13,解放への願望(6)
◇
夏の空には驚くほどに雲がなく、月光と無数の星の光で、大体周囲の状況が視認できた。
潮の香りが風に乗って漂ってくる。
深夜、遅くになって、海辺に行くことがある。
その時の目的は、決まって一つだった。
海の水面に、手をかざす。
ひゅごっ、という風音が一つ。ナオトの背後から吹き抜けていく。
風は、だんだんと強くなっていく。
ひゅおおぉぉぉ……、という音を聞きながら、ナオトは思う。
何故この力を使ってはいけないのか?
風が吹き荒れる。
羽織っていた半被が、うるさいくらいにパタパタとはためく。
その気になれば、台風にも匹敵する風力を発生させることができる。残念なことに、実行することはできないが。
そんなことをしてしまえば、ナオトがこの力を使ったことが母親にバレてしまう。
幼い頃から、父と母には力を使うなと言われてきた。
このことがバレれば、ナオトはただでは済まないだろう。
絶対に、他の誰かに知られてはいけない。
ナオトの家系は、旅館の経営の他にも一つだけ、代々受け継ぎ続けているモノがあった。
魔法を介さない超常現象の発生。
それを何と呼称するか、ナオトは知らない。
でも、これが他の人間たちにはない、特殊な能力であることはわかっている。
幼い頃から、それこそ物心ついた頃から、ナオトは周囲との違いを認識していた。
自分が、他の大勢にはない稀有な才能を有しているのだと、知っていた。
ナオトが、自分は選ばれた存在であると増長するのは、ある意味当然の道筋だった。
この能力は、母からの遺伝である。
婿養子である父は、この力を有してはいなかった。
――だから、交通事故なんかであっけなく命を散らしたのだ。
もう、十年以上昔のことだ。
ナオトはその時のことをよく覚えていない。
深く考える必要もない。
力がある者だけが生き残り、力のない者は自然に淘汰される。
世界戦争時代、どこの国でも当然だと言わんばかりに唱えられていた言葉である。当然、このジビロン国でも……。
今の時代は、あまりにも生ぬるい。いつまた戦争が起こるともわからないのに。
前回はジビロン国と同盟関係だったラスパーナ王国とミカド帝国だって、時代によっては敵国だった時期もあるのだ。
そんな中で、自分には力があり、死を与えようとする理不尽に抗う権利がある。
世界の理不尽に、自分は屈したりしない。
――そのためにもまずは、この力を究明しなければならない。
代々受け継いできているというのに、先祖たちはこの能力の隠匿に力を注いできた。
この能力を研究してみようと考える者は、誰もいなかったらしい。
……まったく嘆かわしい。
先代たちは、誰も彼もが向上心のない底辺の人間だったというのか。
自分は、そんな何も生み出せずに終わるような人間ではないのだ。
だから……。
闇色に波をたてる水面に向けて、右手をかざす。
魔法と違い、複雑な式を組む必要も、詠唱を唱える必要もない。
ただ、強くイメージすればいいだけだ。
ナオトのイメージが、強力な念力を起動し、その力が向かうべく定められている方向性に従い、現実の世界に影響を及ぼす。
――風が、生まれる。
気圧変化もなく、上昇気流なども生じていない。
そこだけを切り取れば、風属性の魔法と違いなんてないかもしれない。
でも、決定的に違う。
風属性によって変質させた魔力とは違う、本物の空気の動きだ。第一、魔力は一切使われていないわけだし。
ざーざー、と波音をたてる夜の海の上に、嵐を思わせる強風が渦巻いていく。
ナオトは、今日は思い切ってどこまでいけるかを検証するつもりだった。
これまでこうして、真夜中にひっそりと試してきたが、もうまわりに人がいるかもしれないという疑心暗鬼で満足に能力を行使できないのは我慢できない。
これまで一度だって、誰かにバレたことはない。
旅館から距離を取って、人が出歩かないような時間帯を選んで、入念に人がいないかを確認して、
だから、今日も大丈夫なはずだ。少しくらい、いつもよりも派手にやったとしても……。
ずっと考えてきた。
どうして、この力を隠し通さねばならないのかを。
他の人間にはない能力だから?
