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転生者の苦悩 ~呉呉末  作者: 近藤 了
 第三章 再来の襲
80/102

4,定期戦1日目(2)

『決まりましたあアァァ! 激戦を制し、最後までエリア内に立っていたのはソージックのレイディオ選手とシュルマック選手! ソージックチーム、見事「ハイ・サヴァイヴ」新人戦優勝ォォォ!!』


 実況シャルル・シゲキの声が、会場内に高らかに響く。

 時刻は午後の六時を過ぎる頃。

 一日目の最終競技、『ハイ・サヴァイヴ』の新人戦がたった今、終了した。

 結果はソージックが二勝、ラスパーナが一勝一敗、レタデミーが二敗で、ソージックの優勝だ。

「また今年もフラグ立てはなかったな」

 隣のテラが、そう愚痴る。

『ハイ・サヴァイヴ』の勝利条件は二通り。

 敵選手を全員戦闘不能にさせるか、敵陣地にフラグを立てるかだ。

 そして、毎年毎年本戦でも新人戦でも、前者での勝利が通例になりつつあり、フラグ立てによる勝利というケースはほとんど見られない。というより起こらない。

 もっとも、俺が新人戦で出た時は、一回だけあったけど。

 わざわざ敵陣まで行って一本しかないフラグを立てるより、敵を全滅させる方が早いのだから、ある意味こうなる傾向は頷けるか。


 さて、これで、今日の競技はすべて終了だ。

 後は簡易的な閉会式の後、それぞれの学校で確保した宿に戻ることになっている。

 試合が終了して、観戦席はにわかにざわめきだしていた。

 定期戦の三校の生徒はこのまま残って閉会式にも臨むだろうが、そうでない一般の観戦客たちには、最後まで見届けなければならない義務も義理もない。

 今日の試合を見てきて得た興奮を、冷めやらぬうちにそれぞれで語り合いながら、彼らは席を立っていく。

 一般客の中にも、閉会式の最後まで見届けてやろうという物好きは少数ながらいるが。

「……終わったわね」

 膝の上に乗せた両の手で頬杖をついたリーンが、疲れたような声音でそう呟く。

 退屈だと言わんばかりに、大きな溜め息までついてくる。

 まあ、俺も結構退屈してるけど。

 今この場には、俺とセイラとリーンがいる。

 リンとテラは、閉会式で列に並ぶためにここにはいない。リンは『コドー・ファイナ』本戦の選手、テラは『ハイ・サヴァイヴ』本戦の選手だ。

『ハイ・サヴァイヴ』新人戦において、最後の試合であるソージック対ラスパーナが始まった途端、二人は席を立った。

 閉会式の列には、一応、全種目の選手が並ばなければならない。

 つまり、二日目に出場する選手であろうと(つまり、一日目に何もしていない選手であっても)、列には参加しなければならない。

 リンとレンは今日が試合だったが、今日出番なわけでもないのに列に並ばなきゃならないテラは、少しばかり気の毒ではある。

 試合場には、既に選手たちの列ができつつある。

 あの中に、リンやテラやレンがいるのだろうか。

 そんなことを考える間にも、どんどんと列は整っていき、一日目の閉会式が始まった。

『ただ今より三校総合定期戦〝一日目”閉会式を始めます』

 スピーカーで拡大された音声が、試合場に響く。

 声の主は、シャルル・シゲキではなく、定期戦委員会役員の一人である。

 さすがに、こういう式の進行役までは任せられないということだろうか。

『初めに、定期戦委員会会長デロイド・セクター氏よりお言葉を』

 選手たちの列の前に並んでいた委員会の役員たちの中で、黒い背広を着こんだ初老の男性が一歩前に出て、話し始める。

