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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第三章 再来の襲
86/102

10,定期戦2日目(4)

      ◇


 ――時間は、およそ二時間ほど前にまで遡る。


      ◇


 組み手の練習相手をしろ、というジークの要求を承諾し、手渡されたのはジークやグランバルトと同じデザインの運動着だった。

「これ、ラスパーナのやつじゃないのか?」

「そうだが、これ以外に今手元にないんだよ。それとも、制服でやるのか?」

 俺はそれでも構わないが、とジークは肩をすくめてみせる。

 自分の運動着を持ち歩いているわけでもないし、仕方ないか。

 訓練室の隅の方で運動着に着替えて、軽く準備運動をする。

「なあ、なんでおまえ、選手として出ないんだよ?」

 肩を回し、腰を捻る俺に、ジークが気軽な口調で質問する。

 こいつの中では、もう俺はトモダチとかの扱いになっているんだろうか?

 なんともなし、抵抗感がないわけではないが――こいつがその実、グランバルトとは違うということも、既になんとなくではあってもわかっていた。

 しかし、質問には最低限の答えだけでいい。

 シンプルイズベスト、である。

「……出たくないからだ」

「なんでよ?」

「…………興味がない」

 本当、俺が正選手にならない理由はそれだと思う。

 ――面倒ごとが嫌い。

 ――目立つのが嫌い。

 心情的にはいろいろな理由があるが、すべて根っこ(もと)を辿れば、俺の無関心に帰結する。

 三年前のあれは、まさに俺にとっては不幸だった――と言えるかもしれない。

 あの時はまた、どうして出場を承諾してしまったんだっけ?

 ――正選手に選ばれていたテラが、何故か出現したウルスタイガーに負傷させられ、俺の他にもう一人いた補欠は、たしか家の事情で出るには練習不足になる、ということで俺に白羽の矢が立ったんだったっけか。

 断ろうにも、俺以外に補欠がおらず、心情的には渋々だったと思う。

 我ながら、出来すぎなくらいの偶然の重なりではないだろうか。


 だが、だからと言って厭な記憶だったなんてことは決してない。


 補欠として新人戦に出た時の記憶は、青春の爽やかな一面として俺の記憶に残っている。

 ――まあ、要は結果論だっただけだが。

「準備できたか?」

「ああ、バッチオッケー」

 手首と足首を回し終え、俺はジークの前に立った。

 彼我の距離は、五メートルほど取っている。

 訓練室には俺たち三人以外に人がおらず、事実上、部屋全体を使って組み手をすることができる。

「んじゃ、よろしく頼むわ」

「ああ。……体術だけでやるんだよな?」

「ああ、そうだぜ。魔法はできればなしで。やるにしても身体能力強化ぐらいにしてくれや」

「わかった」

 ジークが構える。

 三年前の定期戦『ハイ・サヴァイヴ』の新人戦でも見た、なんとはなし俺が知ってる八極拳の構えに似ている。専門家ではないから、八極拳とどれくらい似てるかとかの検証はできないが。

