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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第三章 再来の襲
89/102

13,再来する災厄たち(3)

      ◇


 訓練室を出た途端、リュウトの前に、先刻倒したはずの黒い化け物が現れた。

 黒い擦り切れだらけのローブに身を包んだ、長身痩躯の異形。


 しかも、化け物は一体だけではなかった。


 リュウトの視界が捉えたその数は、実に七体。

 リュウトから見て左右に広がる廊下に、それそれ四体と三体、リュウトの逃走経路を阻むように立ちはだかっていた。

「――――」

 だが、リュウトの中に動揺が生まれることはなかった。

 言うまでもないことだが、リュウトは今何が起こっているのか、正しく理解しているわけではない。

 しかし、今何が起こっているのか――そんな全体の状況変化の把握は今は後回しだ。

 化物よりも、もっと恐ろしい脅威が、今リュウトを追ってくるのが、彼にはわかる。

 目下のところ、彼の脳は纏わりついてくるあの不気味な存在を振り切る算段を検討していた。

 化物たちがリュウトに攻撃の姿勢を見せるよりも早く、リュウトは左方――三体が塞いでいる道へと駆ける。

 リュウトを捕まえようとしてか、それとも単純な攻撃しかできない烏合の衆なのか、化物たちが取った行動は両腕を突き出して迫ってくるという、ただそれだけの反応だった。

 リュウトにとって、その合間を縫って化物たちの壁を抜けるのは、別段、難しいわざではなかった。

 既にリュウトはいないその場所へ、化物たちは押し寄せ、詰め寄っていく。どの一体とて、リュウトの鮮やかな身のこなしに反応できていなかった。

 なんともマヌケだ、と背後を肩越しに見ながら、リュウトは内心で化物たちを罵る。

 単騎の時はあんなにも恐ろしい敵だったというのに、背後のあれは、まるでおしくらまんじゅうでもしているようではないか。

 単独の方が能力を発揮しやすいのか、それとも先刻の個体の能力値が高かっただけなのか。

 だが、リュウトが前方へ視線を転じた瞬間、背後から大きな破壊の音が聞こえる。

 背中に感じる、あの黒い波動。

 確認するまでもなく、そこに誰がいるのかはわかった。

 リュウトの速度のギアが、一段階、上がる。

 おおよそ、人が出しうる速度を逸したリュウトのスピードは、瞬く間に彼を訓練室前の廊下から移動させる。


 そして――、


 リュウトの背後のドス黒い気配もまた、リュウトに引き離されずぴったりとついてくる。

 リュウトとて遊び感覚で逃げているわけではない。

 にもかかわらず撒くことができないということは、黒装束の少女の能力が、今現在のリュウトを大きく凌駕しているからだ。

 実力で大きく劣る相手をこうも執拗につけ狙うのは、彼女にしてみればこれが、単なる暇潰し、娯楽の類であるからだろう。

 リュウトにしてみれば必死の逃走は、しかし黒装束の少女にとってはただの遊戯にしかなり得ない。

