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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第1部

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23/99

そして誰もいなくなった《其の壱》

「また幽霊が出たんですよ!!!!」


 林杏リンシンの悲鳴に似た叫び声を聞かされ、私は大きくため息をついた。


「まず『また』っていうのは違うんじゃない?最初の『幽霊』は幽霊じゃないわよね」


 皇后様に扮した宮女を幽霊として見間違えたが、あれはあくまでも『幽霊』ではなく『幽霊』に扮した宮女を見ただけだ。


「いえ、今回は絶対、幽霊でした!」


 興奮した様子でそういう林杏に私は静かに頷く。どうやら話を聞くしかないようだ。


「そう……。それでどこで見たの?また開かずの間?」


「今度は井戸です」


「い、井戸?」


「はい。宴会場の側にある井戸で見たんです。最初は宮女の誰かかと思ったんですけど、あんな子みたことありませんもん!」


「宴会場の側といえば、正二品の后妃様方がお住まいの部屋の直ぐ側よね?」


 後宮には千二百人の女性が生活しているというが、その大半は下働きをする宮女である。そのため、その中で知らない顔が紛れ込んでいても不思議ではない。だが正二品付きの宮女の数は知れており、それを林杏は全員分把握しているという。


「でも、なんだってそんな場所に行っていたの?ここからずいぶん離れているわよね?」


「ちょっと!蓮香レンカ様!ひどいじゃありませんか!! 明日開かれる紅花ホンファ様のご出産祝いのために駆り出されたの忘れちゃったんですか?大変だったんですよ~~」


 帯を織る仕事を担っているが私が所属するのは儀式や式典などをとりおこなう尚儀局。私の身の回りの世話をしてくれる林杏もまた同じ局に所属しており、今回のような大規模な祝宴などが行われる際、人手が足りないと駆り出されることもしばしばある。


「尚儀局って、もっと華やかなイメージがあったんですけどね~~。美味しい食事ができて、酒が飲めて……。配属された時は運がいいなぁ~~なんて思っていましたけど、見当違いでした」


「でも祝宴が終わったら、残り物を頂けるじゃない?」


 祝宴の料理は必ず大量に余るように作られている。そのため手つかずの料理が残ることも多く祝宴後、尚儀局の宮女は優先的に振るまわれる。


「そうですけど――。最近、陛下が蓮香様のところにお渡りになられるようになって、食事が豪華になったじゃないですか?前と比べると、あんまり祝宴の料理に目新しさがないというか……」


 陛下が部屋に来る際は酒と共に軽食も運ばれてくるのだが、この『軽食』が一介の宮女からすると豪華な食事なのだ。さらにほとんど陛下は手を付けられないので、私や林杏が頂くことが多い。結果として皿がほぼ空な状態で返却することが多く、それを踏まえてか最近では『軽食』の量も増えてきている。


「それで……霊だと思ったのには、何か理由があるのよね?」


 見知らぬ宮女を見たからといって、即『霊』と断定してしまうのは、あまりにも短慮な気がする。


「それが! 遠目から見ていたんですけど、何やら恨めしそうな顔をして宴会場の方を見ていたんですが、次の瞬間、スッと消えていったんです」


「消えた……ねぇ」


 あまりにも根拠のない理由に思わずため息が出てくる。


「そ、それだけじゃないんですよ!!」


 私の反応が悪かったことに気を悪くしたのだろう。林杏はムキになった様子で声高に叫ぶ。


「紅花様のお子様が誕生されるちょっと前から、井戸のあたりでは赤子の泣き声がしていたって噂があるんです。きっと戦乱の世の時、井戸に捨てられた赤子の霊とその母親の霊がさまよっているんですよ!」


「ね?怖いですよね?」と言わんばかりの調子で語られると、怖さが半減するから不思議だ。


「まず、その話は矛盾しているわね」


「といいますと?」


「戦乱の世は確かにあったけど、この後宮は戦禍を被ったことはないわ。だから今も昔も井戸に赤子を捨てられた宮女はいない。それに万が一いたとしても子供をなしている以上、宮女の恰好をしているというのは変よね?」


 寵愛を受けているだけならば宮女の身分ということもありえるが、さすがに子供をなしてまでも后妃にしない……というのは無理がある。


「林杏、もっと怖い事実を教えてさしあげましょうか?」


「え?もっと??」


「徳妃様が産気づかれたって噂なのよ」


 私の言葉に林杏は不思議そうに首を傾げる。確かにこれだけ聞くと非常におめでたい話でしかない。


「予定よりもずいぶん早いじゃないですか。やっぱり先日の幽閉が体調に影響したんですかね……」


 のんきに徳妃様の体調を心配する彼女は、まだ重大な事実に気付いていないらしい。


「そうなの。予定よりも二か月も早いからね……。だからね……、まだ帯が半分しかできていないのよ」


 帯が授与される式典は、子供が生まれてから二週間以内に執り行われるのが一般的だ。それまでに「できていなかった」というわけにはいかない。私の説明にようやく事態に気付いたのだろう。林杏は


「ひぃぃぃ!!」


とこの世のものとは思えない悲鳴を上げた。


アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』のように連続殺人事件を……と思ったのですが、被害者が増えるって意外に難しいな……という初歩的なことに構成を考える段になり気付かされました。


【御礼】

多数のブックマーク、評価ありがとうございます。


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