『本日の試合、勝利に鬨の声を上げる者、敗北に嘆きを上げる者、三者三様にいろいろな結果が出ましたが……』

 毎年毎年、内容が変わらない話だ。

 俺が一学年の時から、たしかあの老人が会長だったように思うが、そろそろ交代してもいいんじゃないだろうか。

『……でして、競技はまだ明日もあります。最後まで、死力を尽くして、この定期戦に臨まれますことを期待しております』

 一礼して、セクター氏は一歩後ろへさがる。

『第一目の競技結果。第一種目「プノ・フィース」優勝……』

 続いて、今日行われた各競技の優勝チームの発表が行われる。

 表彰式は明日、二日目の競技の結果の発表と同時にすべての競技のものが行われる予定だ。

 今のところ、三校の間で特に大きな差はない。

『プノ・フィース』本戦優勝がレタデミー、新人戦優勝がラスパーナ。

『コドー・ファイナ』本戦優勝がラスパーナ、新人戦優勝がレタデミー。

『スカイ・ファイラ』優勝がソージック。

『ハイ・サヴァイヴ』新人戦優勝がソージック。

 ……という戦績だ。

 可もなく、さりとて不可もない。

 明日の試合結果次第では、このまま拮抗したままにある可能性もあるかもしれない。

『……では、これより、三校総合定期戦一日目閉会式を終了します』

 アナウンスの音声が、閉会式終了を告げる。

 定期戦委員会の役員たちが頭を下げて一礼し、観戦席にいる者たちが一斉に拍手する。一応、俺も拍手した。


 こうして、定期戦の一日目は幕を下ろしたのだった。




 閉会式が終わり、俺たちはバスが停められている駐車場へ向かっていた。

 リンとテラたち正選手とは別行動で、バスの中で合流する予定だ。

 ラスパーナの生徒もレタデミーの生徒もバスで移動する予定らしく、二校の制服もちらほらと見られる。数で言えば、明らかにソージックが一番多いだろうが。

「おい」

 ――と声をかけられたのは、十学年用のバスを探している最中だった。

 茶色くて丈の長い、軍隊の兵服めいた制服。レタデミーオルドー校の男子生徒だ。

 背が高く、どことなく攻撃的な印象の顔立ちに、さらに印象的なのが青空のようにすがすがしい薄い青色をした瞳だった。

 どこかで会ったような気がする……と思って、思い出した。

 三年前の新人戦で対戦した“猫”の獣族の少年である。名はたしか…………………………グレンといったはずだ。

「……何か?」

「何か、じゃねえ。俺のこと、忘れたとは言わせないぞ」

 ……いや忘れるでしょう。

 たまたま覚えやすい名前してたから覚えていただけだし。グレン以外のもう二人の獣族とかはもう名前も覚えてないし。

 試合で一回戦った程度の相手をたったそれだけで覚えるには、相当な印象が必要だと思うが、残念なことにそこまで強烈な印象ではなかったようだ。

 だが、ここでわざわざそのことでさざ波を立てるようなこともするまい。

「取り巻きは今回は連れてないのか」

「……取り巻きじゃ、ない」

 嫌悪感をつのらせた声音がグレンの口から絞り出される。

 こっちは半分くらいはジョークのつもりだったんだけどな。というか、記憶を掘り返してみても、あの二人はほとんど取り巻きみたいな感じだったと思うんだけど。

 俺が首を傾げてみせると、グレンは見るからに苛立った。露骨な舌打ちさえ、聞こえてくる。

 そうとう、気が立っているらしい

「ふざけるなよ」

「……何の用だ?」

 憎しみとも言えるくらいに睨んでくるグレンに、用を訊ねる。

 悪態をつくだけならば、正直迷惑この上ない話なんだが。

 俺のその態度がまだ気に入らないのか、グレンの片目がひくっと痙攣する。

 グレンって、こんなに怒りっぽい奴だっただろうか?

