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アサ

作者: サイトウ

無意識の中から不意に目が覚めた。同時に枕元に置いたスマートフォンを手探りで探す。目が悪く、手だけが頼りだった。


『あった……………』

画面に表示された数字は5:45だった。『まだ夜中だったらよかったのに……』と、社会人だったら誰もが思うような事を考えて、再び目を閉じた。


少しずつ頭の中が冴えていく。ええと、今日の予定はなんだっけ……。煩わしいことを考えながら、10分毎にスマートフォンの画面を確認して、6:10を過ぎたあたりでようやく重い身体を起こした。


隣で夫が寝息を立てている。寒いせいか毛布の中で身体を丸めていた。親心に近い気持ちで自分の体温が残る布団を起こさないようにそっとかける。忍び足で寝室から出た後は、いつものリビング。昨日もここで夕食を食べたんだった。


見たくもないニュース番組をつけて、牛乳をコップに注ぐ。朝は少し肌寒く、そろそろ牛乳も温めないといけない季節になっていた。

昨日買った食パンにバターとマーマレードを塗る。胃袋も寝ぼけ眼だ。起きろと言わんばかりに無理やり胃袋の中にパンと牛乳を流し込んだ。


今日は曇りで少し肌寒いとテレビ画面に映るお天気お姉さんが伝えてくれた。

顔を洗った後、薄化粧をし、寝間着から濃い赤色のニットに袖を通す。スキニージーンズは去年買った。身体に密着して、足の形がよく分かる。これは太れないなぁと反射的に考えて、洗面所で髪に櫛をいれた。簡単に髪の毛をまとめれば準備完了だ。


『よし…』

出勤用のバッグを背負い、再び寝室の扉を10cmだけ開けた。まだ寝ている夫に『いってきます』とヒソヒソ話をするかのように言葉をかける。夫が薄っすらと眼を開けたのを確認して、ゆっくりと寝室の扉を閉めた。『いってきます』の挨拶だけは喧嘩をした翌日も行う。いわば儀式のようなものだった。


玄関に続く廊下をゆっくりと進み、玄関で履き慣らした運動靴を履いた。今日も1日が始まる。玄関のドアノブをゆっくりと回し、ドアを開けた。


見慣れた駐車場があるはずだった。

ドアを開けると薄気味悪い笑みを貼り付けた男が目の前に立っていた。年は中年くらいで、顔は全体的に黒く、目だけが怪しく光っていた。口元は釣り上がり、その興味の対象は私に向けられていると安易にわかった。


それが私が最後に見た景色だった。

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