 俺の方も、構えを取る。

 ――と言っても、俺には格闘技の経験なんて皆無だ。腰を少し落とし、両手は浮かせて、前かがみの姿勢になる。俺がやるのは、あくまでも我流である。


 ――何か合図があったわけではない。


 ジークが床を蹴り、肉薄してきた。

 掌底が突き出される。

 俺の顎を狙った一撃を、身を仰け反らせることで躱す。

 眼前を、ジークの腕が突き抜けていく。

 その腕を両手で掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。

「うぉっと!?」

 驚くような声を出しながらも、ジークの対処は迅速だ。

 あえて勢いに逆らわずそのまま身を投げ出し、空中で体勢を変えて難なく着地を決める。

 そしてすぐに俺めがけて突っ込んでくる。ニヤリとした笑みを口元に刻んで。ちょっと怖い。

 突き入れられる拳の軌道をいなし、第二撃として迫る手刀を受け止める。

「あの時みたく、錬気使ってもいいんだぜ?」

「……そりゃどうも!」

 かけ声とともに、組み合っていたジークを押し飛ばす。

 その勢いを殺すことなく、バク天しながら俺から距離を取るジーク。

「どうして錬気を使わないんだ?」

 困ったように眉を八の字にひそめながら、ジークは俺に問いを投げる。

 こいつの気さくさには、やっぱりちょっと参るな。

「……使わなきゃ駄目か?」

「俺としては、使ってほしいところだな」

「アレ使っちゃったら組み手にならないって言っても無駄かね?」

「うーん……まあ、構わねえさ」

 随分ガバガバだな。

 まあ、強制されないなら使わなくてもいいだろ。

 俺がやってるのはあくまでもジークの組み手の練習相手であり、勝負をしているわけじゃないし。仮に組手でこいつに負けても、俺が失うものは何もない。

 ジークが再び、接近を仕掛けてくる。

 俺を間合いの中に捕らえたジークの両掌が、俺の腹を穿たんと突き出される。

 後方へステップを踏むようにして跳び、間合いから逃れる。

 しかし、ジークの突進はそこで終わらない。

 素早く両手を引き戻すと、踏み出した足を軸足にして一回転、振り上げた足で踵落としを見舞ってくる。

 交差させた両腕で受け止め、逆にその足を掴みハンマー投げをするように遠心力をつけて投げ飛ばす。

 さっきから相手を投げ飛ばす対応が多いな――と我ながらそんなことを思った。

 さっきの背負い投げよりかかなり勢いがついて投げられたジークは、空中で立て直しを計ることなく壁に叩きつけられた。

「ガハッ!」

 呻き声が、ジークの口から漏れ出る。

 ずるずると背中を引きずり、床に尻をついた。

「ゲホッ、ゲホッ、ふぇ~、効くな」

 ふらふらしながらも立ち上がったジークが、頭を振りながらそう口にする。

「うん。三年前の二倍……いや、四倍くらいは強くなってるかな」

「成長期だからな」

 ……まあでもさすがに、三年前の四倍は買いかぶりすぎだと思う。

 でも、たしかに。

 年々、身体の能力がどんどん強くなっていってる気がする。

 去年まではできなかったことが、今ではできるような、そんな錯覚を覚えるほどに。

「ほう。そうかよっ!」

 瞬く間に、俺へと肉薄するジーク。

 俺との間合いを一投足の距離まで詰めると、絶妙なタイミングで横に一回転し、鋭い回し蹴りを繰り出した。

 俺の頭部を正確に狙った軌道。それを、後方へ身を反らすことで掻い潜る。

 空振りしたジークの次なる行動も、隙がなかった。

 爪先が空を切ったやいなや、彼は着地させた足を軸足にして再び一回転し、今度は握りこんだ拳を突き込んできた。

 強い踏み込みと共に俺の腹を狙う拳撃。

 顔を狙ったものであれば、顔を左右に逸らして回避できる。

 それ以外――手足を狙ったものであれば、さらに勢いをいなすのは簡単だ。

 だが、この距離、この間合いで、ジーク・カンザイという武術流派を体得している者のはやさでもってしての胴への攻撃は、いかんせん回避するには後ろへの跳躍しか退路はなかった。

