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つみほろぼし

作者: 水橋 哩

 貴女を愛している。

 貴女を心配している。

 貴女を気遣っている。


 そんな気持ちをメールにして送っていた私。


 メールが苦手な貴女からの返事がなくとも、それを読んでくれていて、気持ちが伝わっているものだと、私は思っていました。

 だから、私は、毎日、せっせと送り続けていました。

 返信が来る時もあり、返信が来ない時もあり…でも、それは、貴女には仕事もあり、自分の生活もあり、ひっくるめて言えば、貴女の世界があるからであって、当然のことだと考えていたんです。

 体の調子が悪い時だってある。気分が乗らない時だってあります。

 毎日会うわけではなかった2人。2週間に一遍会えれば幸せな方でした。

 電話だって滅多にしませんでした。

 これを止めたら、貴女との糸が切れる。そんな気がしていましたから。

 だから、私は送ることを止めませんでした。

 今思えば、貴女の気持ちを確認しておくべきだったんですね。



 貴女は機械でも、ぬいぐるみでもなく、紛れも無く人間です。

 心があって、温かみがあります。好きなものもあれば、嫌いなものもあります。喜びもすれば、疲れもします。

 しかし、どうやら私は、貴女が人間だと理解していた「つもり」に過ぎなかったようでしたね。


「明日の朝に読んでくれれば良いな」

 そんな軽い気持ちで、真夜中に送ったメールもありました。

 眠っていることは分かっていました。けど、起きはしないだろうと、思って送信していました。

 けれど、貴女は、真夜中の闖入者に悩まされて、疲れ果ててしまっていたんですね。

 私は全く気づきませんでした。

 いや、気付かなければいけなかったんです。

 普通の頭で考えれば、そんな時間にメールを送られたりすれば、たまったものではありません。

 そんなことに気付かないほど、私は恋というものに魅入られて溺れてしまっていたようです。

 私はバカになっていました。

 もう、全てが手遅れでした。




 あの時、貴女の本音を初めて聞けて、私は嬉しかったですよ。

 全てが手遅れになったあの状況で、私は貴女の心の核へ初めて触れられたから。

 貴女の本音を聞いて、私は絶望したのですけれど、どことなく幸せな心持ちでした。

 貴女を心配し、気遣っていたつもりが、現実は全くその逆で、ただただ貴女を追い詰めていたという事実を突き付けられて、私はひどく狼狽しました。

 貴女の嫌なことなんか一切したくなかったし、する予定もありませんでした。ただ、貴女から突き付けられた現実は、私の想像していたものとは全くかけ離れていて、私の意図とは全く逆に作用していました。

 私の想像上の天国は、貴女にとって、現実の阿鼻地獄だったようです。

「もっと早く言ってくれれば良かったのに」とも思ったし、伝えもしました。

 けど、それは地獄を創りだした張本人の言うセリフではないありませんね。

 地獄を創り出した人間は地獄に落ちます。これから私は、この一件を思い返しながら、無間地獄で責め苦を受け続けるでしょう。少しだけ、火車のお迎えが楽しみになってきました。地獄とは一体どんなところでしょうか。それ相応の責め苦を私は受け続けるのでしょうか。あぁ、因みにですけど、私はドMではないので、痛いのは当然苦痛なのだと付け加えておきましょう。



 結局のところ、今回の出来事は、貴女と私の歩む速度が違ったから、必然として起こった訳です。

 貴女の歩む速度に合わせて私が歩けば良かっただけの話なのに、私は突っ走りすぎて、貴女の姿は見えなくなり、気付いた時にはもう貴女とは永遠に会えなくなっていました。

 また、私はひとりぼっちになってしまいました。

 

 

 貴女と過ごした時間はとても楽しかったですよ。

 2人でいれば、話は尽きず、貴女は楽しそうに笑っていましたね。何時間でも話し続けていられました。夕方、車の外が薄暗くなっても、私達は話を止めませんでしたね。一度、巡回のパトカーが来て、肝を冷やしたことがありましたっけ。本当に、本当に楽しかったですよ。

 私は貴女の話を聞くのが、とても好きでした。紅茶、小説、死の椅子…貴女は私の知らない世界を沢山知っていましたね。

 雪解けを待って、もっと行きたい所も沢山あったのですけれど、結局それは叶いませんでした。私は貴女に見せたいものも見せられず、結局は地獄だけしか貴女に見せられませんでした。幸せだけを与えるつもりが、不幸だけを投げつけ続けていたのですから、その罪は簡単に償えるものではないでしょう。


「楽しいことも沢山あった。ありがとう」と別れ際のメールで貴女は言いましたね。

 これだけの地獄を見せたのだ。恨まれこそすれ、感謝される筋合いなんて私にはありません。

 いっそ、恨んでくれた方が楽でしたよ。この言葉は私にはとても重たい鎖です。

 どうして、こんな言葉を私に与えてくれたのだろう。こんなにまで、貴女を苦しめた私に何故…。




 あぁ、これは貴女からの罰なのでしょう。

 貴女は、地獄を創りだした人間へきっちりと地獄を与えてくれたんですね。善意を装ったエゴを丸出しにして、自分をとことん苦しめた人間が、生きながらにして苦しむための唯一無二の地獄を与えてくれたという所でしょうか。

 貴女からは、有形無形の沢山のものを貰ったけれど、最後の最後に、オーダーメードの地獄まで貰ってしまいました。

 この半年、本当に貰ってばっかりでしたね。

 ありがとう。有り難く、苦しませて頂きます。心から藻掻き苦しんで、血反吐吐かなければ、バカは治らないですから。


 もし、また出会うことがあれば、その時は、面と向かって感謝だけは伝えさせて欲しいです。

 明日になるかもしれないし、数十年後になるかもしれないけれど「ありがとう」とだけは、私に言わせてください。

 そして、また笑って話せたら、いいです。いや、これも私のエゴでしょうね。そんな甘い望みはやめておきましょう。

 とにかく身体に気を付けて、幸せに生きて下さい。それだけが私の望みです。

 貴女の幸せを願い、貴女を地獄に追い落とした人間が言うセリフではないかもしれないけれどもね。

 あと、こんなバカな男には、もう引っかかりなさんなよ。

 貴女は、このまま変わらずとも、十二分に素敵な女性です。思慮も分別もあるのだから、変わりなさんな。



 本当に大好きでした。

 貴女となら、面白い未来が見れると思っていたのですが、現実は貴女を苦しめるだけでしたね。

 許してくださいとは、もう言えません。

 やり直したいなんて、口が裂けても言えません。

 全てが、もう手遅れだったんです。

 

 私は幸せでしたよ。本当に、本当に。

 けれど、貴女には本当に辛い思いをさせてしまいました…。


 悲しいけれど、ここでお別れして、正解だと思います。

 貴女の選択は間違っていない。やはり、貴女は最後まで賢明でした。

 貴女を機械やぬいぐるみだと思ったことは一度もないのだけれど、貴女にそう感じさせた時点で、私は貴女を不幸にしかしていなかった。

 その事実ひとつだけで、お別れするには十分すぎる。


 もっと早く貴女の気持ちに気付いていれば良かった。


 ごめんなさい。


 さて、そろそろ、私の独白を切り上げましょうか。

 文字数がいささか足らない気もしていますが、あんまり長いと読む気をなくしてしまいます。

 気持ちが入ると、私の文章はいささか長くなりすぎる傾向にありますから、精神が平衡を保っているうちに終わりにすることといたしましょう。




 じゃ、さようなら。

 また、いつか。

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