 たとえ、リュウトが少女を殺しに行ったとしても、少女がほんのわずか、“その気”になりさえすれば、リュウトの息の根を止めることができる。

 故に、リュウトには少女と「殺し合う」気は毛頭なかった。

 少女に負けている、という事実に悔しさも感じない。

 もとよりプライドなど欠片も持ち合わせていない彼は、どうすれば彼女から逃げられるのか、ただそれだけを思考する。

 そして、そんな彼の中で、逃げ道の果てにたどり着くであろう場所は既に決まっていた。

 自身が出しうる最速のスピードで、無駄のない最短の道のりを、自身の直感に従い導き出し、疾駆する。

 背後の女は、遊び半分でリュウトを追いかけまわしている。

 リュウトが少女の視界に補足される限り、そしてリュウトへの興味が消えない限りは、追い続けてくるだろう。

 同時に、彼女が戯れ気分でいる限り、リュウトの命は生かされ続ける。

 彼女が気まぐれを起こさないうちに、彼女から逃げ延びなければならない。


 リュウトが目指した場所は、定期戦の試合場であった。

 リュウトの時間間隔が狂っていなければ、今行われているのは『フィースフィール』のはずだ。

 目まぐるしくステージの環境が変化する中で行われるこの競技の現在の環境は、浅い水場だった。

 水飛沫を散らして、リュウトは疾駆する。

 その背後には、黒いオーラを纏った黒装束の少女がぴったりとついていた。


      ◇


 ルークとクラザはすぐさま臨戦態勢に入った。

 懐から、ボールペンめいた金属製の魔法道具――安全委員では「ゲート」の名称で呼ばれている――を取り出し、その先端部の起動スイッチを押し込む。

 目も眩む光の瞬き。

 一瞬の間の後、二人は各々の得物を握っていた。

 ルークの手には、三メートルにも及ぶ、柄の両端に極太の槍身がついた槍。

 クラザの手には、身の丈に迫ろうかというほどの、巨大で重厚な大剣。

 現代技術が造る武器においては、あの魔導兵器すら破壊力で上回るという、Kr兵器。

 安全委員が秘匿し、戦力として製造している近代兵器随一の武器。

 大剣と槍の切っ先が、油断なく二人が対峙している男女を睨む。

 対して、黒装束に身を固めている男女は、ルークたちとはまるで別種の表情をそれぞれで浮かべている。

 男の表情が作るのは、余裕を感じさせる微笑。

 安全委員の人間の中でも、上位の実力を誇る二人を相手にして、なんら焦りを伺わせないこの美丈夫の実力は、それほどまでに高いというのか。

 女――「片目」のヨミが顔に刻んでいるのは、なんら起伏のない無表情。

 三年前に、目の前の二人を相手に始終圧倒的な実力を見せつけた彼女だ。彼女ならば、ルークたちを相手にこの反応も納得できなくはないかもしれない。

 むしろ、この場で劣勢なのはルークたちの方だった。


 対峙する二人のうち、ヨミの実力は三年前の戦いでさんざん見せつけられた。男の方はまだ未知数であるが、この場で対峙して欠片ほども焦りを見せないことから、侮っていい敵ではないだろう。