 背後へのめっていた体勢で、さらに後ろへとステップするようにして跳躍する。

 ジークの拳撃の、間合いから外れた……はずだった。


「――――っ!」


 腹に強烈な衝撃が迸る。

 ジークの拳からは逃れていた。

 何故だ? ――と訝ってすぐに、腹を襲った攻撃がジークが飛ばした拳圧だと悟る。

 三年前もやっていたが、やはり、拳圧を飛ばすというのはよくわからないな。衝撃波を発生させているということだろうか。でも、それにしてはジークの拳速は遅すぎる。

 まあ、俺が対処するスピードとしては速すぎるほどの域だが。

 衝撃波を発生させるには程遠いというか……。

 まあ、武術の中には暗示によって本来以上の戦闘能力を発揮させる流派もあるから、そこまで首を捻ることもないだろう。

 腹に受けた衝撃は、瞬く間に全身へと広がっていく。水面に礫を投じた際、波紋が広がっていくように、全身を駆け巡っていく。

 さながら衝撃波は、外部からだけではない、内側からも俺の身体を打った。

 背中から床に倒れる。

 だが、打ち付けた背よりも、腹の方が熱かった。

 ダメージが腹の筋肉に残留している。

 腹筋にわずかでも力を入れれば、途端に痛みが返ってくる。

 そのせいで、起き上がるモーションがにぶい。

 腹筋の鈍い痛みは、すぐに引いていく。

 だが、体に奔った衝撃の感覚は抜けていかない。

 自分の息が荒くなっていることに気づいて、大きく息を吐き出した。

「錬気、使ってもいいんだぜ?」

 挑発するような口調で、ジークが言う。

「……そうかい」

 別に血を吐いたわけでもなかったが、口許を手の甲で拭って、そう返した。

 俺とジークの間合いは約四、五メートルほどか。

 互いに受けたダメージは、総合的に見れば五分五分か。さすがに、この時点で俺のダメージの方が大きいとは思えないが。

 本当に錬気使ってやろうか――一瞬そんな考えが浮かぶが、すぐに打ち払う。

 ジークはさながら、挑発するかのようにくいくいと手招きするような仕草をする。

 いや、おそらく彼は本当に挑発しているのだろう。

 先ほどから仕掛けるのはいつもジークの方からだけ。カウンターばかり狙ってないで俺の方からもやってみせろ――そう、彼の不敵な視線が語っている……ような気がする。

 挑発に乗って仕掛けてやるのもいいが、今はまだそこまで乗り気なわけでもない。

 そもそも俺の性分的には、積極的に仕掛けるよりかは守りに徹する方がいい。

 動かない俺に、ジークはやれやれと言うかのように首を振る。

 そして、再び構えを取り、突進してきた。

 正面から飛来する拳を右に踏み込んで躱し、すれ違いざまジークのそのうなじに向けて手刀を振り下ろす。

「らぁっ!」

 ジークは身体を大きく捻って、無理やりに俺の手刀を受け止めた。

 俺の手首を掴んだまま、ジークがさらに身体を回す。

 ぐい、と俺の身体が前に引かれる。

 前傾姿勢になったところへ、ジークの肘鉄が背中へ落とされる。

「がっ――!」

 肺の中の空気が、外からの衝撃によってほとんどすべてを吐き出される。

 身体が浮き上がる――否、体勢が崩れて、床に倒れこもうとしているのだ。

 背後で、ジークが追撃を振り下ろそうとしているのを肩越しに見た。組んだ両手を、ハンマーを振るうがごとく俺の背中に叩き込もうとしている。

 まあ、ここで言い訳するならば。


 ――そもそも俺は勝ちたいわけではないのだ。


 ハンマーめいたジークの一撃が、背中に振り落とされた。

 背中に強い衝撃が奔り、次いで床に叩き付けられる。

 二度の打撃に挟まれて、俺の意識が揺れる。

 倒れ伏す俺に、ジークが追撃を仕掛けることはなかった。

 すぐに起き上がろうとしたが、身体に残っているダメージが響くのか、身体を支える腕が震える。ふらつきながらも立ち上がると、ジークの姿は既に俺のそばから離れていた。

 ――仕切り直し、という意図か。

 ――それとも、もう終わってよいということなのか。

 俺個人としては後者を所望したいところであるが、そうそう旨くいくものでもないだろう。

 ジークが構えを取る。

 その動作だけで、彼が間合いを開けた意味は知れた。

 溜め息をつきたくなるのを呑み込んで、俺の方も最初に取っていたような構えを取る。


 ぐっ、と。

 ジークが拳を振りかぶるような動作をする。


 こんなにも離れた間合いでは、拳を振り抜いたところで俺に攻撃が当たることはない。

 であれば彼の意図するところは――、


 拳圧が来る――!


