呪いの青い鳥≪中編≫
「性懲りもなく何度も何度も……。誰に許しを得て『窓を閉めろ』など勝手なことを申すか!!!!」
慌てて駆け付けた瑞英様の部屋で「窓を閉めてください」と伝えたところ、部屋付きの宮女に激怒されることとなった。私の隣に蝶凌様付きの宮女がいた点も彼女の逆鱗に触れたのだろう。
宮女の口調からすると、以前も「窓を閉めてくれ」と懇願しに行った人物がいたに違いない。
「そなた達は『呪いだ』などと申し、陛下から頂いた異国の鳥を手放したため瑞英様の部屋から鳥の声が聞こえてくるのが不都合なのであろう!」
宮女の主張に同調するように窓辺からチロチロと鳥の声が聞こえてくる。鳥籠に入っているのは分かるが、もし出てきたら……と思うとゾッとして思わず言葉を失う。それを肯定ととったのか、瑞英様付きの宮女はさらに勢いづく。
「陛下からの寵愛を瑞英様ほどいただけていないからといって、妬むのもいい加減にしてちょうだい!今夜あたり陛下がお渡りになるかもしれないから、その準備で忙しいのよ!!」
現在、正二品の后妃らが全員妊娠しているとなると、「次は自分たちの番」と期待が高まる気持ちは分からなくもない。そしてその計略を止めるよう、見知らぬ宮女から指図されたら腹も立つだろう。そもそも丁寧に説明しなかった私が悪い。私は息を整えて、ことのあらましを説明することにした。
「今回、従二品の后妃様方を襲った病は『呪い』などではございません」
「それは私も聞いてみたい」
突然背後から息を切らした瑛庚様の声が聞こえてきて慌てて振り返る。声の調子、服の音からして皇帝として訪れたのだろう。周囲の宮女達は慌てて膝をついて頭を下げた。勿論、私もそれに倣う。
「蓮香、ぜひ説明してくれないか」
瑛庚様は私の手を引いて立ち上がるように促し、私はそれに従うように小さく頷いた。
「陛下、その前に窓を閉めさせていただくことはできますでしょうか?」
「人に聞かれてはいけない話なのか?人払いをするか?」
「いえ、窓辺にいらっしゃる瑞英様の御身のためでございます」
私の言葉に瑞英様付きの宮女らが勢いよく私の方へ振り向く音が聞こえてきた。最初からこう言えばよかったのだ、と反省させられる。
「蓮香の言う通りに窓を閉めよ」
瑛庚様の一声により慌てて宮女らが立ち上がるが、その音の先に地を這うような音が聞こえてくる。
「お待ちください!! 窓から離れて!!!!」
私は窓辺に駆け寄り、隠し持ってきていた火かき棒を勢いよく『その音』めがけて勢いよく振り下ろし頭部を抑え込む。反対側の手で頭部をつかみ、やはり隠し持ってきたずた袋の中に押し込んだ。生け捕りにする方法としてはやや乱暴だが、ずた袋の中にズッシリとした重みを感じ、捕獲に成功したことを実感することができた。思わずニヤリと笑みがこぼれる。何かをこうして自分の手で捕獲するのは何年振りだろうか……。
「陛下。今回の一連の犯行はこの者によるものです」
私は少し自慢げに大きなずた袋を瑛庚様に向けて掲げて見せると、その場にいた宮女らの口から「ひぃぃぃ!」と悲鳴が上がった。中身が見えなければ怖くないだろうと思っていたので彼女達の反応は意外だ。
「れ、蓮香――。見事だが……そなた大変なことになっているぞ」
その言葉と共に瑛庚様は私の元へ歩み寄り、そっと頬を布か何かで拭ってくださった。興奮していて気付かなかったが、その時になり初めて自分の顔に何やら液体が飛び散っているのを感じた。どうやら強く火かき棒を打ちつけ過ぎてしまったようだ。
「無理をしてくれるな。衛兵を呼べばよかったであろうに……」
心底心配したという声と共に優しく顔を拭ってくださる瑛庚様に、もしかしたらこの人は皇帝でなかったとしても多くの女性の心を掴んで離さないような人物なのだろうな……と感心させられた。
本日午前6時にもう一本、更新予定です。
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