 ヨミだけでもルークたちだけで対処できるかわからないのだ。

 そこへ、あの初見の敵が加わることで、戦況はルークたちにさらなる向かい風を吹かせるのだ。

 だが、どうやら二人にとって最悪の展開とはならないらしい。


「ここは私が」


 胸に手を当て、長髪の美丈夫は穏やかな口調で、傍らのヨミへそう進言したのだった。

「……大丈夫なの?」

 ヨミもヨミで、視線を一時的に脇に移して、男にそう確認を取る。声音には、欠片ほども心配するような響きはなかったが。

 男は苦笑するように眉根を寄せ、答えた。

「ええ。あのお二方を足止めするほどには、私も己惚れておりますよ?」

 白けたような色が、ヨミの瞳に宿る。自惚れでは困る、とでも言うかのように。

 ともあれとして、ヨミは一歩、後ずさった。

「――さて」

 穏やかな表情を崩さぬまま、男の視線がルークたちに戻る。

 途端、二人は緊張を押し殺すかのように身構える。

「お初にお目にかかります。私、ラスカル・ホルー……失礼、現在はアレックス・バルホスと名乗っております。ええ、お二人の予想する通り、ヘルヘイムに属する身です」

 丁寧に名乗りを上げ、男――アレックスは頭を下げる。

 それは、敵を前にするにはあまりにも慇懃そうな態度だった。

 だが、それで油断してしまうようなルークたちではない。

 彼らの視線は微塵も揺るがず、猛禽類のように鋭い。

「困りました。どうやらお二人とも、手を抜いてくれる気はないようですね」

「……手を貸しましょうか?」

「いえ、それには及びません」

 ヨミの申し出をやんわりと断り、アレックスは一歩、前に出た。

 ヨミは肩をすくめて、踵を返す。

「じゃあ、私は他に行くとするわ」

「ええ。お気をつけて」

 簡単に挨拶を交わして、ヨミの姿はその場から疾風のごときスピードで消えた。

「さて」

 一人になったところで、アレックスはことさらにこやかに笑みを浮かべてルークたちを見る。

 その時、ルークの耳に、クラザの小さく呟く声が聞こえた。

「ルーク、ここは俺が抑える。お前はヨミを追え」

「……クラザ?」

 ルークは、クラザの正気を疑うようにその名を呼ぶ。

 アレックスの戦闘能力が未知数である以上、単独での戦闘は極力避けるべきだ。

 しかし、同時にルークもまた、この場を去ったヨミの行方が気がかりだった。

「若造一人に後れは取らんさ」

「……よし、わかった。ここは頼んだよ」

 力強いクラザの言葉を受けたからでもないが、ルークは姿を眩ませたヨミの後を追うことにした。

 即座に身体強化の魔法を発動し、淡い薄青の光がルークの身体を包む。

 次の瞬間、ルークは廊下を突っ切り、向かい合っていたアレックスさえ背中に通り越して、ヨミが消えた方向へ駆けた。

 アレックスは、しかし背を向けて走っていくルークに攻撃を仕かけなかった。

「では、始めましょうか」

 一人その場に残ったクラザに、にこやかに微笑みそう告げたのだった。




「ああああああああああああああああああああああ!!」


 裂帛の気合とともに、先に仕かけたのはクラザだった。

 身体強化は既に発動済み。

 アレックスとの間合いを瞬時にゼロにして、その重厚な大剣を軽々と振るう。

 真上から振り下ろされた一撃を、アレックスは右手の手甲で防御した。

(ぬ!?)

 受け止められた感触に、クラザは内心驚いていた。

 クラザの大剣ボルボスは、当然ながらKr兵器である。

 武器自体の破壊力たるや、魔導兵器さえも凌駕する。

 加えて、長年この大剣を使いこんできたクラザの一撃は、鋼鉄さえもやすやすと鉄くずに変える威力である。

 そのクラザの一撃を、手甲の装甲と腕力のみで受けきったアレックス。

「痺れますね。さすがは、安全委員の古株殿」

「そりゃどうもだ!」

 力を入れてアレックスを押し飛ばそうとするが、なかなかどうして、アレックスの踏ん張りは強靭だった。

 むしろ自分が下がった方がいいか、そんなことを考えていたクラザは、その時、アレックスの手甲に魔力が通うのを見て取った。

 直後、手甲の表面に薄い文字の羅列が浮かぶのも、しかと見た。


(なるほど、式魔法)


 納得するのと同時に、クラザの視界の端で、魔力の塊が複数、空中に出現するのを捉えた。

 生成された魔力弾の数は都合四発。アレックスの背後に展開される。

 それらがクラザを狙って射出される直前、クラザは大剣を引いて盾のように構えて防御の体勢に入った。

 ボルボスの重厚で幅広の刀身は見事クラザの身を守るが、四発分の魔力弾の勢いは殺しきれず、数メートルクラザの身体を後退させる。

「――さあ、行きますよ」

 にこやかな笑みを微塵も崩さずに、アレックスは右手をクラザの方へ突き出した。


      ◇


 勢いよくヨミの後を追ったルークではあったが、当然、彼女の疾風のごときスピードに追い付けるはずもなく。

 ヨミがどこへ消えたのか、その行方が、まるでわからない。

 一先ず冷静に考えるためにも、ルークは足を止めた。

 ルークが今いるのは、訓練室近くの廊下だった。

 そういえば、と先ほどのことを思い出す。

 先ほど聞こえてきた破壊音、思い返せばあれはこちらの方から聞こえてきたような……。


 ――その時、前方の丁字路を、青と黒の二つの光が駆け抜けていった。


 右から左へ抜けていく、そのあまりの速度。

 その光が見えたのは、わずか一瞬の間だった。

 しかし、その一瞬の時間で、ルークはたしかにそれを見た。

 視界を横切る二つの光。黒く禍々しい光を放っていたのは、まぎれもなくルークが追っていたはずの少女の姿だ。

「――――っ」

 それさえわかれば、ルークがどこへ向かえばよいかは決まる。

 再び、ルークは走り出した。

(――こっちは、試合場の方か!?)