 ――と瞬時に悟る。

 俺が左手を前方に出すのと同時、ジークが拳を振り抜いた。

 衝撃の塊が左手に触れるのを、感じる。

 衝撃が爆発して左手を弾く――その前に、左手の中で膨らんでいく静かで力強いその流れに逆らい、左手を下へ――床へと叩きつけていた。

 左手に受けた衝撃波が、床で弾けた。衝撃波が、左手を起点に床に広がっていく。

 何のことはない。

 ただ受けた衝撃を、床へと逃がしただけのこと。けれど、直撃を受けた左手そのものはもう使い物にはならない。

 衝撃波こそ床に流したが、その爆発をもろに受けた左手は、今や痺れて動作が緩慢だ。


 ――仕方がない。


 使えなくなったなら、潔くそれを受け入れる。

 別に、再起不能なほどの重症なわけでもないんだし……。

 俺の前方で、ジークが呆けた表情で固まっている。

 俺が取った対処法が、よほど想定の範囲外だったのだと見える。

 まあ、そんなにほいほいできることじゃないしな。

 俺がやってのけることができたのは、ひとえに前世でそういう技術(・・・・・・)を習得する機会があったからだ。

 ……やっぱり、意地を張って披露したりするんじゃなかったな。

 もうやってしまったことをじくじくと詰ったりするつもりは毛頭ないが、後悔――というには大袈裟かもしれないが、そういう類の念はやはりわずかにでもあるもので――、


 そんな感情を振り切るわけでもないが、今度は俺の方から動いた。


 前傾姿勢で、ジークめがけて突っ込む。

 俺とジークの距離が、すぐに詰まる。

 しかし、ジークはカウンターを狙うように、拳を振り抜いていた。

 仕掛ける俺と、迎え撃つジークと。この瞬間、俺たちの立場はそれまでとは真逆のスタイルを取っていた。

 ――しかし、辿る結果までもが同一なわけではない。

 先に動いたのは俺でも、あくまでも攻撃に転じたのはジークの方が先だった。

 真正面から俺の顔に迫るジークの拳。

 それに真正面から攻撃をぶつけようなんて最初ハナから考えちゃいない。

 まっすぐに突っ込んでくる拳ではなく、その手首を、横から掴む。

 果たして――ジークの身体が、突如として上に打ち上げられる。無論、俺の仕業ではあるのだが……。

 空中に投げ出されたジークの顔に、まぎれもない、驚愕が現れる。

 彼は数メートルほどまで上に飛び、そのまま落下してくる。

 落ちてくるその腹に、掌底を打ち込む。

「――ぅらあっ!」

 墜落するジークは、宙で身体を回転させて最後の抵抗を試みる。

 掌底が弾かれる。

 地に足をつけてもいないのに、ジークはすさまじい回転力を叩きだしていた。

 しかし、ジーク自身も空中で回転を止めるすべはないらしく、頭から真っ逆さまに床へ落ちた。

 ドサッという、重量が地に衝突する音。

「……なあ」

 クラクラするのか、頭を振りながら立ち上がりかけるジークへ、問いを投げる。

「んあ?」


「これ、いつまで続けてりゃいいんだ?」


 今さらな話ではあるのだが――。

 これはそもそも組み手の練習であり、勝負事とは無縁――であるはずだ。

 であったからこそ、勝利条件など特に提示などしなかったし、だからこそこの練習・・に一区切りを入れるタイミングが今までわからなかった。


 だが、さすがにもう休憩を挟むべきではないか……?