「お前、今年も選手として出ないつもりなのか?」

「は?」

 いきなり何言い出すんだこいつは。

「お前は、今年も選手ではないのか」

「……そうだけど」

「何故だ?」

 何故? ――と問われてもな……。

 普通に前に出た時は補欠だっただけだし。

 基本的にソージックの定期戦レギュラー選出には、選出される本人の意志も尊重されるしな。

 いくら選手候補に選ばれても、本人が出場したくないって言えば正選手には選ばれんからな。

 ……でも、それを言ったらグレンの怒りを買いそうだ。

「……今回は、俺よりも適任な選手が選ばれた」

「……ふ、そうか」

 俺の誤魔化しの説明に、グレンの目がすっと細められた。

 さっきまでの怒りはどこへやら、彼の視線にはこちらを冷笑する光がある。

「……で、取り巻き二人はどうしたんだ?」

 冷静になったグレンに、再度質問を投げかける。

 案の定、グレンはその瞳に鎮まりかけていた怒りの炎を再燃させて、俺を睨みつけた。

「人の話を、聞いていたか?」

 剣呑な空気が、グレンから漂いだす。

 友達を取り巻き呼ばわりされるのは、相当厭、ということなんだろうが……。

 獣族は仲間同士の結束力が強いと聞く。仲間意識が高いのであれば、この反応も納得できるのかもしれない。

 そんなどうでもいいことを考えている間にも、グレンの目には俺への怒りが燃え盛っていった。

 果たして、まさに一触即発のこの空気を壊したのは、俺でもグレンでも、置いてけぼり状態になっているセイラでもリーンでもない、外部からの一声だった。

「おーい、リュウト」

 声の方を見ると、そこにはテラたち正選手組の姿が。

「もうほとんどみんな集まっちまってるぞー」

「……時間か」

 一言、それだけを呟いて、グレンは踵を返して行ってしまった。

 ……興ざめした、ということだろうか。

 グレンが充分に離れたところで、それまで沈黙していたセイラがそっと声をかけてくる。

「リュウト君、あの獣人・・と知り合いなの?」

「知り合いっていうか…………」

 セイラの問いに答えようとした時だった。


「獣人じゃない!!」


 轟くように大きな怒声。

 先ほどまでより遥かに大きく、激しい、怒りが込められた声が、俺たちの鼓膜を震わせた。

 誰の声か――そんな疑問は、ハナから浮かんだりはしない。

 グレンだ。

 怒りを通り越して憎しみの憎悪さえ滾らせて、彼はこちらを睨みつけていた。

「……地雷踏んじゃったかな」

 セイラが小声で、そんなことを言う。

 あれだけの敵意を向けられながら、あっさりとした態度は崩れない。普通の女の子なら、突然あんな大声で怒鳴られれば腰が引けてもおかしくないだろうに。

 つくづく、彼女の精神的な強さがわかる。

 もっとも、五か月もの時間を同じ屋根の下で一緒に生活していれば、このくらいはわかりきってしまうことだが。


 ……だが、今考えるべきはそのことではない。


 セイラの言う通り、どうやらセイラの言葉は、グレンにとっての地雷だったらしい。

 充分に距離が離れていたが、獣族の聴覚をもってすればあの程度の音量を拾うことなど、わけもないのだろう。

 憎悪に歯を食いしばりながら、グレンがづかづかとこちらへやってくる。

 殺意すらちらつかせて、彼の視線はセイラへと突き刺さっていく。


「獣人ではない! 俺たちを、その名で呼ぶな!!」


 びしっ、と人差し指をセイラの方へ突きつけてくる。

 そのままセイラを突こうとせんばかりの気迫だった。周囲の生徒たちが、何事かとこちらへ視線を向けてきている。


「……いいか、今後! 二度と! 俺たちを、獣人・・なんて汚らわしい名で呼ぶな!! いいな!!」


 先ほどまでとは比べ物にならないほどの怒気を発散させながら、グレンは言葉言葉にその激情を孕ませ、セイラに向けて怒鳴りつけていた。

 あわやそのまま暴力沙汰になるかと言わんばかりの雰囲気だったが、幸い、グレンは言うだけ言うと、鼻息も荒く肩を怒らせて踵を返していった。

「…………何あれ」

 しらけた調子で、セイラがぼそりと呟く。

 先ほどの教訓か、限りなく音量が抑えられていた。グレンとの距離も、かなり空いている。

「……“獣人”って単語は、獣族の人間にとっては禁句なのかも」

 今までそれほどの違いがあるとは思わなかったが、考えてみれば獣族獣族とは言っても、獣人と言うことはない気がする。

 どうやら獣族も、いろいろ面倒な民族らしい。


 ――獣人。


 一体、彼ら獣族にとって獣人というのは、何のことを指しているというのだろうか?