見せびらかすものではいから?
――違う。
彼らはただ、怖いのだ。この能力が。こんな力を振るう自分自身が。
そんなことだから、これまで何も成し遂げてこれなかったのだ。
「ふん」
鼻から息を吹き出し、意識を切り替える。
余計な雑念は脳内から締め出し、能力に集中しようと努める。
しかし、
今まで滞りなく吹いていた風が、何かに妨害されたように突如として乱れた。
ナオトの意識が、空白の白色に染まり上がる。
見る間に、ナオトの風は消失してしまった。
どうした?
何故?
時間帯?
タイミング?
過剰行使による無意識の疲弊?
いや、それよりも――、
この変化は、人為的なものなのか否か?
「――!?」
その時、背後からかすかに、「ザリッ」という音が聞こえた。
砂利を踏む音。
ナオトではない。ナオトはさっきから、直立不動で手を海に向けてかざしている。
つまり、ナオト以外の人間が、この場にいる……。
さーっと、顔から血の気が引いていくのがわかった。
誰かに見られたかもしれない、という自覚が、ナオトの意識を支配する。
動悸が激しくなる。
脳がこの状況をなんとか打破しようと、フルで回転し始める。
鼓膜を震わす波の音が、今は酷く遠くに聞こえる。
じーんと耳鳴りめいた音さえ、聞こえてくるようだった。
恐る恐る、背後を振り返る。
月光が照らし出す夜の海辺では、その者の黒装束など無意味に等しかった。
黒い外套を羽織った、黒髪黒瞳の少年だった。
見覚えがある、という違和感を抱いて、それが昼と夕方に大浴場へ来た少年であることに気づいた。
旅館の客。
年の頃は、おそらくナオトよりも下だろうか。
黒の外套は前を留めておらず、わずかに見える外套の下は当旅館で貸し出している浴衣だった。
少年は、微笑するでも、睨みつけるでもなく、無表情を顔に張り付けてこちらを見ていた。
「こ、今晩、は……」
自分を落ち着けるため、ナオトは少年に挨拶していた。
そこには少なからず、少年をこの場に留めておこうという算段があった。
会話が始まらなくとも、こちらが話しているうちは、向こうもアクションを起こしづらいだろう、と。
決して、返事を期待してはいなかった。
しかし少年は短く、簡潔に、ナオトの言葉に応えた。
「……どうも」
だが、少年の言葉に、ナオトは欠片ほどしか耳を傾けてはいなかった。
考えろ、考えろ、考えろ。
この少年は、さっきの自分の能力を目撃しているのか?
仮にそうだとしたら、このことを他の誰かに言うのか?
状況を解決するために、どうすればいいのか?
「どうして、この場所に……?」
動揺が残るナオトには、その質問が悪手であると気づけない。
とにかく会話を続けさせよう、その意図によって紡がれた言葉が、逆にナオトを追い詰めてしまうことに。
少年は、わずかに間をおいてからこう切り出してきた。
「先ほど、旅館内で怪現象が起きました」
要領を得ない。
言っている意味はわかる。
怪現象……最近旅館で起きている、原因不明の怪奇現象のことで間違いないだろう。
ナオト自身、旅館経営が困難になっていく現状では忌々しいとも思うが、それが一体、どうしたというのだろう?
「そう、ですか」
「……ええ。それでいろいろありまして、ここに来てみたんです」
意味がわからない。
話がまったく、繋がらない。
怪奇現象が彼の部屋で起きたとして、どうしてそれがこんな場所まで来ることに繋がるんだろうか。
頭の中で思考を巡らせるナオトに対して、少年はふいにこちらを指差し、
「あなたが原因ですよ」
と、とんでもないことを口にした。
言われたことが、すぐには理解できない。
頭の中で、少年の言葉を何度も何度も反芻して、ようやっとその言の意味を理解し、また思考が止まってしまう。
――この少年は、一体何を言っている?