 そう思い、ジークに遠まわしに行ってみたのだが……。

 ジークと俺の視線が、一瞬、交差する。

 ふっ、と息を吐き出し、脱力するように深呼吸するジーク。

「……ああ、一端休むか」

 言って、ジークは再びゆっくり吐息をつく。

 休憩が告げられた途端、身体から力が抜ける。

 別に、もうへとへとなレベルで披露しきっていた――というわけではなかったが。

 それでも、練習というにはあまりにも手抜きできない組み手だった。

「はあ~。おまえ、前より断然に伸びてんな。本気じゃなかっただろ?」

 さっきまでの攻防を振り返るように、ジークが気軽な口調で話を振ってくる。


 ――本気じゃなかったって、当たり前だろう。

 ――俺にとっての本気っていうのは――相手を殺すってことなんだから。


 殺す気で……とかそういうものじゃない。その通りに、殺しに行く。そういう前提がないのであれば、俺にとってそれは本気じゃないのと同義なのだ。

 もちろん、これは一般とはいささか異なる俺個人の意見主張に過ぎないのだが。


 客観的に言うならば、大抵の人間は殺せる。


 実力で殺せる、という意味ではない。

 戦闘のみが、殺害の手段であるわけではない。

 毒殺、病殺……ヒトを殺す方法なんて、それこそ数えきれない。

 そういう意味で言えば、俺が本気を出せる相手も手段・・も、実はかなり多いということになるのだ。

 もちろん、組み手の練習程度で本気を出したりなど、しない。

 たかだか練習で殺人事件など莫迦げている。


      ◇


 休憩の後、今度はジークとグランバルトが魔法を織り交ぜた模擬戦をし(リュウトは審判役を押しつけられた)、その後はまたリュウトとジークが組み手の練習。

 そして最後に、リュウト、ジーク、グランバルトの三人で何でもアリのガチバトルをバトルロワイヤル形式でやろうということになった。

 リュウト的には、精神的にやや飽きてきたのでもう終わりにしてほしかったのだが、どうしてもとジークが食い下がった結果だった。

 訓練室にいるのは、相も変わらずリュウト、ジーク、グランバルトの三人だけだ。

 広々とした部屋の真ん中で、それぞれが互いに睨み合い、牽制している。

 一応、まだ始まったわけではないのだが……。

「それじゃ、始め!」

 グランバルトの投げやりな口調で、開始が宣言される。

 投げやりで、あまりに緊張感に欠ける声音。

 しかし、直後に起きたのは、学生の域から片足を出しかねない攻防の前兆だった。


 ――前傾姿勢に構えを取り前へ進もうとするジーク。


 ――両手を胸の前で合わせ合掌のポーズで後ろへ跳ぶリュウト。


 ――わずかに遅れて、グランバルトの手に魔力が収束していく。


 ジークの狙いはリュウト。そしてグランバルトの狙いも同様にリュウト。

 ニ対一の状況。

 リュウトにとってはやや不利である。

 しかし、リュウトが不満を口にすることはない。

 何でもアリということは、何をしてもいいということだ。……無論、リュウトの価値観で言うところの「本気を出す」のはアウトであろうが。

 リュウトの身体から、青い光が溢れ出てくる。

 ジークが即座に止まり、固く握りこんだ拳を振りかざす。

 グランバルトの周囲に無数の魔力の塊が形成される。

 そして――、


「――、―――『ドープ』」


 さりとて音のない訓練室に響く、リュウトの詠唱。

 肉体の能力を高める魔法が、発動する。

 リュウトの姿が、消える。

「――――!?」

 今まさに拳を振り抜こうとしていたジークの動きが、止まる。

 まさに発射一歩手前だったグランバルトの魔力弾が、発射されずにその場に停滞する。

 驚きに目を見開き、二人は冷静にリュウトがどこにいるのか探ろうとする。

 そして、瞬時にジークはその場から真横へと跳躍する。

 先程消えたリュウトの姿が、ジークがいたその場所のすぐ近くにあった。もしジークの退避が一瞬でも遅かったら、瞬く間にリュウトの攻撃を貰っていたことだろう。

「――――ひゅ~」

 軽口の代わりに口笛を吹き、ジークはリュウトを見た。

 身体中から溢れ出る青い光が、さながら竜巻のように彼の身体を取り巻き、渦を巻いている。

 身体強化魔法にしては、かなり濃い色だな……とジークはそんなことを、ふと思う。

 そして、一泊の間の後、再び戦端が開かれる――ことはなかった。


 ――それは唐突に訪れた。


 訓練室の扉が、ガチャリと音を立てて開く。


 扉の隙間から、尋常ならざる気配が漂ってくる。


 戦っていたはずの三人の意識が、強制的にその気配のもとへ惹きつけられた。


 訓練室にいた三人の視線が、そちらへ集中して――はたと、釘づけになる。


 開かれた扉から覗く、異形の手があった。


 黒く、細長く、大きい手。


 おおよそ人間のものとは思えない攻撃的な形をして、その実その手は見間違いようもなく人の手の形をしていた。


 扉が、ぎい、と音を立てて全開する。


 訓練室の扉には、見たこともない人型の怪物が立っていた――。

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