光景2
光景系は後から変更することが多いです。
足元さえ見えないほどの暗闇の中でだって、僕たちはたしかに道を歩いている。
この道はやがて、別の道に続いていて、その道もまたどこかに繋がっているはず。
そう、道はあるんだ。どこへだって行ける。
僕はこの暗闇の中でさえ、しっかりと見える彼女に言った。
「どこまでも行こう」
「うん」
頷く彼女に手を差し出すと、おずおずと彼女もこちらの手を握り返してくれた。
少し暖かく感じる彼女の手を、離れないように、離さないようにしっかりと握る。
空には街灯の光がなくなった分、いつもより明るく見える星が僕らを見下ろしていた。
その光だけを頼りに僕たちは歩いていく。
時折彼女が手を引っ張って、僕に道を教えてくれる。
「ねえ」
最後かもしれない。
そんな思いが僕の口を動かしていた。
「好きだよ」
ずっと言えなかった言葉。
恥ずかしくて、そしてどこか申し訳なくて。
顔が熱くなるのを感じて、僕は前方の何も見えない暗闇を睨む。
「私も」
泣きそうな声で彼女はそう言った。
しっかりと、彼女のほうから手を握ってくる。
「私も好き。だから、どこまでも行こう?」
僕の正面に立った彼女の白い頬は真っ赤に染まっていた。
「ああ、どこまでも」
冷静を装って頷くけど、僕は嬉しくなって浮かれてしまっていた。
手の繋ぎ方を変えてみる。指を絡めたいわゆる恋人繋ぎってやつ。
憧れがあったことは否定できない。それで嬉しかったというのも嘘ではない。
けれどそれ以上に、そんな繋ぎ方ひとつで彼女との距離が縮まった気がしたことがとても嬉しい。
道はどこまでも続いているのだ。終わりなんてない。だから、その道を行く僕らにも終わりなんてないだろ?
「行こう」
歩きながら、僕らは色々な話をした。
将来の夢。互いにどこを好きになったか。子供は何人欲しいかなんて話まで。
そして、唐突に彼女がしゃがみ込んだ。
「ごめん」
彼女は僕に笑って言う。
「私はもう行けないみたい」
そう言う彼女は、何か満足そうな顔をしていた。
けれど僕という人間は、彼女ほど物分かりが良くないらしい。
「いやだ」
子供のような駄々。でもそれが僕の偽らざる本音だった。
だって道は続いているのだ。終わりなんてない。
終わりなんていらない。永遠が欲しい。
僕は彼女の体を抱えた。
彼女も僕のやりたいことを理解したのか、どこか呆れたような、それでいて何もかもを許すような笑顔で僕の首に自分の手をまわした。
そうしてお姫様抱っこをした彼女の体にほとんど体重はなく、今まで冷たく感じていた体温でさえもいつの間にか空気のように何も感じなくなってしまって、ただ触れている柔らかさだけがそこに彼女の存在を示していた。
「行こう。どこまでも」
それだけを繰り返し僕は言う。
彼女が微かに頷くのがわかった。
ゆっくり歩きだす僕らにもう会話はなかった。
時々、彼女の柔らかさが薄れていくように感じて、ぎゅっと抱きしめるようにして、彼女が消えないように祈る。
神様、僕たちに永遠をください。
どれくらい歩いたのだろう。気づけば、目の前の道は途切れてしまっていた。
目の前には小さな砂浜があった。
どこまでも続いていたはずの道に、終わりが訪れた。
そのことで僕はすっかり折れてしまって、地面に座り込む。
立ち上がろうにも、一晩中働かせてきた足にはもう力が入ってくれない。
「ごめん、すぐ立ち上がるから」
「もういいよ」
「いやだ」
「もう、終わりでいいよ」
「いやだ」
「私はもう満足だから」
「いやだ」
「ねえ、好きだよ」
「いやだいやだいやだいやだ」
子供のように泣きわめく。
いつの間にか日の出の時間になったのか、目の前の水平線の先に光りがのぼってきて、海のほうから徐々に照らし出していく。
彼女は僕の腕から逃げ出し、その光に向かっていく。
あっという間に光は海全体を青く輝かせ、そして砂浜をも染め上げていた。
「行くなよ!」
僕は叫んで彼女に向かって走ろうとしたが、やはり足に力が入らずにそのまま砂浜に倒れ込んでしまう。
這ってでも彼女のもとへ。そう思っても、重さがほとんどないとはいえ、ずっと彼女を抱え続けていた手にも体を持ち上げるほどの力が残っておらず、僕の体はちっとも前に進まない。
「ありがとう」
そして、僕の目の前で、彼女の体は光に溶けていった。
「あ、ああああああああああああ!」
叫びながら何秒もかけて、彼女の消えた場所までたどり着く。
いない。どこにも。
あの笑った顔も。
どこか冷たい体温も。
柔らかい感触も。
どこにも、彼女はいなかった。
彼女は、いなくなった。
日の光が辺りを照らす。
疲れからか、薄れていく意識の中で、このまま彼女と同じように光の中で溶けてしまえることを願った。
これであとは色々辻褄合わせつつ書いていこうと思います。
プロット書かなきゃ……。
次回の更新は未定。明日にでもプロットだけでも載せる可能性が微粒子レベルで存在します。