その時、
「ちょっと、ちょっと待チナサイ!」
ナオトのものでも少年のものでもない、第三者の声が割って入ってきた。
ぎょっとして声の方を注視すれば、少年の背後に隠れるように、一人の青年が立っているのがわかった。
その青年のことは、ナオトも一目で誰なのかわかった。
ラスパーナ王国有数の貴族の家系であり、当旅館の常連客でもあるからだ。
「ラッセル、さん……?」
どうして、今の今まで気づかなかったのか。ナオトの疑問は、無理からぬものだった。
ラッセルの身長は、少年よりも高い。
体格も、少年はどちらかと言えば細身であり、ラッセルが隠れようにも無理があるだろう。
普通に少年の背後に隠れていたとしても、すぐに発見できたはずだ。
この月明かりなら、途中でそっとやってきたとしても、その時点で見つけられる。
ならば、ラッセルは最初から少年の背後に隠れて、この場に来たのか?
否。ならばナオトが少年を発見した時に見つけているはずだ。
突然、降ってわいたように思えるラッセルの出現に、ナオトは動揺を隠せない。
一方の少年とラッセルの方も、何やら口論中らしかった。
「聞いてないよ。話についていけないんだけど。彼がポルターガイストの原因って、どういうことさ?」
まさに先ほど、ナオトが思った疑問を口にするラッセル。
少年はさして困った風も見せず、マイペースな調子で答えた。
「言った通り、彼が原因です。十中八九」
「いやだから! どうしてその答えが出るのかって話! 話が飛躍しすぎてるよ!」
声を荒げるラッセルに、少年の目にわずかながら面倒くさそうな色が浮かんだ。
「さっき見ていたでしょう。彼がやってたこと。アレは魔法じゃなかった」
その言葉に、ナオトの背筋に悪寒が奔る。
――やはり、見られていた。
鼓動が再び激しくなる。
見られた。
見られた。
見られた。
見られた。
見られてしまった。
よりにもよって、いつもよりも派手にやってる今夜を見られた。
言い逃れは出来ない。
どうすれば、この状況を切りぬけられるか……。
身体の感覚、視覚、聴覚、ナオトのあらゆる感覚が急速に薄れていく。
それとは逆に、思考はとりとめもなく加速していく。
そして――ナオトの頭に、天啓ともいえる閃きが生まれた。
◇
「たしかに、魔力の活性化の兆候は見られなかったし、あれは魔法によるものじゃなかったのはわかるけど、でも、それがナオトくんの仕業であるとは限らないし、それに、魔法じゃなかったら人間にあんなことはできないはずじゃないか?」
ラッセルは、正論を述べてリュウトに反論する。
対するリュウトの方は、その主張は予想できていたと言わんばかりに反応に薄い。
ただ淡々と、
「彼、結構イタいポーズしてましたよ。海に向かって手伸ばして。あれがただの振りなら、彼はラッセルさんと同じ中二病――」
「その話はいいから! わかったから! でも、それだったらあれはなんでって言うのさ? 魔法以外であんなことができるなんて、聞いたことがない。あるはずがないよ」
「そう、あるはずがない。この世界にないのだとしたら、元々は外の世界のモノだった可能性が高い」
リュウトの言い回しに、ラッセルはハテナ顔で首を傾げる。
言われたことの意味が、イマイチわからないようだった。
「僭越ながら前世の話をしますが、代々特殊な能力を継承する“血族”の一つに、桐生という家系があります。……知りませんでした?」
急に振られた説明にも、ラッセルは理解が追い付かない。
眉をひそめながら、しかし何かを口にしたりはしない。
「まあ、真っ当に生きていればまず知り得る情報ではありませんからね」
「ちょっと待った。やっぱりついていけないんだけど。桐生?」
「はい桐生です。継承している超能力は、空気中の主要な気体分子の運動的な制御。まあ要は、風を起こす能力ですね」
冷めた様子で、リュウトは語る。
風を作りだす能力。
それはつまり、先ほどナオトがしていたことの説明にもなっていた。
