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盲目の織姫は後宮で皇帝との恋を紡ぐ  作者: 小早川真寛
第1部

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呪いの青い鳥≪前編≫

「それを今すぐ捨ててきて頂戴」


 私は小鳥を抱えた林杏リンシンが部屋に入ってくるなり、そう命じた。だが林杏のことだ。全く動じた風もなく小鳥を部屋の隅に置いて小さくため息をつく。


「そんなにカリカリしないでくださいよ。陛下のお渡りがないからって……。だから后妃にしてもらえばよかったんですよ」


 見当違いな林杏の反論に私は大きくため息をつく。確かにあの蛇使いの曲芸を見てから、陛下は私の部屋にやってきてはいない。ただその代わり、日中宦官として二人が交互に来ていることを彼女は知らないのだ。


「私が鳥を嫌いなのは知っているでしょ」


「知っていますけど、西国からわざわざ贈られた鳥なんですよ。ちょっと位、いいじゃないですか」


 その鳥はまるで林杏に同意するようにチロチロと鳴くが、その鳴き声に思わずゾッとさせられる。


「鳥を持ってきたのはあんただけじゃないの」


「え?そうなんですか?」


 私は窓辺に置かれた二つの鳥籠を指して林杏を睨みつける。機織りの助手を務める宮女二人もやはり今朝方、鳥と一緒に私の部屋にやってきたのだ。


「あんたも従二品の后妃様付きの侍女達から押し付けられたんでしょ」


「え――そこまで分かっているなら、飼ってあげましょうよ。可哀想ですよ。こんな異国の地で放されたって、生きていけるかどうか……。それに青い鳥は幸せを運ぶって、言うみたいですよ」


「その鳥には呪いがかかっているって噂よ?」


 切り札として用意していた言葉を早々に切り出すことにした。これ以上、この部屋に鳥がいることが我慢できなかったのだ。


「呪い?!」


 案の定、林杏は分かりやすく悲鳴を上げてくれる。


「この鳥を陛下から賜ったのは、従二品の后妃達だけなの。その五人の后妃のうち四人が理由もない熱病にうなされているんですって。医師が容態を確認したけど症状は現れてなく、打つ手立てがないと専らの噂よ。あなたもそうなりたくないでしょ?」


「あ、でもそれなら呪われるのは蓮香様ですよね?」


「私なら呪われてもいいって言うの?」


 林杏の失言に怒気を含ませて質問すると、彼女は「そ、そういうわけじゃないんですけど……」と乾いた笑いでごまかそうとする。


「でも、后妃様付きの宮女達も同じような熱病で倒れているって聞きました」


 助手を務める宮女が遠慮がちにそう発言すると、林杏は再び「ひぃ」と悲鳴を上げる。林杏とは異なり助手の二人は泣きながら、鳥に呪いがかかっていること、そしてそれを押し付けられたことを報告してくれた。


「あ――それで、普段はつんけんしている后妃付きの宮女達が笑顔で、この鳥をくれたんですね――。あ――捨てましょう」


「そうしてちょうだい」


 一刻も早く放してもらいたかったが、そんな思惑を知ってか部屋に一人の宮女が現れた。


「蓮香様、どうかわが主・蝶凌チョウリョ様の鳥も放っていただけないでしょうか」


 涙ながらにそう言った彼女の腕には、どうやら鳥が抱えられているようだ。これで五羽中四羽が私の部屋に来たことになる。なんという人気ぶりだろう。


「わが主は、この鳥の呪いによって既に熱病で苦しんでおります」


「確かに陛下から賜ったものを不注意でも逃がしてしまえば、大問題になりますものね」


 私は林杏にその鳥を受け取るように手で合図をする。


「でも不思議ですよね。従二品の后妃様五人中、四人は病にかかられているのに、一人の后妃様はお元気ですよね?」


 林杏は鳥を受け取りながら不思議そうに首を傾げた。


「え……ええ。北の端にお住まいの瑞英ズイエイ様は、お元気でいらっしゃいます」


 従二品の后妃達の部屋は小さな中庭を挟み、北から南へと五つの部屋が連らなるようにして並んでいる。今、鳥を部屋に持ってきた宮女は北から二番目の部屋に住む蝶凌様付きの宮女で、それ以南の部屋に住んでいた后妃様二人は既に亡くなられており、もう一人の后妃様も虫の息だという。


「お元気でいらっしゃる瑞英様は、わが主の部屋へ見舞いに来てくださったのですが、『陛下への忠誠心が足りないからこのようなことになったのでは』なんておっしゃったんですよ!しかも他の后妃様方が鳥を手放している中、わざとこちらに聞こえるようにして窓を開けて鳥の鳴き声を聞かせてくるんです。私悔しくて悔しくて……」


 そう言って涙を流す彼女は、本当に主のことを大切に思っているのだろう。陛下から賜った鳥を勝手に持ち出したことが判明したとしても罪をかぶるつもりでいるに違いない。ただそのおかげで色々なものが見えてきたような気がする。


「林杏、時間がないので急いで燿世様を呼んできてちょうだい」


「宦官の燿世様ですか?」


「呼ぶことが難しいならば、西国の使者を引き留めるようお頼みしてきて頂戴。私は瑞英様の部屋に向かうから」


「え?! 蝶凌様のお部屋じゃないんですか? それに燿世様を待ってからでもいいのでは……?」


 窓際から差し込む光は刻々と強くなってきている。林杏の疑問に何一つ答えず私は短く


「もう時間がないの」


と言い放ち従二品の后妃様方がいる建物へと足早に向かった。


多数のブックマーク、評価ありがとうございます。

犯人は…?


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