 ――不味い、という焦燥の念が、ルークの中でふつふつと湧き上がる。

 もしもヨミが、試合場に出ていき、そこで暴虐の限りを尽くしたら。

 時間的に、今は『フィースフィール』の真っただ中だろう。観客席で試合を観戦している一般客や各校の生徒たち、そして試合場で競い合っている選手たち……。


 数えきれないほどの死傷者が出る。


 考えただけで、戦慄が奔る。

 それは、ルークの故郷の国を滅んだ時の、あの地獄絵図の再来だ。

 他ならない、あの女の手によって、また多くの血が流される。

 ルークは一度、自身の得物をゲートの状態に戻し、そこから一気に駆ける足に力を入れて加速した。

 前方に、あの黒いオーラは見えない。

 しかし、この道のりは、一直線に試合場の方へ向かっている。

(――くそっ)

 通信機の類は使えない。

 もしかすれば、試合場に誰かが既にいるかもしれない……そんな風に仲間にすべてを押しつけ、頼ることは、今は無理だ。


 ――どうか間に合え!


 心の中で叫びながら、ルークは試合場を目指して走った。




 試合場に出た時、ルークの目には対峙する少年と少女の姿が捉えられた。

 どちらもルークの知る人物、その姿だった。

 少女の方は、黒いシドー着を身に纏う、誰あろうルークが追っていた「片目」のヨミである。

 そして少年の方は、なんと、リュウトであった。

 今、ヨミとは別に安全委員が最優先で警戒している対象の一人。

 そんな二人が今、競技中の試合場のど真ん中で、選手も観客たちも置き去りにして睨み合っていた。

 一目見て、ルークは二人の間へ割って入る決意を固めた。そこに、躊躇いなど微塵もない。

 たとえ、リュウトが将来的にはになるのだとしても、今はまだ、安全委員の守護対象に入る。それが、ルークの考えである。

 自身の得物を再び具現させ、水場となっているステージへ足を踏み込もうとして……その足が、止まる。

 怖気づいたわけではない。


 試合場全体が、突如として揺れ出したのだ。


 新たな展開。ヨミの――ヘルヘイムの仕業か、とルークは勘ぐり、すぐに違うと悟る。

 乱入者が出たとはいえ、一応今は『フィースフィール』のただ中である。

『フィースフィール』は、舞台となるステージの環境がランダムな時間差で変化する。

 今まで浅い水場の形態をとっていたステージが、その環境を変貌させる。

 水面は見る見るうちに地面へと吸われていき、露出した地肌はすぐさまに乾燥し、ひび割れが網目のごとく張り巡らされる。

 一瞬にして干ばつした土地のような様子に変化したステージだったが、その変化はまだ、終わっていない。

 地面から、鋭く尖った無数の岩が生え出てくる。

 岩の長さは、三メートルから四メートルほどだろうか。

 植物の成長を早送りして見るかのような素早さであった。

 ステージ環境の変化チェンジにより、ルークは介入するタイミングを逸してしまった。


 試合場の揺れが収まった時、リュウトの姿が、忽然と消えていた。


 ぎょっ、と。

 ルークの意識は一瞬フリーズし、瞬時にそれは驚愕へと変わる。

 青い光の筋が、見えた。

 線を引くように真っすぐに。

 残光の青を引きながら。

 立ちすくむヨミのまわりを、ひび割れた地面を、突き出た岩を足場にして、何かが目にもとどめられぬ超スピードで駆けまわっている。

 それが何なのか、ルークは考える以前に既に、答えを確信していた。


 ――リュウトだ。


 どういう仕組みかは知らないが、彼が、歴戦の猛者であるルークでさえ届き得ないスピードを操り、ヨミを翻弄している。

 ルークは愕然とした。

 年齢的に成人したといっても、づき最近まで小さな子供だった少年が、あそこまでの能力を発揮していることへ、戦慄にも似た感情が芽生えた。

 思考が麻痺したルークでは、それがどんなに由々しき事態なのか、考えにも及ばないだろう。

 リュウトという少年が、安全委員の戦士さえ凌駕する能力を発揮している――安全委員が彼を警戒する理由を考えれば、それは決して見逃すことができぬことだった。


(――――――、まずい……!)