「本来、異能というのは一代限りの稀有な能力なんですが、桐生家を始めとする“血族”の能力は例外を除いてほぼ確実に子孫に遺伝し、発現する」
そこまでくると、ラッセルにも大体の筋は理解できた。
しかし、反論せずにはいられない。
「でも、それは僕らの……というか君がいた世界の話だろう?」
「ええ、そうです。だから、元々は外の世界のものだったって言ったでしょう? もし過去に、桐生の人間がこの世界に迷い込んで、そして子孫を残していたら……。可能性としては『ない』とは言えませんね」
淡々と紡がれるリュウトの言葉を、ラッセルは横槍を入れずに聞いていた。
つまりリュウトは、ナオトが異世界(リュウトからすれば前世の世界?)からきた人間の子孫であると言っている。
衝撃的な話ではあったが、それならばそもそもラッセルやリュウトが転生していることも奇想天外だ。
ラッセルは、とりあえず納得することにした。
しかし、ふとある疑問が湧く。
「でもそれが、怪現象とどんな関係があるんだ?」
ナオトが、もしかしたら異世界から来た桐生という家の末裔ではないかということはわかった。
しかし、それだけでは肝心の怪奇現象の説明がついていない。
リュウトはほとんど表情を変えずに、そんなラッセルの疑問に答えた。
「ポルターガイスト現象の原因の一つとして、思春期の少年少女が無意識化で行使する超能力という説があります。実際のところ、異能者の中にはそういうことを起こしてしまうケースが極めて高いんです。彼らは元来、意識的にも念力を発生させられる。精神的にも未熟な思春期であれば、なおさらポルターガイストの発生率は高まるんですよ」
まるで、教科書を読むように、リュウトはすらすらと説明する。
「つまり……」
「つまり、“血族”である桐生家の異能者ならば念力も強力だろうし、幼少期から能力を制御する訓練を受けていないのであれば……ポルターガイストを引き起こしてしまう可能性は充分にある」
言葉を紡ぐリュウトの口調は、断言しているも同然だった。
ラッセルは、ナオトの方を見やった。
もしかしたら、異世界人の血が混じってるかもしれない少年を。
もはや常連になっている、旅館の一人息子の少年を。
ナオトは、俯くように顔を下に向けて、静かに立っていた。
その手が、ゆらりと持ち上がる。
ぞわり、と緊迫した空気が押し寄せてきた。
「――やっば」
リュウトが、そんな苦言を呈するのが聞こえた。
次の瞬間、
ナオトの腕の周囲に、目に見えるほどの風の渦が発生する。
――来る、とラッセルが直感した時には、既に台風の暴力がラッセルたちめがけて発射されていた。
同時に、
リュウトの迎撃もまた、既に行動に移されていた。
「『ウィルベルム』!」
聞いたこともない、魔法の詠唱。
しいて言えば、風属性を付与させた魔法、『ウィル・レイ・ベルム』に少し似ているだろうか・
膨大な風の魔力が、リュウトの掌から放射される。
風と風。
異能と魔法。
この世界で誰もが操れる力と、この世界に本来存在せず、リュウトの前世の世界でも少数の人間のみが行える奇跡の力と。
二種類の力で創りだされた風が、ぶつかる。
拮抗はほんの一瞬だった。
殺意に渦巻いた異能の風は、しかし思いの外大量の魔力を練ったリュウトの風属性の前に破壊を阻まれた。
その一瞬の攻防を、ラッセルはただ呆然と見ていた。
すぐに反応できない。
自分のいる世界が一瞬で塗り替えられた。
身体が、動かない。
軌道を逸らされたナオトの風が、二人の背後にあった岩に激突した。
巨大な黒のシルエットが、いとも容易く砕け散った。
その威力を背中で感じて、ラッセルの意識はやっと現実に戻ってきた。
あまりにも簡単に、あまりにも一瞬で塗り替えられた非現実感に、認識がやっと追い付いた。
「――あ」
声を、絞り出した。
視線は、今しがたこちらを攻撃してきたナオトに釘づけになっていた。
何故?
