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街灯の下  作者: かさのきず
街灯の下ver.1.20
4/13

シーン4

 有香との出会いは……だなんて大げさに言えるような劇的な出会いじゃなかった。

 僕らが毎日過ごす教室に、たまたま僕も彼女もいたというだけだ。

 席が近かったわけでもないから、僕は彼女のことなんて名前くらいしか知らなかったし、彼女もそうだっただろう。

 それを踏まえて、本当の意味で僕と彼女が出会ったのは、やっぱりあの街灯の下だった。

 僕は本が好きだ。愛していると言ってもいい。

 ところが家では家族のやれ勉強しろだの、外に出て運動しろだのというように邪魔されて存分に本を読めない。

 そうなると、自然とそれ以外の場所。つまり学校で読むようになる。

 授業合間の休憩や昼休憩はもとより、登校中に歩きながら読むなんてことはざらだったし、放課後には図書室に行って置いてある本や持ち込んだ本なんか読み漁った。

 しかし、そんな本好きの僕でも、さすがに下校時刻ギリギリまで校舎に残っていると、帰り道はすっかり日も暮れて暗くなってしまって、文字が読めなくなってしまう。

 そこで、ちょうど座れそうな高さの塀がある街灯の下で、きりのいいところまで読んでいた時に有香に話しかけられたのだ。

 驚いたことに、僕の座っていたその場所は彼女の家のちょうど裏側で、彼女の部屋の窓から僕の様子は丸見えだったらしい。

「私も本が好きなんだ」

 と、有香はそう言って笑った。

 それから、自分の家の目の前なのに、彼女はなぜか僕に付き合って街灯の下で一緒に本を読むようになった。

 無理に付き合わせているようで申し訳なくなって、僕は彼女のために趣味の一つであったコーヒーを淹れてきたりすると、彼女もそれに合わせてお菓子などを作ってきたり、僕が料理も趣味にしていることを知ると、料理対決をしようなどと彼女が言いだして、僕は夜食みたいなのをお昼のお弁当とは別に持ってきたが、彼女は自分の家でできたての温かい料理を出して、僕がずるいと言いながらも美味しくその料理を食べたりして。

 そんな日々をいつの間にか楽しく思い始めて、いつの間にか好きになっていた。

 告白したのもあの街灯の下だ。

 有香は口下手な僕と違って社交性があるし、からかわれるのが恥ずかしいからと、僕と彼女の取り決めで学校ではあまり話さないようにしようと決めていたから、二人きりになれるのはあの場所だけしかなかったのだ。

 有香は頷いてくれた。

 初めて手をつないだのも、キスをしたのも、全部あの街灯の下。

 そんな大切な思い出だらけの場所で、彼女は死んだ。

 滅多に車の通らない場所だけど、一台も通らないわけじゃない。

 暗い道だから、彼女がいたことに気づかなかったのかもしれない。

 車の音に気づくのが、もう少し早ければ、彼女を助けられたかもしれない。

 またね。と言って、街灯を離れた彼女は、僕の目の前で撥ねられた。

 信じられなかった。いや、今でも信じられない。

 彼女がいなくなるはずがない。

 いなくなるはずがないなら、あの場所にいるはずだ。

 しかし、彼女が死んでしまったあの光景を思い出して二の足を踏んで、あの場所へ行くこともできずに、図書室で本を読んでいた僕のもとへ、有希が来たのだ。

 喧騒が遠く聞こえる静かな図書室の中では、彼女の声はよく響いた。

「お姉ちゃんの幽霊を探そう」

 有希。有香から名前は聞いていたが、初対面のはずの僕に彼女はそう言って、半ば無理やり僕をあの街灯の下へ連れていった。

 そして、そのあとは特に何も言うことはなく、携帯か何かを取り出していじりはじめる。

 僕は困惑しながらも、彼女を放って帰ることはできずに、間を持たせるために本を読み始めたのだ。

 それが、僕と有希の奇妙な関係の始まり。

 未だに有香の幽霊は見つかっていない。

 たぶん、何も知らない人から見れば、いつまでも死んだ人に囚われてないで自分の人生を生きろなどと説教を言われることだろう。

 ただまあ、この関係はまだしばらくは続きそうで、「まだ諦めなくていいんだ」そう有希に言われているようで、ほんの少しだけ、僕はそれを嬉しく思っているのかもしれない。

次の更新は明日。

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