 しばし我を忘れて見入っていたルークであるが、そこであることに気づいた。

 それは、リュウトの神速のごとき超スピードに翻弄されるヨミだった。

 身体中から禍々しい黒いオーラを迸らせている少女は、余裕の笑みを浮かべている。怪訝な表情をするルークであるが、続けてヨミの視線が、目まぐるしく動いていることに気づく。

 上、左、右、斜め下、上、ヨミは眼球を絶え間なく動かしている。それはまるで、超速で動きまわるリュウトの動きを捉えているようで――、


 ――見切られている。


 それだけで、ルークは真実を悟る。

 そしてその事実に、ルークはまるで悪夢でも見ているような気分になった。

 もしもリュウトが今やっていることをルークに仕かけてくれば、ルークは見切ることなどできまい。

 リュウトの超スピードに翻弄され、その隙を無様に晒してしまうに違いない。

 だが、今実際に翻弄されているはずのヨミには、そのスピードがまるで通じていない。

 いったい、自分たちが相手をしていたのはどれだけのバケモノだというのか。

 三年前にも感じた絶望が、再びルークの中で再燃し始めていた。


 しかし、呆然自失しかけたルークを置いて、状況は更なる急転を迎えようとしていた。


      ◇


 目の前を、青の残光が走り抜けていく。

 自身のまわりを駆け巡るリュウトに対して、少女の対応はその場にじっとしていることだった、

 その胸の内で、少女は抑えようもないほどのリュウトへの興味を膨らませていた。

 今少女の周囲を疾駆しているリュウトは、おそらくは音速にさえ迫ろうかというほどのスピードであろう。

 音速か、または亜音速か。

 あちらこちらで、衝撃波が起こっているのが感じられた。

 その速度を出したこと自体には、まだ驚きは小さい。本気を出しさえすれば、少女も難なく、その領域の速度へと行けるのだから。

 少女が感心した点は、リュウトが音速張りの速度を出したことではなく、その最速を常に維持して動いていることだった。

 どう頑張ってみても、瞬間的な最高速度で音速を叩きだす少女と、常に音速に近い速度で移動し続けるリュウトと。

 どちらがよりすさまじいのかは言うまでもないだろう。

 だが現実を見れば、その芸当を繰り出しているのは、能力的には少女に遥かに劣っているはずの少年に過ぎない。

 そのちぐはぐなからくり(・・・・)も、しかして少女は既に看破しつつあった。


(――装甲術か)


 当然ながら、錬気には身体能力を上げるなんて性能はない。

 しかし、もし錬気の操術に長け、音速並みのスピードで操ることができれば、錬気を身体中に纏う装甲術でこのような芸当を披露することも可能だろう。

 だがそれでは、肉体にかかる負荷はとてつもなく重い。

 彼が身体能力強化の魔法を発動しているのは、おそらく純粋な身体能力の増強を期待してのものではなく、肉体にかかる負担に耐えるためであろう。

 魔法によってブーストした身体能力では、到底敵わないと判断して、あの少年はこの邪道を切ったのだろう……少女はそう、推測を立てた。


 ――しかし誤算があるとすれば、少女がリュウトのトップスピードについていけずとも、その動きを捉えること自体は容易であるということだろう。

 加えて、リュウトのやり方はあまりにも乱暴だ。

 いくら魔法で肉体を強化していようと、この超速は一分とたもてまい。

 少女の速度では駆けまわるリュウトを追いかけることはできない。

 だが、攻撃に転じたリュウトにカウンターを合わせることは、少女にしてみればとても容易な技だった。


 その時、少女の背後で、青の閃光が迸った。

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