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魔女狩り世界の転生者  作者: 日向寺明徳
1/8

#1

こんにちは、無名の漫画原作者の日向寺と申します。

なろうに出すからには、一度くらい異世界転生モノにチャレンジしてみようと書いてみました。

企画出しの一環として書いたもので、ほぼ序章の部分での完結ですがご容赦下さい。


「『転生者』を殺せ!『転生者』を殺せ!」

 石畳の広場を埋め尽くす程の群衆が、老若男女を問わず拳を振り上げながら叫んでいる。血走った彼等の視線は中央に一段高く設けられた死刑台の上に立つ人物、つまりは俺に注がれていた。

「『転生者』を殺せ!『転生者』を殺せ!」

 顔を頭巾で隠したまさしく執行人という風体の屈強な男が、俺の襟首を掴んで強引に立たせる。俺は死刑台の中央に聳え立つ二メートル程の柱に括りつけられ、眼下に広がる熱狂的な人々の顔を見下ろした。

 一体、どうしてこうなったんだ?

 俺の足元に薪が積まれ、そして無色透明な、それでいてツンとした匂いの液体が撒かれる。その時を待ち焦がれていた群衆の雄叫びは、一層の熱気を纏って広場一面に響き渡った。

 ああ、畜生。こっちでは、こんな終わり方か。二度の生涯を合計しても、俺はたったの三十数年しか生きられなかった。

 それ以上に、ゴメンな、皆。もしソッチに行けたのならば、償いは絶対にするから。

「殺せ!殺せ!『転生者』を、殺せ!」

 執行人が松明を握り、それを掲げると群衆の興奮は最高潮に達した。

「殺せ!殺せ!」

「その〝女〟を、殺せ!」

 遺言代わりに自己紹介しておこう。この世界での俺の名前は『ルサールカ』。

 かつて男として生き、今世では女として死のうとしている、前世の記憶を有したまま生まれた所謂『転生者』。歳は先月十六になったばかりだ。

 折角女性の身体にも慣れてきたというのに、心の底から勿体無いと思う。自分で言うのもなんだが、金髪碧眼、ナイスバデーのそれなりに綺麗な少女だったからな。図らずも、個人的な好みとは違いちょいギャル風に育ってしまっていたが。




 物心のついた三、四歳の頃、唐突に思い出した。かつて自分はここでない世界で男として生き、そして不幸にも若くして死んだ事を。ああ、これが異世界転生ってヤツか。一時期そんなジャンルの漫画やアニメが流行っていたな。

 自分の魂が何故それを為し得たのかはわからなかったが、どうせなら楽しもうと思った。

 空は緑色で、草木の葉は赤く、しかして海の色は変わらず青い。月は三つ夜空に浮かび、そんな空を引き裂く様に、恐らく土星の輪をその地表から見上げたらこう見えるんだろう、巨大な何かの影が薄らと見て取れた。人々はこれを世界樹ならぬ『世界蛇』と呼び、一部土着の宗教では神格化されてもいるらしい。きっと巨大な蛇が世界を囲んでいるという、前世にも見られた世界観の類なのだろうな。

 独特の文様をあしらった人々の衣服はアイヌやネイティブアメリカンの物に似てエキゾチックだ。石を積んだ土台の上に乳白色の木材で組んだ家々は素朴で趣があり、その竈で焼かれたパンの様な常用食は、前世の記憶の中にあるものよりも少し固いが甘かった。

 家畜として飼われていた動物はまるで羊毛を纏った猪で、乳も肉も野性的な味がしてクセは強いがかなり美味い。一歩森の奥へと踏み込めば、アフリカ象並みの大きさの牛が群れをなして闊歩し、更にデカいイカの様な軟体動物が大地を踏み締めていた。前世の記憶を持った俺にとって、この世界での日常的な風景は全てが冒険と驚きに満ちていたのである。


 この世界に無い知識、常識を持つ俺の事を優しい両親はとても可愛がってくれた。幼少の頃こそ、子供特有の妄想が生み出した突飛な言動と捉えられていた様だったが、俺の成長に従って両親も意識を変えていく。この子は神童ではないのか、と。

 父親が買い与えてくれた本を教材としてこの世界のいろはを学び、習得と言うより翻訳作業の様に前世の記憶に当てはめながらそれらを理解する。幸い世界を支配する法則や体制はかつてのものと似通っており、俺は学生時代よりもより燃え上がった学習意欲を存分に発揮しながら貪欲に知識を吸収していった。

 この世界の文明的な水準は、お世辞にも前世の世界と比べられる程ではなかった。学校という存在そのものすら知らない小村に暮らす人々に至っては、足し算引き算の計算すら正直覚束無い有様だ。生きていく為の最低限の知恵はあっても、それをより良くしていく為の知識が不足している。俺は高卒程度の頭しか持っていなかったが、非合理的な日々の暮らしの中でそれをひしひしと痛感していった。

 こんな楽しい思いをさせてくれた世界への、自分を暖かく迎えてくれている両親と周りの人々へのお礼がしたい。せめてもの貢献がしたい。

 俺はそう思い立ち、前世の記憶を皆の為に活用する事を決めた。

 それが自らの首を絞める事になろう事には当然、この時は思ってもいなかったのだ。


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