第四十六話 夜も更けて
俺達は二次選抜を終え、しばらくするとゾロゾロと他の公募者が広場に戻ってきた。
《皆さん、立て続けに二度の選抜試験お疲れ様でした。今日の選抜試験はここまでです。そして、一度帰りたい方もいらっしゃるかもしれませんが、今日はここで野営していただきます。勿論、食事はこちらで無償にて提供させていただきます。ですが、酒類や、食事とは別のつまみ等の食品は有料となります。それでは、今日の疲れを癒し、また明日お会いしましょう》
と、アナウンスが流れた。
なんだそれ。
選抜試験は二日間とは聞いていたが、まさか帰れず、しかも野宿って。
まだ、日も沈んでない内からここで自由にって。暇だな。
俺は広場の端まで行って、そこに腰を下ろした。
二次までの選抜試験が終わった。これで残るは明日の三次。どんな試験内容なのかはまだ分からねぇが、多分どうにかなるだろう。
一次も二次も大して難しい内容じゃなかったしな。
あのリヒトって優男副騎士長。アイツは全く実力を出してなかった。それに油断もしていただろう。だから、あれだけスムーズに旗も取れた。もっと言えば、あのデブの仕切りも大きかったかもしれない。
あそこで仮に何も練らずに事に挑んだ時、お互いがお互いの足を引っ張り合って不合格って事もあり得た。
俺の当面の課題は経験だな。
あのデブは傭兵の経験と冒険者の経験を持って、あれだけの自信を持ち俺達に指示をした。それを聞いた俺達は何一つ疑う事なく事に当たる事ができた。だからこその合格。だからこその勝利だった。
そういう指示能力。リーダーシップはどうしても経験が必要になる。何事も知り、考え、行動を起こす為の経験。
でも今この平和な世の中じゃあ、そういう経験も希少なんだろうな。
戦争が起きてほしいわけじゃねぇ。平和な事に越した事は無い。だが、そのままじゃ何かの有事の際に何も出来ない奴らばっかりになっちまう。
そう考えると平和過ぎるってのも考えもんだな。
「おぉ!いたいた!オーカ!」
ん?
急に声をかけられて声のする方を見ると、見たことのあるデブとハゲとメガネがいた。
「急にいなくなるんで探したぞ?こんなところで一人キザってんじゃねえよ水臭ぇ。お前も呑むぞ!祝勝会だ!」
は?
「その通りです。我々5人で勝ち取った勝利なんですから、分かち合いましょうよ」
「でもバーベルさんがいませんね。あらかた探したと思うんですが」
デブを筆頭にハゲとメガネも親しげに話しかけてきて側に座る。
ふざけんな
「おい。俺はこういうのは「いいんだよ!こういう時は呑む!これも俺の経験からくるもんだ!従え小僧!ギャハハ」、ちっ」
めんどくせぇ。
「まぁ、バーベルさんは後からという事で、我々は先に始めましょうか」
「そうだね!じゃあ乾杯の音頭はデーブさん、お願いします」
「おう!そうだな!じゃあ今日の勝利と、皆の明日の健闘に乾杯!!!」
「「乾杯!!!」」
勝手に始めやがって。
俺の意見カチ無視かよ。めんどくせぇ。でも、まぁ……
「悪くねぇ。って思っただろ?」
「あ?」
「お前の目は知ってる。孤独を知ってる奴の目だ。お前の過去に何があったかは知らねぇし、聞くつもりもねぇ。だが、こういう時は馬鹿みてぇにはしゃげ!ずっと張り詰めてたんじゃ、どっかでヘマこいちまうぞ?ギャハハ」
うるせぇし距離近ぇし早速酒臭ぇ。うざってぇな。
ただ、コイツは悪い奴じゃねぇんだろうな。
「我々はもう最早同志です。同じ戦場を共にして同じ騎士を志す、同志。仲間です。共に語らい共に笑い共にまた戦いましょう!」
「ナッパさんは固いなぁ。そんな強面の見てくれなのに腰が低いし、何よりいい人ですね」
「ははは!固いですか!でもノビル殿も貴族なのに我々に対して砕けてお話をしてくださるじゃないですか。ノビル殿こそ良き方ではないですか」
あぁうぜぇ。
「なんだお前ら気持ち悪りぃ!男同士で褒め合いやがって!チクショウ女欲しいなこの野郎!」
「気持ち悪いとはなんですか!?ですがデーブ殿の策は良かったですなぁ。ガディもかなり強力でした」
「確かに。デーブさんが居なかったら、グダグタになってたかもしれませんからね」
なんだよコイツら。
「まぁな!経験てやつだ!でもよ?オーカとバーベルが旗を取ったんだ。俺達ゃ、スタートした瞬間しかコイツらを見れなかったが、あの動きは半端じゃなかったぞ?まぁ、それも俺様の采配あってのことだがな!ギャハハ!」
なんなんだよ。
温ったけぇな。
こういうのは久しぶりだ。ジジィとラナは家族として俺によくしてくれたが、コレは違う。
パルとかミラとかと居るような、そんな感じが近い。
そうか、コレが仲間、か。
「オーカさん呑んでないですよ!」
「オーカ殿!こういう時は和を乱してはいけません!呑みましょう!」
「そうだそうだ!呑め呑め!今日は俺様の奢りだ馬鹿野郎!ギャハハ!」
いちいち声がデケェな。
仕方ねぇ。
テーブルも無く目の前の地面に用意されたグラスを取り、一気に煽る。
「おっ!いいですねぇ!」
「その調子です!」
「ギャハハ!おいノビル!酒とツマミ買ってこい!全然足らねぇぞ!」
「え?!今デーブさんの奢りって言ったじゃないですか!」
「うるせぇ貴族!金はあるところから出しゃいいんだよ!」
「んな無茶苦茶なぁ」
「「「ははははは!!!」」」
こうして、日が沈む前から俺達は呑んだ。
生まれて初めての仲間とのどんちゃん騒ぎ。時間と金を気にせず、呑んで食って笑った。
「なぁ、オーカ」
「あ?」
夜も更けて、ノビルとナッパは既に潰れていた。デーブも潰れていたと思ったが、まだ起きてたのか。
「お前はなんで騎士になるんだ?」
「お前は?」
「俺ぁ安定した金よ。傭兵や冒険者も金にはなるが、ありゃあ割と危ねぇからな」
「お前ほどの実力があんならそっちの方が稼げそうなもんだがな」
デーブの実力は直接見てはない。だが、あれだけの自信と、ハゲとメガネの話を聞く限り、その辺の魔物なんかには遅れをとったりしないと思った。
「ガキがな、産まれたんだ。しょうもねぇ娼婦とのガキなんだがよ。俺ぁそれでも嫁さんは愛してるし、ガキも大事だ。ガキがデカくなるまでは死にたくねぇだろ?」
「柄にも無くセンチじゃねぇか」
「そりゃあなぁ。俺様はこう見えて父親になったわけだからよ。ギャハハ…………だから、守りてぇんだよ。ずっと」
家族を守る、か。
「俺もお前と同じようなもんだ。家族と仲間を守りたい。そして、俺が守りたい奴らが守りたいもんも、全部守りたい。だから騎士になるんだ」
こんな事、普通だったら他の奴には話さない。もちろん、話せる奴すらいなかったが。不思議と、コイツには、コイツらには話してもいいと思えた。
俺の大事な根源を。
「ぐがぁ〜、ぐぅ〜……」
ク ソ が
「死ね」
「がふっ!……ぐがぁ〜、ぐぅ〜」
クソが。一生寝てやがれ。