 ……いろいろ勘ぐっても仕方ないが、ふと気になった疑問ではある。

「おい! リュウト! 早く来いってー!」

 遠くから、テラが叫んでいる。

 俺たちは、自分たちのバスに向かって歩き出した。


      ◇


 時間は少々さかのぼる。

 今日最後の競技である『ハイ・サヴァイヴ』も終わり、閉会式もたった今終わった。

 この後の予定では、駐車場に駐めてあるバスに乗り込み、学校側で確保している宿に向かうことになっている。

 観客席に座っていた各校の生徒たちが、次々に立ち上がり移動していく。

 だんだんと、席が空になっていく試合場内。

 そんな中、サムも移動すべく席を立った。

「ハヤテ、早く行こうぜ」

「くー、くかっ?」

 今の今まで居眠りをこいていた友人のハヤテに、そう呼びかける。

 間抜けな声をあげて、眠りから覚めるハヤテ。

「あがっ? もう終わったのか?」

「寝ぼけんなよハヤテ。もう六時過ぎたよ」

「は? ……うおっ」

 サムの告げた時刻に、ハヤテは首を傾げたが、すぐに意味を悟り、ガタンッ、と立ち上がった。

「そこまで驚くことじゃないと思うけど」

 冷静に、サムはそう指摘する。

 まだ寝惚け気味なのか、ハヤテは「は? は?」と首を振って周囲を見まわしている。

「さ、早くバスに戻ろう」

 頭を振るハヤテを促して、サムは出口の方へ足を向けた。

 ――と、その道中、視界の端に気になるものを捕らえる。


 黒い本。


 それが、サムが抱いた偽りない印象だった。

 もはや人のいなくなった観客席の一席の上に、ぽつんと置かれている。誰かが暇つぶしにでも取り出して、そのまま置き忘れたのだろうか。

 本が置かれている席の位置からすると、本の持ち主はソージックの生徒である可能性が高いが。

「どうした、サム?」

「いや、ちょっと」

 ――別に、持ち主に届けてあげようなんて親切心が働いたわけではない。

 例年、定期戦というのは巨大な規模の施設にて行われる。

 この試合場も例外ではなく、観客もかなりの数であった。サム自身、本が置かれている席にどんな人物が座っていたかなど、わかろうはずもない。

 仮にソージックの生徒であると当たりをつけたとしても、ソージックの生徒はサムやハヤテ含め、全学年が来ている。その数は当然、ラスパーナやレタデミーの生徒数を上回っている。

 その中から、あの本の持ち主を探し出すのは至難であるのは明白だ。


 ――ただの、興味でしかなかった。


 何故か、その黒い本はサムの意識を引き付けた。

 手に取ってみるくらいは別に構わないだろうと、そう思ったのだ。

 近づいてみると、それがどれほど擦り切れているものなのかがよくわかった。

 黒い革張りの装丁なのだが、タイトルは擦り切れて線同然になってしまっている。わずかに覗いている紙のページ部分も、かなり酸化が進んでいるらしく黄色いシミが目立つ。

 手に取る。

 表紙をめくって、ぱらぱらと内容を流し読んでみる。

「………………うわっ」

 気分が悪くなった。この本を書いた著者は、相当に頭がイカレた人間ではないか。

 サムの背後から覗いていたハヤテが、どうしたと言わんばかりの表情でサムを見る。

 無言で、サムは本をハヤテに渡した。

 受け取り、中身を読んだハヤテは、

「…………おえ」

 とサムと同様に、顔をしかめた。

「あん、だよこれ。頭、おかしんじゃねえの作者」

「……同感」

 むせながらも悪態をつくハヤテに、サムが同意の言を発す。

 定期戦で高揚していた気分も、これでは台無しだ。

「……これどうすんだ?」

 眉間にしわを寄せながら、ハヤテは本をどうするのか訊ねてくる。

「まさか、持って帰るわけないだろ! ほっとこう」

 とんでもない、とサムは言う。

 この本をホテルへ持ち帰ったら、この嫌な気分がずっと続く気がする。サムとしては、この本のことなどさっぱり忘れてしまいたかった。

 それはハヤテとしても同意見だったらしく、反論もせずに、彼は本をポイと放り投げていた。

 放られた本は、ゆっくり回転しながら、観客席の群れの中へと消えていった。


 ――そういえば。


 サムはふと、思った。

 あの本のタイトルは、結局何だったのだろうか?

 気分が悪くなるような内容のせいでもう見たくもないが、何故か、そんなことが気になった。

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