どうして、攻撃してきた?
攻撃されるようなことは、何もしなかったはずなのに……。
「ラッセルさん」
昼間温泉のサウナで会話した時や、その数時間後に射的場で会話した時とほとんど変わらない平生の声音で、リュウトはラッセルに話を振った。
「ラッセルさんはこういう争いごと、得意だったりしますか?」
「………………魔法科の成績はよかったけど、戦闘実技はからっきしダメだったな」
返答には、たっぷり数秒を要した。
「マジすか……」
乾いたようなリュウトの言葉が、漏れ出ていた。
「リュウトくん、ナオトくんは――」
「目撃者である俺たちを始末しようってことでしょうね、あれは」
「そんな……」
にべもなく言いきるリュウトの言葉に、ラッセルは絶句するしかない。
言葉に詰まったラッセルに、リュウトは無表情で問いを投げる。
「逃げますか?」
「そ、それは、出来るのなら……」
逃避を提案するリュウトに、ラッセルは是非ともそうしたかった。
ここにいるべきではない。
本能の警告が、ラッセルに退去を命じていた。
しかし、
「背中を撃たれる覚悟があるなら逃げてください」
「イヤだよ」
応じるリュウトの言葉は、あまりに無慈悲だった。
ジャリッ、という音がこだまする。
ナオトが、ラッセルたちに向かって一歩を踏んだ音だった。
ほとんど反射で、ラッセルは一歩後ずさる。
しかし、リュウトは動かず、ナオトと対峙していた。
「リュウトくんは、武闘派だったりする?」
「……どうでしょう。戦いが目的でここに来たわけではありませんし、それに、今彼を攻撃するのはまずいと思います」
「どうして……?」
「さっきも言いましたけど、異能ってのはこの世界とは別の、外側のものなんです。多分、この世界の人間には異能なんてものは発現しないようにできてるんだと思います。彼がさっきやったことは、証明のしようがありません。彼とその血族以外に、異能を使える人間なんていないだろうし。正当防衛が通らないかもしれない」
「そんな――」
そんなことをいちいち気にしていたら、それこそその隙にナオトに殺されてしまう。
そしてまさに、こちらに手を向けられるナオトの掌に、豪と唸る風が生まれる。
だが、二人を吹き飛ばそうと吹かれた突風は、またしてもリュウトの魔法の前に阻まれる。
ちっ、という舌打ちするような音が、かすかにナオトから聞こえた気がした。
「どうする?」
「どうもこうも……。死んだ振りでもしましょうかね?」
「そんなふざけたこと――」
まさに、その時だった。
言葉を交わすラッセルたちのさらに背後、旅館の方から、轟くような銃声が鳴ったのだった。
その場の誰もが一瞬、硬直を余儀なくされた。
結果、何が起こったかというと――、
一足早くに硬直が解けたナオトが放った攻撃に、リュウトの反応が遅れた。
突風の音を聞いた途端、ラッセルは横に強く突き飛ばされていた。
さっきまで二人がいた場所を、太い胴をした竜巻が吹き抜けていく。
あまりの異常さにラッセルがぎょっとする間もなく、
竜巻は遥か彼方へ破壊の爪を伸ばしていった。
……非現実感に酔う。
今しがた目の前で起こった出来事が、ラッセルの思考を鈍らせていた。
ただ、目の前で起こった真実が、遅れて彼の意識に染み込んでくる。
――リュウトが、やられた。




