プロローグ
そこは真っ暗な空間
感じるのは己の怒気を剥き出しにした激情
聞こえてくるのは周りにいる男達の罵詈雑言
身体中に激痛が迸りとてつもなく熱い
かと思えば急激に体温が失われていく感覚
そうやって少しずつ静かになっていく中、思い浮かぶ言葉は
【親父】 【兄弟】
遂には暗闇から全ての感覚が、消えた……
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朝日が強く照りつけるスラムの細路地に、一人蹲る少年が唐突に激しい息遣いで顔を上げた。
「また、この夢かよ。」
ここは人族の住む国スクエラ皇国皇都シカク。人族の大陸“アース”随一の大国である。
この皇都シカクは皇城を中心に貴族街がぐるりと囲み平民街がさらにそれを囲っている。外から中に入るに連れて身分が高くなっていく形になっている。
そんなシカクの北端にスラム街がある。
そこに不思議な運命を持った少年がいた。
短い黒髪に鋭い目つきで整った顔立ちではあるが、少々見窄らしい風体をしていて、年不相応の熟達した雰囲気を醸している。それはこの子の過去に起因していた。
その少年には身寄りが無かった。
幼い頃から親をなくしていた為、自分の名前すら知らない。そして気付けば物乞いをしてその日を暮らし、12歳となった今は窃盗、強盗、喧嘩と、悪質な生存本能に溢れた生活を送っており、巷では【孤狼の疫病神】と蔑まれある意味有名であった。
「皮肉だな。家族のいねぇ俺の見る夢かよ。」
立ち上がった少年は吐き捨てる様にして度々見る不思議な夢に悪態をついた。
そのまましばらく体を伸ばし、路地を抜けると通りを埋め尽くす商店が並んでいた。当たり前のように路上商店の果物を一つ手に取りかじりながら平民街の人の群れに紛れていく。
そんな少年を追いかける、もう一人の少年がいた。
この少年は先ほどの少年とは真逆の風体だ。金髪は綺麗に整われ、垂れた金眼の、将来を約束された様な顔立ち。茶色のローブを纏っているものの裕福を隠せない身なりであった。
金髪の少年も黒髪の少年を追いかけ群衆に消えていった。
この世界”ライフ”には魔物と呼ばれる生命体が存在する。動物によく似たものもいるが、決定的に違うのは魔核の有無にある。
このアース大陸もたくさんの魔物が生息する。人を襲い、農作物を荒らし、人に多大な迷惑をかける一方、魔物の素材等は金になる。その為、冒険者という職業も存在する世界なのである。
そんな魔物から皇都民を守る為、シカクは高さ十五メートルの壁に囲まれている。その壁、シカク北西のある場所に隠れされた穴が空いていた。
その穴から黒髪の少年が出て来た。
黒髪の少年は迷うことなく真っ直ぐにシカク北西の森へ入っていく。
しばらくすると、少年の前に二匹の羊のような魔物が現れた。
「ブラシープ……か」
そう呟くと、ブラシープと呼ばれた魔物が甲高い豚のような鳴き声を発しながら少年に突進していく。
すると、少年は突進してくるブラシープに向かってゆっくりと歩き、ぶつかる寸前右手で一閃。二匹のブラシープは首を落とされ静かに倒れた。右手にはいつの間にかナイフが握られていた。
黒髪の少年は手慣れた手つきでブラシープの角を剥ぎ取って、腰に巻かれた袋にしまった。二匹とも剥ぎ取りが終わると、またゆっくりと森の中へ歩を進めた。
すると
「き、君!」
後ろから声を掛けられた黒髪の少年は立ち止まり、首だけを声の方へ向けると
「何、お前。」
と一言、金髪の少年へ投げかけた。すると金髪の少年は冷たく返された言葉にたじろぎ
「あの……えっと……あっ!初めまして!僕の名前はパルキアといいます!」
「…………あっそ。」
パルキアと名乗った少年の突然の自己紹介に短く返し、そのまま森の中へと歩いていく黒髪の少年。
「ちょ、ちょっと待って!なんで行っちゃうの!?」
パルキアは焦ったように駆け出し黒髪の少年の前に立ち塞がる。
「……なんだよ。」
「い、市場でリゴンの代金払わずに取っていったでしょ?」
「……それを態々言いに来たのか?」
「そう、だけど?……だって!だめじゃないか!泥棒はいけない事だよ!」
「そうなのか。知らなかった。じゃあな。」
「ちょっと!まっ、!」
パルキアが再度黒髪の少年を制止しようとするが、いきなりゴブリンが茂みから飛び出しパルキアを襲う。
が、黒髪の少年がゴブリンの腹へ蹴りを入れ吹き飛ばした。
「す、すごい。」
「おい。尻餅ついてアホ面晒してんなよ。まだいるぞ。」
「え。」
そんなやりとりをしていると、二人を囲むようにゴブリンが四匹茂みからじりじりと歩み寄ってきた。
「四匹、いや全部で五匹か。少し多いな。」
そう言ってナイフを構えて警戒する。
すると、蹴り飛ばされたゴブリンが立ち上がり、けたたましく叫び黒髪の少年に突っ込んでくる。それを最小限の動きで躱しながらゴブリンの太腿にナイフを撫でさせ転がす。同じ要領で別のゴブリンに近づき相手の攻撃モーションに合わせて太腿を切りつけていき無力化すると、最後には五匹とも地面に臥せり蠢く形となっていた。
「あ、ぅ……」
パルキアが現状を整理出来ずに呆けた声を漏らしている中、テキパキと黒髪の少年はゴブリンにトドメを刺しながら剥ぎ取りしていく。
「あの、ありがとう。」
黒髪の少年はパルキアに一瞥もくれずに一言。
「勘違いすんな。助けた訳じゃねぇよ。」
そう言って再びその場を去ろうとする黒髪の少年。
「待って!……君のっ!君の名前はなんていうの?」
「知らねぇ。」
黒髪の少年はそう言いながら歩みを進めると、パルキアは立ち上がり、
「っ!……じゃあ、教えてくれるまで付いてくからね。」
そう言って黒髪の少年に追いつくと
「邪魔。」
「じゃあ名前教えてよ。」
「だから知らねぇっつうの。」
「じゃあ思い出すまで付いてく。」
こうして、たった一つの果物をきっかけに二人の少年が出会った。この二人を中心にこの世界”ライフ”は目まぐるしく激動する。そんな事になるとはこの時、誰も予想していなかっただろう。
そう……神でさえ




