探すために井戸の周りを手で触ってみると地面から手の平三つ分ぐらいの高さの位置に小さなキズが存在する。キズ部分を指で触れてみると微かな粘土質のような汚れが指に付着するのを感じた。これはまだ新しいだろう。


「うあぁ!蓮香様、ダメですよ。こんなところ触っちゃ。泥だらけになるじゃないですか?」


 林杏に腕を取られて立ち上がると、酒のような香りが井戸から立ち上ってくるような気がした。


「死んだ宮女には争った跡や着衣の乱れはなかったみたいなんです。やっぱり井戸に住む幽霊が引きずり込んだんですよ!蓮香様も近づいちゃダメですよ!!」


 そう言って私を井戸から遠ざけようとする林杏に私は思わず苦笑してしまう。あまり学習しないところが彼女のいい所でもあり、悪い所でもある。


「でもあれですよね……。死体が浮かんでいた井戸は、もう使わないんですかね……」


「かなり深い井戸だから、新たに掘るとなると大変よね」


 おそらく新たに井戸は掘られるのだろうが、少し歩けば他の場所にも井戸が存在する以上、費用や作業時間のことを考えるとかなり先のことになるだろう。


「紅花様が部屋を変えてくれって訴えるのも分からないでもないですね~~」


「そうね……。そのことだけど、陛下にお話ししなければいけないわ」


「犯人が分かったんですか?もしかして紅花様のご出産を妬む正二品の后妃様方達による犯行だったりしますか?!」


「林杏…」と私は小さく諫めながら小さくため息をついた。瑛庚様の気持ちを少しでも楽にできれば……と現場に来てみたが、この事実はおそらく彼をより苦しめるに違いない。それと同時に、どのような真実が、一番被害が少ない結果になるのだろうか……と喧騒が漂う夜風の香りを感じながら考え始めた。


【御礼】

多数のブックマーク、評価ありがとうございます。


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